団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

青森がお前をkill

2016年02月26日 | Weblog

 「青森県がお前をkill」という表現がインターネット上で話題になっている。Killとは何とも恐ろしい言葉である。私は「kill」「殺す」や「殺人」という言葉に否定的な反応をして敏感に受け止める。実はこの表現、「全国最下位 短命県ツアー 青森県がお前をKILL」という青森県がなぜ平均寿命が低いのかを体験するツアーの募集キャッチコピーなのだ。言いたいことは理解できるが、はたしてkillという言葉はいかがなものか。

 私は長野県で生まれ育った。長野県はいまでは日本一の長寿県として知られている。青森県と同じく以前は塩分の摂取量が多いなどが原因で短命県であった。佐久市の厚生連佐久総合病院から始まった農村医療改革が功を奏して、全県的な運動となり食生活の改善が進んだ。私はその佐久病院で42歳の時、糖尿病の2週間にわたる教育入院をした。これは私の糖尿病に立ち向かう姿勢を徹底的に変えた。男女合わせて20名くらいがこの教育入院プログラムに参加していた。

 教育入院が始まって2日目のプログラムが終了した夜、40歳代の男性が荷物をまとめ病室を出て行った。「ああするな、こうするな。ふざけるなって言うの。俺は酒を飲みたいだけ飲んで、喰いたいものを喰う。それが俺の生き方さ。こんなところにいられるか。あばよ」 世の中の多くの人は、この男性のように生きている。去年の11月に癌で死んだ友がまさにそうだった。ヘビースモーカーでタバコをどんなにまわりがやめるように言ったがとうとう止めなかった。肺癌だった。彼はよく私に言っていた。「人間、どうせ死ぬんだから、やりたいことをやる」

青森県でも塩分摂取を控えようという運動があっても、多くの人々は慣れ親しんだ食生活を変えない。世界のどこでも大事にされている食文化の多くは、体に健康に良い物より悪い物の方が多い。それを知っていても多くの人々は、長く受け継がれてきた食文化の中にどっぷりつかって、楽しんで生きる。

 「青森県がお前をkill」は青森県の食文化はあなたを病気にしてその病気があなたの命を奪うかもしれませんよ、ということなのだろう。「病気があなたをkill」ならもっとわかりやすいが、過激性はない。その青森県の食文化を体験して実態を知り、自分の生き方を考えてみませんかというツアーらしい。あれだけ気をつけて糖尿病と闘ってきたが、53歳で糖尿病の合併症である狭心症で心臓バイパス手術を受けた。どんなに自分では気をつけていると思っても、やはり人は自分には甘い。私も食欲だけは誰にも負けないくらい旺盛だった。揚げ物、特に豚カツが好きだった。

 再婚した妻に出会ったころ、長野県松本市へロバータ・フラッグのコンサートに一緒に行った。もう20数年まえのことである。♪Killing Me Softly With His Song♪とロバータ・フラッグが素晴らしい声で感情こめて唄った。感極まって妻の手を強く握った。

  Killにもいろいろな使い方がある。暇つぶし、退屈しのぎを英語でkilling timeという。平均寿命が長くなった。長生きが良いのかと疑問に思うことがある。Killing timeしてまで生きていたくはない、と思いつつ「さて今日は何をしようか」と68歳は立ち止まる。「小人、閑居して不善をなす」 クワバラクワバラ。


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