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団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

どけ、ババア!

2008年11月18日 | Weblog
 駅のエスカレーターに乗っていた。「どけ、ババア!」と下から大きな罵声が聞こえた。右側のステップを手編みセーターにジーパンの私と同年齢ぐらいの男性が、勢いよく数段飛ばしで駆け上がってくる。その男性を追いかけるようにその男性の妻らしき女性が、私を追い抜いた。改札口へ向かって歩き始めると、5,6名の女性の一団が私のすぐ後ろにいた。「あんなジジイにババアなんて言われる筋合いないわ」「そうよ。それにエスカレーターで追い抜いちゃいけなくなったんでしょ」「あんな男の女房はかわいそうね」どこでも元気で活気ある女性のグループが目立つ。時々私も彼女たちの行儀の悪さには抵抗を感じる。しかし世界のどこにもないこの元気な女性グループの行動力には一目置いている。特に貧しい国々の悲惨とも言える女性の置かれている状況をたくさん目にしてきた。日本の女性が元気で活発に動き回るのを見るのは、嬉しいものである。

 私は「ババア」と聞いてあることを思い出した。その時の怒りは尋常でなかった。アフリカのある国の日本人補習学校で教師をしていた時だった。私は小学校3,4年生を担当していた。隣のクラスから大きな子供の声で「うるせえな、クソババア」と聞こえた。私はすぐその教室の様子を見に行った。小学校1,2年生のクラスである。教師は女性だった。私はその子の前に行き、彼の目線に合わせて膝をついた。彼は5人兄弟のひとりだった。父親は日本の国際協力事業団から派遣されている専門家である。私は「今ババアって言いましたか?」と彼に尋ねた。彼は私の形相に恐れをなして震えていた。「あなたはあなたのお母さんを何て呼びますか?」彼は答えない。「ババアという言葉を使いたかったら、今日からあなたは自分のお母さんをババアと呼びなさい。でもこの先生をババアと呼んだら、私はまた来て今度はあなたを教室からつまみ出します。わかったら首を縦に振りなさい」彼は泣きながら首を縦に振った。

 その後その子がどうなったかは知らない。私は駅で私と同じ年代の男が「どけ、ババア」と言うのを聞いて、あのアフリカの日本人補習学校の男の子のことを思い出した。きっとだれも今までに男に「ババア」という言葉を使ってはいけないと注意した人がいなかったのだろう。

 言葉は、使う人間の奥深くの野蛮さをもろに表してしまう。人間の野蛮さを覆い隠すのが、教養である。「教養とは、気配り、目配り、手配りである」と鎌倉の円覚寺の掲示板に書かれていた。私はその通りだと思っている。ババアと言った男も、言われた女性にも教養が足りなかったと思う。「すみません、通してください」と声をかけ、「あら、ごめんなさい」と道を譲る。それで済めば、すべて丸く収まる。ババアと聞いただけで、気分がふさぎ、悲しくなる。もっともっと教養を身につけたい。そして、毎日できるだけ気持ちよく暮らしたいものである。
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