団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

清く貧しく潔く

2016年01月29日 | Weblog

 手元に一冊の本がある。『清く、貧しく、潔く』(ツルネン幸子著 光文社 1100円+税) 

 なぜこの本を読んだかというと私はツルネン・マルティさんにとても興味を持ったからである。彼はフィンランド出身のキリスト教宣教師として来日した。宣教師に私は敏感な反応を示す。なぜならば素晴らしい宣教師にも出会ったが、とんでもないキリスト教宣教師に数多く出会ったからである。その上カナダのキリスト教の多くの宣教師を世界中へ送り出している聖書大学の付属高校へ留学したとき、学校の厳格さに反して学校職員や宣教師や牧師の子弟に不良が多く、グループを組んで悪さの限りを尽くしていたのを実際に見た。大きな驚きと矛盾であった。キリスト教の宣教師が日本に帰化して国会議員になった理由をどうしても知りたかった。

  去年の3月24日ツルネン・マルティさんの長男の弦念多比雄さん(34歳)が東京 世田谷の路上で逮捕された。容疑は22歳の男性に殴る蹴るの暴行を加え、軽自動車を奪って逃走したというものだ。事件の前には付近で停車していたタクシーの運転手に「金を貸してくれ」と騒ぎ、タクシーのボンネットに乗ったりもした。取り調べに対し、弦念多比雄さんは容疑を認めている。

  さてその後である。このニュースはこの日だけしか放送されなかった。翌日からどのメディアも取り上げることがなかった。不思議なことである。これは政治が関わった何らかの報道管制があったのではと私は疑う。テレビ局に電話してみたが、明確な回答は得られなかった。どうやらこの事件は、日本のマスコミの得意とするウヤムヤ作戦に飲み込まれてしまったようだ。

  拙著『ニッポン人?!』の中であるアメリカ人キリスト教宣教師の15歳だった少年についてこう書いている。「東京のアメリカンスクールを退学させられた問題児である。夜中に寮から抜け出して、飲酒した上に、ナイフで路上の車を数十台パンクさせ、日本の警察に逮捕された。未成年の外国人だったため、釈放されたが、学校からは追放された。戻った軽井沢でも悪さのかぎりをつくしていた」28ページ8行目~29ページ3行目 この子以外にも多くの問題を抱えた宣教師の子どもたちに会った。その問題児のどの子も家庭での親の厳しさと世間からの宣教師の子という板挟みになっていた。親の職業や宗教によって犠牲になる子供は驚くほど多くいる。

  私はツルネンさん本人にも家族に対しても何の恨みも持たない。しかし彼をたとえ短期間であれ日本の国会の参議院議員にしてしまった政党と彼に投票した人に尋ねたい。ツルネンさんという人が果たして日本の国政に必要な存在であったのかを。民主党が外国出身のツルネンさんを党の国際性を宣伝するための客寄せ的発想で公認したなら哀しい。私は外国人で日本の国のためにツルネンさんよりずっと貢献できるであろう外国籍の人を数多く知っている。『清く、貧しく、潔く』を読んで、彼がただの日本に住む外国人だと確信した。とにかく本を読んでいると何故という疑問ばかりが点灯した。

  日本ではいまだに金髪碧眼の外国人や親の国際結婚で生まれた子供を日本人のうちにある劣等感の裏返し現象から崇める傾向がある。最近の『ゲスの極み』不倫騒動のベッキーさんも普通の日本人だったらこれほど有名になって騒がれることもなかったであろう。スポーツや芸能界での国際結婚子弟の活躍の裏には、そうなれなかった人たちの苦悩が存在する。親の社会的地位や職業や宗教からくる圧迫に、国際結婚子弟であるという縛りまで加わる。二重苦三重苦を強いている。弦念多比雄さんもその犠牲者の一人だったと思われる。だが親が元参議院議員だったからといって、事件がウヤムヤにされれて良い理由にはならない。

 国際結婚子弟は、両親の出身国の間の懸け橋となって貢献できる可能性を持つ。そんな貴重な存在をフルに発揮してもらえるような日本社会の成熟を願う。それこそ“清く貧しく潔い”を、日本人という以前に人間として、具現できるように生きたいものである。


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