AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
日々ブログレッシヴに生きる

もう、待ち慣れました。

2012年07月23日 | ♪音楽総合♪
昨年の春にリリース予定とされていたフィオナ・アップルの新作だが、約1年待ちぼうけを食らわされ、先月ようやく私の手元に届けられた。
前回同様、約7年振りだ。

まず、フィオナ自身の筆による精神病患者が描いたかのような自画像ジャケットからして、「なんか様子がおかしいぞ」と心配になった。
そして、『The idler wheel is wiser than the driver of the screw and whipping cords will server you more than ropes will ever do...』と、2ndを彷彿とさせる長いアルバムタイトル。

日本語に訳すと、「遊動輪はネジを回す工具より賢明でグルグル巻きにするためのヒモはロープには永遠に及ばないくらい役に立つ」という意味らしい。

なるほど、ますますわけがわからない。


音源の方を聴くと、ジョン・ブライオンがプロデュースしてた頃の、フィオナの歌をゴージャスに彩ったバンド演奏やストリングスはゴッソリそぎ落とされ、楽器の音を最小限に抑えたシンプルなサウンド構成で、フィオナの歌がやけに生々しく脳髄に響く。
“Criminal”や“Fast As You Can”とかの誰にでも頭に入ってくるようなキャッチーな楽曲は皆無で、この人はホンマにアルバムを売る気があるのか?と心配してしまうぐらい個人的で内向的な作風だ。
最初聴いたときは、「わー今回はちょっと重すぎてついていけそうもないな」と思ったのだが、それでも彼女の歌声やフレーズはやはり一筋縄ではいかず、一度聴けば脳内に深く焼きついてしまう。
どことなく冷めた感じでもあり、時折エモーショナルにドスを効かせ、感情の赴くまま奔放に歌を紡いでいってる風で、ちゃんとしたひとつの楽曲として成立してしまうという、この才能にはいつもながら感心させられる。

いや、いきなり頭に蛸のせてんだから、そりゃ心配にもなりますよ。


今回特に興味深かった曲をあげるなら、どこかハズしたようなピアノの旋律に、バックの自由奔放な打楽器音がやけに強烈な#4“Jonathan”。フィオナの情緒不安定な歌がとにかくヤバすぎる。
スリリングなピアノ伴奏とドラミングが互いに挑発しあってるかのような、本作中最もロックしてる#5“Left Alone”。
まぁ本作は、前作ツアーでサポートドラムを務めたチャーリー・ドレイトンとの共同プロデュース作品ということもあり、このようなピアノとドラムの一騎打ち的な構図が出来上がったわけだ。
#9“Anything We Want”の曲中バックでずっとコンチキチンと鳴り続けてる、やけに心を和ます金物音(特典ライブDVD見たらフィオナがヘンテコな形のトライアングル式のパーカッションを鳴らしていた)なんかも実験的でユニーク。
ラストのくぐもった狂おしき太鼓の連打と、呪文のような自身の多重コーラスがループする中、フィオナが高らかに歌い上げる“The Knife”も実に美しくも原始的な躍動感がある。

こういった実験的で個人的なワザに走りがちな作品は、奇をてらったような演出のあざとさばかりが鼻につく作風に陥りがちだが、フィオナの場合あくまで自然体であり、とてつもなく洗練された完成度を誇っている。
他の凡百のメンヘラーシンガーソングライターとは明らかに次元が違うのだ。

デラックス・エディションはノート・ブック仕様となっており、中にはフィオナの手書きと思われるラフな歌詞とメモ書き、実に内面的なアートワークの数々の他、個人的な知り合いと思しき誰かの子供の写真まで掲載されている。
これが各楽曲の雰囲気と実によくマッチングしており、フィオナの精神世界を垣間見たような不可思議な心地にさせる、音楽とアートワークとが一体となったひとつの芸術作品として完成している。
うん、これはゆらゆら帝国のアルバム『し・び・れ』に近い感覚だ。



誰?



決して世間やファンに媚びることなく、それでいて突き放すでもなく、聴き手に「今の私を見なさい!」とばかりに圧倒的な迫力で迫ってくる、これほど力強くて美しい才能を、私はちょっと見たことがない。

まぁ日本人ウケはしないだろうけど(全米チャートでは3位にランクインしている)。

でも、来日祈願!!




今日の1曲:『Anything We Want』/ Fiona Apple
コメント
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