銀座のうぐいすから

幸せに暮らす為には、何をどうしたら良い?を追求するのがここの目的です。それも具体的な事実を通じ下世話な言葉を使って表し、

竹久夢二級の喪服

2009-07-28 15:26:33 | Weblog
 鎌倉駅の構内に、喪服の一団がいたのですが、その中の和装の夫人には、特別に目を奪われました。170センチを越える背で体重は50キロ以下と思われる、スレンダーな身を、紋がはっきり大きく染め抜かれた、和の喪服に包んでいるのですが、まるで、竹久夢二の絵に出てくるような、たおやかさがあるのです。通り過ぎて彼女を後ろから眺めると、髪は、美容師ではなくご自分で結ったらしく、夜会巻き風な派手な髪型にも関わらず、その油っ気の無さとほつれ具合が却って上品で、見ていると何故か女の私でさえ、なんともたまらない感じになってしまいます。この髪形ですとヴォリュームが有るので、普通の人だと「いかにもおしゃれしましたのよ。私、元花柳界の出ですから」って言う感じで色気があり過ぎて、喪にふさわしく無くなるのですが、なにしろ、彼女の場合は九頭身ぐらいのプロポーションですので、その髪型が、とてもよい全体に対する押さえに成っているのです。たとえて見れば姉様人形のように。
 
 しかもその髪に白いものが混じっている様子から、この女性が五十才を越えていると思われ、それゆえに、その類まれにも見える美しさが、更に私の心を打ちました。この年で、これだけの美を保つ影には、きりりとした覚悟と、相当な努力が要る筈なのです。私はその不思議さに対する謎を解きたくてたまらず、引き返して彼女に声を掛けました。時は午後5時ごろ、と言う事はこの一団は日曜日のお葬式を終えて、今、親族のどなたかが化粧室に行っているのを待っているところで、ややくつろいでおられるところだろうと思い到ったからの行動です。私はアーティストで美に対する特別の興味があるので、昔から麗人には目が無いのですが、だと言って別にレスビアンでは有りません。ただ、自分に無いものを求める心理は、有るかも知れませんが。・・・・・また、風景とか美術品ですと、場所さえ記憶しておけば、将来再び目にする事が出来ますが、このように知らない人ですと、まさしく、一期一会ですから、私はついつい焦ってしまうのです。
 
 お葬式の帰りの人に「あなたは、とても美しいから、ぜひその謎を聞かせて」と言うのも、非常識きわまり無いのですが、私の言い方に、相手の方はちゃんと乗って来てくれました。
 
 私も知らない麗人に話し掛けるのは、最近では、二回目ですので(注1 連続したメール・サロン=一種のメルマガの中では以前にも美しい女性に、突然話し掛けたと報告をしているので、ここでこう書いている)、さっと、手帖を切り取り、自分の名前やら住所やらメール・アドレスなどを書いて渡しました。
<<<ちょっと、余談ですが、こう言う時に名刺でもあれば、信用が増すかも知れしれませんが、私は今、名刺を刷る気になれないのです。自分が、何者か良くわかりませんので。『専業主婦なのか、アーティストなのか、版画家なのか、洋画家なのか?』>>>

 その上で彼女に、何を私が主題としているかをお話をしたところ、期待通り、彼女は、ちゃんとした自分固有のおしゃれの方針を持っている人でした。普段、着物だけ着て居られるそうで、この、美しさと自在さは、一朝一夕に出来たものではなかったわけなのです。しかも、特別なお金持ちだろうと反発されるのをはばかってか、「自分で、縫いますから」と仰ったのね。それも、着物を更に、自家薬籠中の物にするのに、役に立っているでしょう。
 
 これで、随分と謎が解けましたが、まだ尚、疑問なところがあり、私は、彼女の袖口を指で挟んで、もぞもぞと感触を確かめました。ああ、自分でも、「本当に自分は変わり者だ」とは思いますよ。お葬式の帰りの婦人を捕まえて、その袖口をぐちょぐちょと揉むなんて。ただ、私はそれが

