団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

テレビ討論

2010年09月16日 | Weblog
 8月14日8時から10時45分までNHK総合テレビで「日本のこれから 日韓の若者が徹底討論」が放映された。NHKの一歩前進の試みへの勇気に敬意を表する。

 私がカナダの高校で今から46年前、学んでいた時、社会科の授業で「広島・長崎の原爆投下の賛否の討論」が2日間にわたって行われた。2つに分かれた生徒は、最初の日、賛成派になって、次の日否定派として激論を交わした。その日のために1週間の準備期間が与えられた。どの生徒も賛成、反対のための予習をしなければならなかった。私は、日本人だ。日本に原爆を投下されたことに肯定などできるはずがない。私は怒りに震えた。それで終わったら感情だけの話である。反面、私はこの討論形式の授業に人間としての成熟さを感じた。学ぶということは、冷酷で非情なことだと思えた。学問は、感情を持ち込んだら学べないこともあると知った。私は両派になりきって調査予習した。私は肯定側のことで何をどう話したかは、よくおぼえていない。反対側では「百歩譲って、日本に戦争を仕掛けた罪が、日本人にあっても、あの日人間と一緒に一瞬にして殺された犬、猫、蛇、鯉、金魚、スズメ、カラス、鳩、トンボ、蝶、ハエ、ノミ、シラミすべての人間以外の生き物に何の責任もない。戦争をする愚かな人間に、人間以外の生き物を滅ぼすことは許されない」というようなことを言った。白熱した教室の雰囲気の中、拍手がパラパラと鳴り、女生徒で涙を浮かべた者もいた。討論の成績でA+という評価は、後にもさきのも、これ1回だけだった。

 ハーバード大学などのアメリカの大学でもこのような争う両派に分かれ激論を交わし、次に立場を逆転させて再び討論する講座があるという。ハーバード大学のサンデル教授の公開講座が日本でも話題になっている。サンデル教授の『これからの「正義」の話をしよう』早川書房 2300円が売れている。サンデル教授の講座でも教授と学生との白熱した質疑応答が人気の原因だといわれている。アメリカの討論は、相手を論破するという勝ち負けにこだわる戦いだと思う。アメリカの裁判が検察側と被告側の知恵比べ論争にあけくれ、勝訴敗訴の決定を闘うのと似ている。正義とか遵法とは、別次元になっている気が私にはどうしてもぬぐえない。私は、アメリカの方式をそのまま日本に持ち込むことを推奨していない。勝ち負けより、相手の立場にお互いが立つことによって、理解が深まれば良いと考えている。

 今回の日韓の若者の討論も、もう一歩踏み込んで、日本人、韓国人の立場を逆転させて討論してみたらと考えた。サイデン教授が司会したら面白い。日韓双方の文化の成熟への一助になると考える。感情だけでお互いを非難していたら、いつまでたっても平行線をたどるしかない。憎しみや誤解は、そうやって孫の代まで延々と引きずられてゆく。

 今回のNHKの討論に参加した若者の中にさきの戦争を経験した者は一人もいない。すべてが親や家族や文献からの伝承である。何千年、何万年放っておけば、歴史は詳細を葬り、次々と史実を年表の中に数行の無機質な記述に変ってしまう。そうして風化するのを待つか、人間の英知を活かし、科学的に相手の立場に立ち、感情だけでなく深い教養と哲学を持って、相互理解に、相互協力に進めていくかである。 どちらにせよ、NHKが今回のような企画を実行したことを評価したい。願わくば、韓国においても、このような企画が順次、実施されることを願わずにいられない。

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