銀座シネパトスに行って「ノン子36歳(家事手伝い)」を見てきました。
銀座シネパトスの方は、銀座三越のスグ裏という絶好の場所に位置しながらも、予想通り、昔の場末の映画館の雰囲気が残っていて(席の作りは綺麗ながらも、トイレの臭いが籠っている感じ)、さらには前に一杯飲み屋が何件か連なっているのも懐かしい感じがします。
とはいえ、映画の上映中、スグそばを走る地下鉄日比谷線の音がするのには参りました─騒音と言うほどではありませんが─(何しろ、地下一階に作られているので)。
さて、映画の方ですが、何の予備知識もなく見たところ、タイトルから想像されるイメージとは異なって、なかなかシッカリと作られており、全体として随分と良い映画で、ベストテンの第1位になるくらいにまで凄いのかどうかは別として、一部で評価が高いのも肯けます。
何より、物語の構造が、評論家に頼らずとも素人にもよくわかるように作られているのです。
主人公のノン子は、東京での結婚生活を御破算にして故郷(秩父)に戻るのですが、実家は神社で、神主の父親が昔の家長然として高圧的なのです(それらは、伝統というか秩序そのものといえるでしょう)。
ソレに対して主人公はイライラを募らせます(何もかも清算したい感じが漂っています)。
丁度、神社のお祭りに店を出すためにやってきた年下の青年も、そのお祭りを取り仕切る地元のヤクザたちが作り上げた秩序に対していいしれぬ理不尽さを持ちます。
そういった思いが積もり積もって祭りの日に爆発してしまうものの上手くいかず、二人はほうほうの体で一緒に逃げ出します。ですが、主人公は、一方で雄大な山の光景を見つつ、他方で煙草を買いに走る青年の姿を見て、何かがプッツンして、青年をそこに置いて実家に戻ってしまいます(注)。
総じてみれば、いわゆる現在の「閉塞状況」を何とかぶち壊そうとするにもかかわらず失敗してしまい、ただそれで退却してしまうのではなく、またぶち当たろうとする様が描かれているのでは、といったところです(こうした感じは、左翼崩れの評論家が愛好するものではないでしょうか)。
こうしたところから、「おくりびと」を見ると、確かに非常に珍しい題材を取扱っており、ストーリーもよくできていて見る者に鮮烈な印象を与えますが、でもやはり現状の社会秩序の中に納まる予定調和の世界なのではないのか、といった感じになるのかもしれません。
主演の坂井真紀については、これまで「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」と「ビルと動物園」を見ましたが、中では一番充実した演技をしているのでは、と思いました(「実録・連合赤軍」でも大変頑張っていましたが、かなり背伸びしている感じがつきまといます)。
年齢としては小泉今日子より若干若いものの(坂井38歳、小泉42歳)、この年齢辺りの女性を演じさせたら彼女を凌ぐのではないでしょうか。〔もう一人坂井真紀と同年齢の永作博美がいるのを忘れていました!彼女の演技は優れていると思いますが、その童顔でかなり得をしてると言えるかもしれません!〕。
なお、評論家の渡まち子氏は、「親元で衣食住が足りた暮らしを送るノン子は甘えた人間にしか見え」ず、「ノン子がラストに一人でみせる笑顔は印象的だが、熊切作品常連の坂井真紀の大胆な脱ぎっぷりだけが見所と言わねばならないのがツラい」として35点しか与えていませんが、単なる印象だけで評価しているにすぎず、それでは評論家としては失格ではないかと思いました。
(注)最近読んだ伊坂幸太郎氏の『ゴールデンスランバー』には、主人公とつきあっていた女性が、遊んでいたゲーム機から「おまえ、小さくまとまるなよ」と言われて、唐突に主人公と別れてしまうというエピソードが出てきますが、なにかしらこの場面に通じるものがある、という気がしています。渡まち子氏は、青年の「キャラがもっと立っていれば面白くなったものを」と述べてますが、それではこの映画がブチ壊しになるのではと思いました。むしろ、粉川哲夫氏がこの青年を「夢といっても妙な夢をいだき、きわめてフツーのようでそうでもない」男だと規定する方に共感します。