 絽か、そうで無いかを確かめたかったのです。男の方の為に、念のために申しますと、絽とは、夏用の素材で、透けて見えるほど薄いのですが、意外としっかりとした張りがあって、それゆえに、これほどの柔らかなシルエットが出ない筈なのです。すぐ絽では無いとわかり、彼女にそう言うと、彼女は「ええ、ちりめんですから」と応えました。
 
 しかし、私はまだ怪訝な顔です。と言うのも、ちりめんですと、普通は、袷(あわせ)と言って、裏をつけます。その裏は、羽二重風のもので薄いのですが、これも張りが有るので、ぼってりとした感じで、平凡なシルエットに成る筈なのです。今目の前に有る、夢二のような、鮮やかな、たおやかさは、出ない筈でした。もちろん和装の喪服はどんな素材のものでも、女性をきれいに見せますけれども、私が注目しているのは、普通ではあり得ない程のたおやかさなのでした。彼女は、すぐ、何事かを察したように、

 「単(ひとえ)なのです。私は単えで仕立てるのが、好きなのです」と言いました。単えに仕立てれば、裏の羽二重分が無いので、表のちりめんの滑らかさがそのまま現れて、十二分に、柔らかな線を出す事が出来ます。それで、夢二級の美しさが、表出したのでした。ここに到って私はやっと満足をして、彼女と別れて帰りました。
 
 皆様、「こんな小さい事を読ませるために、私の大切な時間をとって」とお怒りに成らないで下さい、私には、大きな事ももちろん起こるのですが、このささやかなエピソードは、すぐその次の日に、彼女からメールが来た事によって、ますます、彼女の気働きの機敏さと賢さを確認する事が出来たから、私には、相当嬉しいエピソードとなったわけです。
 「着物を毎日着る」とは、そのメインテナンスたるや、大変な労働です。それをいとわない努力の人でも有りました。数日掛けて許可を得ましたので、彼女のメールを一部転送します。どうか、読んであげてください。

*****

今日、鎌倉駅でお声を掛けていただきました者です。
ちょっと驚きましたが…遠方に帰る親戚と一緒でしたのでお話しを伺う事をいたしませんでしたが、
より良い衣類、としてのきものを考えている私は
川崎さまが私に何をメッセージしてくださるのか、
伺いたいと考えメールを書き出しました

  私はひょんな事から和裁を習い、
全くの洋服人間がきもの人間になりました
『自分で縫って? 着ないのは無責任』、と思ったのが始まりです。
きものはらくーな究極のワンピース、と思っています。

  今日褒めて頂けましたのは、
いいちりめんだったから、と思っています
知り合いの織元さんからキズものを頂いていますが
とても上等なちりめんのようです。

着物が良かっただけです。
びっくりさせて頂いてありがとうございました。
                  F.S.
*****

  男性の方のために、・・・・・
ちりめんとは、絹を多めに使い、織り方も複雑な高い布(反物)なのです。普通、喪服は、羽二重と言って、絹を余り使わず、織り方も平織りと言う簡単でより安い反物で作る場合が多いのです。しかし、それですと、意外な、張りが出て、このたおやかさは出ないでしょう。彼女は、謙遜をしていますが、紋を3−4センチの大きさで染める所と言い、その他、着物に特に精通した人である事は確かです。・・・・・

  住所も知らない、この方の美しさに惹かれて、彼女を驚かした私の好奇心たるや!!!
  まあ、好奇心は、若さの源泉だそうです。でも、私は、好奇心だけで生きている訳ではなくて、ストレスも多いので別に、
・特・別・に・は・若く見えるわけでも有りませんが。
2002年5月16日
(注2、2004年4月現在に思うのは、この後で、パソコンが壊れると言うアクシデントが有り、この方のアドレスが失われたと言う事です。それで、お断りをせずに、メールを転載をしています。F.S様、この箇所にお気づきに成られましたら、私宛に、ご連絡をくださいませ)

上は10以上前のエピソードです。その後竹久夢二の再発掘等が盛んで、村松友視』著の、「幸田文のマッチ箱」の想定に使われた千代紙が、どうも竹久夢二のデザインであったらいいとか、竹久夢二は、実は、内々、革新者であったとか言う情報にも接しました。ともかく、日本のある種の美の規準でもあります。

  では、今日はこれで、2009年7月28日  雨宮 舜
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