うちの敷地内に置かれた檻に鹿がかかった。
朝よしのぶ爺さんが、肉にしようと知らせに来た。
こういう場合、ホントは近くの人を呼んで、電気ショックで絶命させて、加工場などに運んでもらうことになっている。
しかし、見るとまだ子ども。1メートルあるけどね。 パニクって逃げようとして、突進するので鼻から出血してる。
放射能の問題も今どうなっているかわからないし、小さいので、もしかしたら殺すだけで引き取らないかも知れない。
そうしたら、僕らでまたあの時のイノシシのように埋めるか、解体して食うかになる。
イノシシも鹿も猿も、この辺りでは立派な害獣。将来の被害を考えたら逃がすなんて許されない。下手すると陰口叩かれてしまう。
でもやっぱり無駄な殺生はしたくない。
よしのぶ爺さんを説得して、口留めして逃がすことにした。
扉を上げると、すっ転びながら逃げて、今度はパニクった勢いでよしのぶ爺さんのため池を泳いで渡り、駆け上がって、小麦畑のネットにぶつかったりしながら、うちの裏山に上がって逃げて行った。
そう、動物って走るだけで土手とか荒れるんだよ。
もう人里には出てくるなよ。頼むから。