一昨日(3月28日)、アフガニスタンを急きょ訪問したオバマ大統領 会談したカルザイ大統領も訪問を知らされたのは1時間前だったとか。テロ対策とは言え、突然来られるカルザイ大統領も大変でしょう。“flickr”より U.S. Department of Defense Current Photos
http://www.flickr.com/photos/39955793@N07/4474911982/)
【「偶然だった」】
パキスタン陸軍は2月17日、タリバンのナンバー2とされるアブドル・ガニ・バラダル師の身柄を拘束したと発表しました。
タリバンとの結び付きが常々指摘されるパキスタン政府は、自国領から作戦を行ってきたタリバン指導者らに対し行動をとるよう求めるアメリカ政府にこれまで反発してきた経緯があり、オマル師側近のナンバー2拘束は、パキスタン政府の方針転換を示すものかとも注目を集めました。
ただ、パキスタン軍はバラダル師の拘束を「偶然だった」とも説明しており、バラダル師を狙って拘束したわけではないとあえて主張するその真意にも関心が集まりました。
【カルザイ大統領激怒、国連も批判】
その後、拘束されたバラダル師が、アフガニスタンのカルザイ大統領と秘密交渉中だったこと、そしてこの交渉を破談にする拘束にカルザイ大統領が激怒していることが報じられました。
****拘束タリバーン、実は秘密交渉相手 カルザイ大統領激怒*****
パキスタン南部で先月、拘束された隣国アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンのナンバー2、アブドル・ガニ・バラダル師が拘束前、アフガンのカルザイ政権と和平について秘密裏に交渉していたことをアフガン政府高官が17日、朝日新聞に明らかにした。カルザイ大統領は拘束の報に激怒したという。
バラダル師はタリバーンの最高指導者オマール師に次ぐ幹部で、拘束は米国などにとって大きな成果とされているが、タリバーンとの和平を目指すカルザイ政権は逆に不信感を募らせており、米国との溝があらわになりつつある。
カルザイ大統領とバラダル師はアフガン南部の同じ部族の出身。高官によると、部族の長老の仲介で大統領の使者とバラダル師が数回、接触した。バラダル師は政権との交渉に前向きで、和平の条件などについて話し合ったという。高官は「バラダル師は他のタリバーン幹部には相談せず、独自の考えで我々と接触していたようだ」と話す。
ところがバラダル師はこの交渉の最中に、パキスタンのカラチ郊外を車で移動中にパキスタン情報機関に捕まった。交渉を妨害された形のカルザイ氏は、パキスタンに対する怒りをぶちまけたという。
パキスタンとアフガン両国はバラダル師の身柄をアフガンへ引き渡す方向で合意しているが、高官は「我々は米国とパキスタンによってタリバーンとの交渉から遠ざけられていると感じている。パキスタンは引き渡しを引き延ばすのでは」と疑念を募らせている。【3月18日 朝日】
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パキスタンには、アフガン南部ヘルマンド州などパキスタンとの国境沿いで軍事作戦を強化するアメリカへの強い不信感があります。アメリカも強く求めていたバラダル師のアフガニスタンへの身柄引き渡しについては、ラホール高等裁判所が2月26日、パキスタン政府に対して国外移送を禁じる命令を出しています。
タリバンとの秘密交渉については、国連もこれを明らかにしており、やはりパキスタンのタリバン幹部拘束を交渉を妨害したとして批判しています。
****国連前代表、パキスタンを批判「秘密和平交渉が中断」*****
国連アフガニスタン支援団のカイ・エイダ前代表が今月、英BBCのインタビューで、アフガンの反政府武装勢力タリバーンの幹部らと秘密裏に和平交渉を始めていたことを明らかにし、隣国パキスタンが先月、幹部らを拘束したことに対し「交渉が中断された」と強く非難した。
国連関係者がタリバーンとの交渉を公にするのは初めて。アフガン政府高官も朝日新聞の取材に対して交渉を認めており、和平を模索する国連、アフガンと、消極的な米国などとの不一致が鮮明になった形だ。
今月、2年間の任期を終えたエイダ氏は、昨春ごろからタリバーンの高級幹部らと直接会ったと語り、この接触について「(タリバーンの最高指導者オマール師の)了承があったとしか考えられない」と述べた。交渉は、タリバーンのナンバー2、アブドル・ガニ・バラダル師らがパキスタンで拘束された先月ごろまで続いていたという。
エイダ氏はパキスタンを「自国が果たすべき役割を理解していない」と強く批判した。タリバーンとの交渉についてゲーツ米国防長官は「時期尚早」と否定的な考えを示し、パキスタンによるバラダル師らの拘束を支持している。【3月29日 朝日】
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国連の交渉が、アフガニスタン・カルザイ大統領の進めていたタリバンとの交渉と同じものを指すのか、それら交渉がオマル師の意向を反映したものか・・・よくわかりませんが、それ以上に、タリバンとの交渉を望むアフガニスタン・国連、それを妨害する形になっているパキスタン、また、タリバンとの繋がりが強くアメリカへの反発も強いパキスタン、タリバンとの対決姿勢を崩さないアメリカ・・・など、関係国のそれぞれが違う方向を向いて行動しているようにも思えます。
【代理戦争】
更に、対立するパキスタンとインドの思惑もアフガニスタンで渦巻いています。
****インド:パキスタンと対立 アフガン巡り「代理戦争」にも*****
アフガニスタンを巡り、インドとパキスタンが影響力の確保を狙って暗闘を繰り広げている。現地勢力を使ってテロ攻撃を仕掛け合う「代理戦争」への懸念も指摘され始めた。米国は来年7月の軍部隊撤退開始をにらんだ大規模軍事作戦に乗り出したが、過去に3度の全面戦争をした印パ両国の確執が深まれば、米国のアフガン安定化策にも深刻な影を落としそうだ。
アフガンの首都カブールで先月下旬、ホテルなどが襲撃され、17人が死亡する事件が起きた。直後に旧支配勢力タリバンが犯行を認めた。
これを受け、インド外務省が「インド人9人が殺された」と非難すると、アフガンのカルザイ大統領はインドのシン首相に電話し、「犯人を必ず突き止める」と約束した。
タリバンが犯行を認めていながら、こうした言葉を口にしたことで、タリバンの背後に見え隠れするパキスタン軍情報機関(ISI)の関与を示唆した格好となった。
南部カンダハルでは4日、道路建設現場に向かう途中の乗用車が武装集団に襲われ、パキスタン人労働者5人が殺された。パキスタン外務省広報官は「インドはアフガンを利用してパキスタンの不安定化を画策している」とけん制した。
パキスタンは、自国へのインドの軍事侵攻を防ぐため、後背地のアフガンに影響力を確保する政策を取る。タリバンとの関係維持もその文脈にあるとされ、現在、アフガン側にタリバンとの「和解の仲介役」を申し出ている。
一方のインドは、パキスタンの強大化と過激主義の台頭を防ぐため、タリバン政権当時、内戦相手の軍閥集団(北部同盟)を支援。北部同盟が母体となったカルザイ政権に対しても、国会議事堂建設など約130億ドルの支援を行っている。
また、今年に入りインドがアフガン治安部隊の訓練教官らを派遣すると、パキスタンも2月、軍部による訓練をアフガン政府に打診。アフガン軍や警察への影響力を確保するための主導権争いの様相を示している。
こうした印パ両国の動きについて、アフガン情勢に詳しいパキスタン人ジャーナリストのラヒムラ・ユスフザイ氏は地元紙に「両国は一種の代理戦争に突入した」と懸念を示した。【3月8日 毎日】
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【独自支援】
もうひとつの関係国、イランも独自の思惑で動いています。
****イラン大統領:アフガン大統領と会談 「独自支援」伝える*****
イランのアフマディネジャド大統領は10日、昨年6月の再選以来初めてアフガニスタンの首都カブールを訪れ、カルザイ大統領と会談した。欧米主導のアフガン復興に異議を唱え、隣国として独自に強く支援する意向を伝えた。イランは核開発問題で米欧と対立する一方、アフガンへの影響力を強め、「地域大国」としての存在感を誇示したい考えだ。(中略)
「結婚式場を空爆し、無実の多くの女性や子供を殺害した。米国のやり方は民主主義とはいえないし、『テロとの戦い』でもない」。会談後の記者会見でアフマディネジャド大統領は、混迷を深めるアフガン情勢に触れ、米軍の責任を厳しく追及。そのうえで、言語や文化面で近い隣国のパートナーとしての役割を強調し、アフガンへの継続的な支援を約束した。カルザイ大統領も「両国の良好な関係を今後も続けたい」と応じた。
イランは約100万人のアフガン難民を受け入れ、アフガンから大量に流れ込む麻薬への対応にも苦慮。アフガンの治安回復、経済復興はイランにとって喫緊の課題だ。
イランは今年1月末のロンドンでのアフガン復興支援会議を欠席するなど、欧米主導のアフガン復興に反発する一方で、これまでアフガンに2億8000万ドルを供与。幅広い分野での投資、貿易の促進もはかる。
イランは昨年5月、パキスタンを含めた3カ国首脳会議をテヘランで開催。今月16日にはイスラマバードで、3カ国内相会議が開かれる。イランはアフガン復興を通じて周辺3カ国の枠組み強化を進め、地域のリーダーとしての地位を確立したい意向だ。【3月10日 毎日】
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パキスタンとアメリカ、パキスタンとインド、イランとアメリカ・・・そうした対立国が、アフガニスタンを舞台にそれぞれの思惑でうごめいているようで、複雑怪奇な様相です。
【「学校だけでも紛争のない平和な場所に」】
よくわからない話ばかりなので、明るい話題をひとつ。
****「閉鎖の440校、今年再開」 アフガン教育相が見通し******
来日中のアフガニスタンのファルーク・ワルダック教育相が26日、都内で朝日新聞と会見し、反政府武装勢力タリバーンなどによる攻撃で閉鎖を余儀なくされている約440の学校を、今年中に再開できるとの見通しを示した。反政府勢力に影響力がある各地の有力者を通じ、学校教育の重要性を訴える運動を展開してきた結果だとしている。
ワルダック氏によると、アフガンでは2008年、パキスタンとの国境周辺の南部を中心に673校が反政府勢力の攻撃を受け、閉鎖に追い込まれた。教育省は学校の再開を最優先課題とし、反政府勢力への説得が期待できる地域の有力者や宗教指導者に「学校だけでも紛争のない平和な場所に」と訴えてきた。 その結果、これまでに230校が再開にこぎつけたという。残る約440校の再開についても「簡単ではないが、可能だ」と述べ、今年中の再開に自信を示した。 また、男女別学を重んじる伝統を尊重し、世界銀行など国際社会の協力を得ながら地方への女性教員の増員などを進めているとした。
ただ、学校の再建や教員の養成には国際社会からのさらなる支援が必要だとし、「これまでの日本の支援にはとても感謝している。さらに大きな役割を期待している」と述べた。 教育支援は、アフガンに対する日本の民生支援の柱の一つ。日本はこれまで約550の学校の建設・修復や、約1万人の教師への研修などで支援してきた。 【3月27日 朝日】
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タリバンの攻勢が伝えられて久しいなか、閉鎖学校の開校が進んでいるとは意外な感がします。
支援国日本に対するリップサービスでなければ、非常に喜ばしニュースです。
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