団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

暗闇の猿

2023年09月28日 | Weblog

  住んでいる集合住宅の階段の踊り場にシャッターがある。以前台風で雨が吹き込んで、エレベーターの床下が浸水した。その後、雨風の侵入に備えて、シャッターを付けることになった。

 妻は、シャッターが閉まった状態が嫌いなようだ。私は、気にならない。朝出勤する時、玄関のドアを開けて、まず踊り場のシャッターが開いているか、確認する。天気が良くて、閉まっていると、フックシャッター棒を使って開ける。「ガラガラガラ」と結構大きな音が出る。私は、他の住民に迷惑になるのではと心配になる。妻は、まったく気にならないらしい。そういう妻の豪気さが羨ましい。昨夜、そのシャッターに貼り紙があった。

 妻を駅に迎えに行くために、玄関を出た。階段が暗い。踊り場のシャッターが閉まっていた。何やら白い紙が貼ってある。駅に急いでいたので、書いてある内容を確かめることなく駐車場に向かった。駅から妻を迎えて帰ってきた。案の定、妻が踊り場のシャッターが閉まっているのを見つけ、「雨降っていないから、シャッター開けよう」と言った。私は、貼り紙を読み上げた。妻が黙った。妻は、猿を怖がっている。家の中で虫を見つけると、ムンクの絵の中の人のような体勢になる。信じられないほどの金切り声を出す。

 何年も前の夏、網戸にしてあった。子猿が網戸を開けて、台所に入っていた。たまたま妻が台所に行き、子猿と遭遇した。あまりの金切り声で、子猿は、居間を横切って、入って来た網戸から外へ走って出た。それ以来妻は、用心深く家の中の窓や戸の鍵をチェックするようになった。

 数週間前、深夜に洗面所の方から「ドォスッシィン」と大きな音がした。妻がトイレに起き、電気を付けようとしたら、スイッチの近くに黒いゴギブリがいたので、驚いてひっくり返って床に落ちた。実際にゴキブリはいなかった。おそらく自分の指の影をゴキブリだと思ったらしい。

 26日27日と集合住宅の植え込みの伐採が植木屋によって行われた。26日は何事もなく仕事をしていた。27日午後突然猿の大集団が集合住宅を取り囲んだ。私は、これは動画で撮って、妻が帰宅したら見せなければと携帯を猿に向けた、すると1匹の猿が、牙をむきだし、私の方へ飛びあがった。ガラスを隔ててではあっても、小心者の私は、ギョっとした。南側と北側に分かれていた。数えると30匹を超えていた。とにかく子猿が多い。ベランダの洗濯物の中から私の首巻用タオルを子猿が引き抜き、タオルで遊び始めた。他の猿たちが竹林の草むらで運動会のように走り回っていた。私のタオルをいじりまわしていた猿も運動会に加わろうとタオルを投げ捨てて、竹林に向かった。

 植木屋は、仕事にならなかったらしい。階段の踊り場にも入り込んだという。30匹を超える集団である。一斉にとびかかられたら勝ち目はない。ここの管理人が貼り紙をしたのは、危険を感じたからであろう。

 福井の恐竜博物館でたくさんの恐竜を見て来た。もう恐竜はこの世に存在していないと知っているから恐くない。でも猿は、現存する。猿は、夜行性でないのが救い。でも恐怖心にブレーキが掛からない。暗闇に猿。身の毛がよだつ。妻を笑っていられない。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする