ネットのニュースに次のような記事が出ていた。『2018年3月、滋賀県守山市の河川敷きで両手、両足、頭部のない、遺体が発見された。遺体の身元は、58歳の女性だった。河川敷きから歩いて数分の家に住む女性だった。その女性は、31歳の娘と2人暮らしだった。この娘は、医学部を目指し9年間浪人を続けていた。遺体発見から3カ月後、警察は、この31歳の娘を死体遺棄容疑で逮捕した。その後死体遺棄、殺人容疑で起訴した。』
私は、『…医学部…9年間浪人…』に関心を持った。私は、15年医学部合格を目指して浪人していた人を知っている。その後その人がどうなったかは、私が日本から出てしまったので分からない。妻が知っている医者でも長年浪人をして医学部に合格した人がいたと聞いている。
私は、長年、塾で英語を教えていた。本当は、英会話だけを教えたかったが、経営上、受験英語に力を入れざるを得なかった。受験に関わると、生徒の家庭の事情というものが、どうしても絡んでくる。日本では、母親が自分の子どもに対して強い影響力を持っていると実感した。「孟母三遷」という言葉が時々頭に浮かんだ。子どもの教育のためなら、住む場所を変えてでも、子どもに教育を受けさせたい。住む場所を変えるまではいかなくても、教育熱心な母親に多く接した。成績が上がらなければ、さっさと私の塾を辞めさせて、違う塾へと移っていった生徒もいた。そういう母親の熱意に圧倒された。母親がどれほど子どもに影響力を持っているのかと驚いた。
私は4歳で実母を失った。後に実母の妹が、私の継母になった。継母も実母同然教育は、家が貧しく兄弟姉妹が多かったので、尋常小学校を途中退学して、子守や働きに出ていた。継母は、小学校に通っていた私から漢字やアルファベットを習った。新聞のチラシで、裏が白いものを集めて、糸で閉じノート替わりにしていた。私は、習ったばかりの漢字などを継母に家で教えた。このことは、私の復習となった。とても私の成績に役立った。
高校の同じクラスに大変成績優秀な女生徒がいた。聞くところによると彼女の兄弟は、皆東京大学に合格しているという。この女生徒が後に「自分は、結婚して初めて、母親にマインドコントロールされていたと悟った」と話した。つまり彼女があれほど成績が良かったのは、母親にマインドコントロールされていたからだったということらしい。彼女は、結婚後とても幸せになれたそうだ。自分の子どもたちには、自分がされたような事はしなったそうだ。だから子どもたちは、それなりにしかならなかったと語っていた。
滋賀県守山市の31歳の女性は、母親を殺害した後、ツイッターに「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と書き込んだ。翌日、彼女は、ホームセンターで買った工具で、母親を解体して河川敷に遺棄した。
受験産業に関わった人間として、私は、31歳の女性にとって、9年間の受験勉強がどれほど苦しく大変だったか分かる気がする。女性が自らの希望で医学部を目指したのでなければ尚更だ。親子関係においても、バランスの取れた、お互いの意志の尊重と理解が必要だと思う。同級生が言った「だから…それなりにしかならなかった」という悟りのような深い言葉に安堵する。