銀座シネパトスの方は、銀座三越のスグ裏という絶好の場所に位置しながらも、予想通り、昔の場末の映画館の雰囲気が残っていて(席の作りは綺麗ながらも、トイレの臭いが籠っている感じ)、さらには前に一杯飲み屋が何件か連なっているのも懐かしい感じがします。
とはいえ、映画の上映中、スグそばを走る地下鉄日比谷線の音がするのには参りました─騒音と言うほどではありませんが─(何しろ、地下一階に作られているので)。
さて、映画の方ですが、何の予備知識もなく見たところ、タイトルから想像されるイメージとは異なって、なかなかシッカリと作られており、全体として随分と良い映画で、ベストテンの第1位になるくらいにまで凄いのかどうかは別として、一部で評価が高いのも肯けます。
何より、物語の構造が、評論家に頼らずとも素人にもよくわかるように作られているのです。
主人公のノン子は、東京での結婚生活を御破算にして故郷(秩父)に戻るのですが、実家は神社で、神主の父親が昔の家長然として高圧的なのです(それらは、伝統というか秩序そのものといえるでしょう)。
ソレに対して主人公はイライラを募らせます(何もかも清算したい感じが漂っています)。
丁度、神社のお祭りに店を出すためにやってきた年下の青年も、そのお祭りを取り仕切る地元のヤクザたちが作り上げた秩序に対していいしれぬ理不尽さを持ちます。
そういった思いが積もり積もって祭りの日に爆発してしまうものの上手くいかず、二人はほうほうの体で一緒に逃げ出します。ですが、主人公は、一方で雄大な山の光景を見つつ、他方で煙草を買いに走る青年の姿を見て、何かがプッツンして、青年をそこに置いて実家に戻ってしまいます(注)。
総じてみれば、いわゆる現在の「閉塞状況」を何とかぶち壊そうとするにもかかわらず失敗してしまい、ただそれで退却してしまうのではなく、またぶち当たろうとする様が描かれているのでは、といったところです(こうした感じは、左翼崩れの評論家が愛好するものではないでしょうか)。
こうしたところから、「おくりびと」を見ると、確かに非常に珍しい題材を取扱っており、ストーリーもよくできていて見る者に鮮烈な印象を与えますが、でもやはり現状の社会秩序の中に納まる予定調和の世界なのではないのか、といった感じになるのかもしれません。
主演の坂井真紀については、これまで「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」と「ビルと動物園」を見ましたが、中では一番充実した演技をしているのでは、と思いました(「実録・連合赤軍」でも大変頑張っていましたが、かなり背伸びしている感じがつきまといます)。
年齢としては小泉今日子より若干若いものの(坂井38歳、小泉42歳)、この年齢辺りの女性を演じさせたら彼女を凌ぐのではないでしょうか。〔もう一人坂井真紀と同年齢の永作博美がいるのを忘れていました!彼女の演技は優れていると思いますが、その童顔でかなり得をしてると言えるかもしれません!〕。
なお、評論家の渡まち子氏は、「親元で衣食住が足りた暮らしを送るノン子は甘えた人間にしか見え」ず、「ノン子がラストに一人でみせる笑顔は印象的だが、熊切作品常連の坂井真紀の大胆な脱ぎっぷりだけが見所と言わねばならないのがツラい」として35点しか与えていませんが、単なる印象だけで評価しているにすぎず、それでは評論家としては失格ではないかと思いました。
(注)最近読んだ伊坂幸太郎氏の『ゴールデンスランバー』には、主人公とつきあっていた女性が、遊んでいたゲーム機から「おまえ、小さくまとまるなよ」と言われて、唐突に主人公と別れてしまうというエピソードが出てきますが、なにかしらこの場面に通じるものがある、という気がしています。渡まち子氏は、青年の「キャラがもっと立っていれば面白くなったものを」と述べてますが、それではこの映画がブチ壊しになるのではと思いました。むしろ、粉川哲夫氏がこの青年を「夢といっても妙な夢をいだき、きわめてフツーのようでそうでもない」男だと規定する方に共感します。