されば悲しきアホの家系(続々々々々々々)

 
 祖母はかなり長生きした。一緒に暮らしていた孫娘(=私の従姉)に彼氏ができる歳頃まで生きていた。

 私が子供の頃、二条の家に住んでいたのは、祖母と出戻りの伯母、その娘である従姉の3人だった(祖父は途中で死んだ)。この出戻りの伯母は水商売をして、従姉らを養っていた。
 特別な能力などない女が一人で家族を養うには、水商売しかない、というわけだ。

 夕方になると、伯母は鏡面の前にどっかり坐って、身繕いを始める。鏡台は2階にあるので、そこで漫画を読んでいる私は、二条の家に行くたびに、伯母のこの身繕いを見る羽目になる。
「チマちゃん、堪忍え。伯母ちゃん、これからお仕事やさかいな」

 そう言って伯母は化粧し始める。美しくない上に太っているものだから、どう手を加えたって大した顔にはならないのだけれど、それでも祇園のホステスらしい外貌を作らなければならないらしい。
 伯母は慣れた手つきで眉を描き、紅を引く。顔を作り終えると、茶色く染めたパーマの髪を綺麗に撫でつけ、着物を着る。太った身体に着物を巻き、帯を締め付けた格好は、さながら極彩色の丸太。

 身支度を整えると伯母は、のっしのっしと階段を下りてゆく。外にはいつも、決まった時間にタクシーが迎えにやって来る。伯母はそれに乗って、夕闇のなかを出かけてしまう。だから、私たち二条の家の来客を、この出戻りの伯母が見送ったことは、ほとんどない。
 
 To be continued...

 画像は、ブラム「化粧する芸者」。
  ロバート・フレデリック・ブラム(Robert Frederick Blum, 1857-1903, American)

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