十代の頃から、マンガ雑誌を購読するという習慣はないが、先日生まれて初めて『ビッグ・コミック』を買ってしまった。
どうやら『ビッグ・コミック』は先月50周年を迎えたらしく、それを記念して50年前に刊行した創刊号をまるまる一冊復刻し(ただし、都合により割愛されてる広告欄もある)、それを抱き合わせた特別限定セットを出すってんで、いくらマンガに興味失ってしまった私でも「なかなかビッグなことするじゃないか」と、心騒がされたわけですよ。
ビッグコミックが創刊されたのは、私がまだ生まれてもない頃で、1968年の2月29日。
「マンガは子どもが読むもの」と誰もがそう思っていた時代に、日本で初めて「大人が読むマンガ雑誌」として登場したのがこのビッグ・コミック。
このパイオニア的な雑誌創刊の一大企画に、白土三平、手塚治虫、石ノ森章太郎(この時はまだ石森と名のっていた)、水木しげる、さいとう・たかをと、まさにビッグな、当時トップクラスの錚々たる作家が名を連ねている。
        
確かに大人向けのマンガ雑誌だけあって、いきなりエロい。
裏広告。この頃日立のソリッドステートステレオ<ローゼン>が売り出し中。いい音そう。
この創刊号の中で、一番「大人」を感じれる作品だったのが、巻頭を飾る白土三平の読み切りマンガ『野犬』。
非常に読みやすく、野犬の俯瞰した視点から、人間と犬の関係性を語るといった趣旨のもの。
犬の行動はいたってリアルで自然な振る舞いに描かれているが、そこに勝手に犬の本音を付け加えるという。これがなかなかニヒルでおもしろい。
これをペットに「ワンちゃん」という呼び方を強要する愛犬家に読ませたらどんな反応を示すだろうか。
最後の結末はかなりひいたけど。
水木しげるは、世界怪奇モノシリーズ。
ドイツのとある小都市を舞台に、日本人が「妖花アラウネ」(マンドラゴラっぽい)をめぐって不思議な体験をする話。
ヴィジュアル的に一番アート性と独自性が際立っており、ヨーロピアンな街風景とか雰囲気があってほんと素晴らしい。
ただ、いかんせん、水木しげるマンガはどうも人物描写が弱い。よって物語にもあまり感情移入できない。ただただ不思議な話を読む。それだけ。
石森章太郎の『佐武と市捕物控』は、捕物帳時代劇を普通に描いてるもので特筆すべきことはない。
画はアシスタントをやってたのが影響したのだろう、モロ手塚タッチ。
そして、手塚治虫にとってもこれが大人向けマンガの出発点だったのか、この創刊号で『地球を呑む』の連載をスタートさせている。
まぁしかしこの物語、手塚マンガを漁っていた20代の頃に読んだんだが、内容をすっかり忘れてしまうくらいつまらなかった印象がある。
いわゆる冒険活劇もので、他の作者の作品よりはかなり壮大なスケールの物語ではあるし、女体も出てくるのだが、それまでアトムだのジャングル大帝だのワンダー3だのと、子供向けのマンガを描きまくってたものだから、まだまだそのノリが抜けきっていないというか、絵柄も含め、大人が読むにはチトしんどい。
で、この頃の手塚治虫というと、少年誌での人気がガタ落ち。手塚マンガはもう古いとされ、冬の時代を迎えんとしていた。
一方、さいとう・たかをが手塚マンガに対抗するべく生み出した“劇画”が大ブームとなってきていた。
この創刊号でも、さいとう・たかをの007風ハードボイルド読み切りマンガ『捜し屋はげ鷹登場!!』がメインディッシュとばかりに巻末に掲載されていて、扉ページも他のマンガとは違う紙質のいいカラー。あきらかに扱いが違う。
これだけ見るとさぶっぽい。
この翌年、『ゴルゴ13』シリーズが連載開始され大ヒット!今日まで約半世紀続くという・・・・
50周年を迎えた今月号にも第579話が掲載されているが、パターンは一緒ながら確かに続きが読みたくなる安定のおもしろさだ。
でもね、我らが手塚治虫も負けちゃいなかったんだよ。
このビッグ・コミック誌において、手塚は『I.L』、『きりひと賛歌』、『奇子』、『ばるぼら』、『シュマリ』、『MW』、そして『陽だまりの樹』と、その知性と変態性と構成力とが見事結実した、神憑り的な本格派の傑作アダルトマンガを立て続けに生み出してゆくのだ。
ドロドロとしたいわゆる“黒手塚”テイストが大爆発した時期だったのである。
これは、当時若者の間で流行していたという「アングラブーム」にも呼応したものであったかと。
本誌にもその奨励記事が掲載されている。
まぁ幼少の頃にアトムとかジャングル大帝とかの子供向けマンガをリアルタイムで体感した年代の方はおいといて、だいたいの手塚マンガ好きは、この冬の時代に描かれた手塚諸作品が一番おもしろいと口を揃えて言うのだそうだ。
没後、私が手塚マンガに傾倒したのも、ここらへんの作品に触れたからにほかならない。
なので、この辺の冬の時代の手塚作品を切りもせず掲載し続けたビッグコミックの器はビッグであり、その功績もまたビッグであるというほかないのである。
今日の1曲:『Send Me A Postcard』/ Shocking Blue
どうやら『ビッグ・コミック』は先月50周年を迎えたらしく、それを記念して50年前に刊行した創刊号をまるまる一冊復刻し(ただし、都合により割愛されてる広告欄もある)、それを抱き合わせた特別限定セットを出すってんで、いくらマンガに興味失ってしまった私でも「なかなかビッグなことするじゃないか」と、心騒がされたわけですよ。
ビッグコミックが創刊されたのは、私がまだ生まれてもない頃で、1968年の2月29日。
「マンガは子どもが読むもの」と誰もがそう思っていた時代に、日本で初めて「大人が読むマンガ雑誌」として登場したのがこのビッグ・コミック。
このパイオニア的な雑誌創刊の一大企画に、白土三平、手塚治虫、石ノ森章太郎(この時はまだ石森と名のっていた)、水木しげる、さいとう・たかをと、まさにビッグな、当時トップクラスの錚々たる作家が名を連ねている。
        
確かに大人向けのマンガ雑誌だけあって、いきなりエロい。
裏広告。この頃日立のソリッドステートステレオ<ローゼン>が売り出し中。いい音そう。
この創刊号の中で、一番「大人」を感じれる作品だったのが、巻頭を飾る白土三平の読み切りマンガ『野犬』。
非常に読みやすく、野犬の俯瞰した視点から、人間と犬の関係性を語るといった趣旨のもの。
犬の行動はいたってリアルで自然な振る舞いに描かれているが、そこに勝手に犬の本音を付け加えるという。これがなかなかニヒルでおもしろい。
これをペットに「ワンちゃん」という呼び方を強要する愛犬家に読ませたらどんな反応を示すだろうか。
最後の結末はかなりひいたけど。
水木しげるは、世界怪奇モノシリーズ。
ドイツのとある小都市を舞台に、日本人が「妖花アラウネ」(マンドラゴラっぽい)をめぐって不思議な体験をする話。
ヴィジュアル的に一番アート性と独自性が際立っており、ヨーロピアンな街風景とか雰囲気があってほんと素晴らしい。
ただ、いかんせん、水木しげるマンガはどうも人物描写が弱い。よって物語にもあまり感情移入できない。ただただ不思議な話を読む。それだけ。
石森章太郎の『佐武と市捕物控』は、捕物帳時代劇を普通に描いてるもので特筆すべきことはない。
画はアシスタントをやってたのが影響したのだろう、モロ手塚タッチ。
そして、手塚治虫にとってもこれが大人向けマンガの出発点だったのか、この創刊号で『地球を呑む』の連載をスタートさせている。
まぁしかしこの物語、手塚マンガを漁っていた20代の頃に読んだんだが、内容をすっかり忘れてしまうくらいつまらなかった印象がある。
いわゆる冒険活劇もので、他の作者の作品よりはかなり壮大なスケールの物語ではあるし、女体も出てくるのだが、それまでアトムだのジャングル大帝だのワンダー3だのと、子供向けのマンガを描きまくってたものだから、まだまだそのノリが抜けきっていないというか、絵柄も含め、大人が読むにはチトしんどい。
で、この頃の手塚治虫というと、少年誌での人気がガタ落ち。手塚マンガはもう古いとされ、冬の時代を迎えんとしていた。
一方、さいとう・たかをが手塚マンガに対抗するべく生み出した“劇画”が大ブームとなってきていた。
この創刊号でも、さいとう・たかをの007風ハードボイルド読み切りマンガ『捜し屋はげ鷹登場!!』がメインディッシュとばかりに巻末に掲載されていて、扉ページも他のマンガとは違う紙質のいいカラー。あきらかに扱いが違う。
これだけ見るとさぶっぽい。
この翌年、『ゴルゴ13』シリーズが連載開始され大ヒット!今日まで約半世紀続くという・・・・
50周年を迎えた今月号にも第579話が掲載されているが、パターンは一緒ながら確かに続きが読みたくなる安定のおもしろさだ。
でもね、我らが手塚治虫も負けちゃいなかったんだよ。
このビッグ・コミック誌において、手塚は『I.L』、『きりひと賛歌』、『奇子』、『ばるぼら』、『シュマリ』、『MW』、そして『陽だまりの樹』と、その知性と変態性と構成力とが見事結実した、神憑り的な本格派の傑作アダルトマンガを立て続けに生み出してゆくのだ。
ドロドロとしたいわゆる“黒手塚”テイストが大爆発した時期だったのである。
これは、当時若者の間で流行していたという「アングラブーム」にも呼応したものであったかと。
本誌にもその奨励記事が掲載されている。
まぁ幼少の頃にアトムとかジャングル大帝とかの子供向けマンガをリアルタイムで体感した年代の方はおいといて、だいたいの手塚マンガ好きは、この冬の時代に描かれた手塚諸作品が一番おもしろいと口を揃えて言うのだそうだ。
没後、私が手塚マンガに傾倒したのも、ここらへんの作品に触れたからにほかならない。
なので、この辺の冬の時代の手塚作品を切りもせず掲載し続けたビッグコミックの器はビッグであり、その功績もまたビッグであるというほかないのである。
今日の1曲:『Send Me A Postcard』/ Shocking Blue
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