AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
日々ブログレッシヴに生きる

善き人のためのソナタ

2007年07月10日 | しねしねシネマ
『硫黄島からの手紙』を観てから次に向かったのは橿原シネマアークという行ったこともない映画館でした。
一応シネコン形式をとった映画館なのですが、純喫茶などが立ち並ぶ昭和の雰囲気をとどめた駅前の路地裏にある古めかしい場末の映画館といった感じの所で、なんだかタイムスリップした気分になりました。
で、ここでやっとこさ奈良にもフィルムが回ってきたドイツ映画『善き人のためのソナタ』を観ることができました。
いやいや~、久々に名作映画にありつけたなと思いました。
これを観てけなす人はあまりいないんじゃないでしょうか?おそらく今年のしねしねシネマアワード最優秀賞(そんなもんないけど)に輝くことになるかと思われます。

舞台はドイツがまだ西と東に分断されていた時代で、1989年の“ベルリンの壁”崩壊の4年前の話。
私の幼少時代のことですからこの寒い時代のドイツの情勢は結構リアルタイムで伝わってきておりました。
確か石ノ森章太郎の漫画「サイボーグ009」で全身兵器男の004が東ドイツ出身で、恋人をライオンの着ぐるみで隠して東ドイツからトラックで亡命することを試みて、検問所でバレて恋人が銃弾に撃たれて死んでしまうエピソードを読んだのがこの国の情勢をキッカケだったと思います。

話の内容は、東西冷戦下の社会主義国家東ベルリン。冷徹で職務に忠実な国家保安省局員“シュタージ”のヴィースラーは、同棲中の活動家の劇作家と舞台女優の調査を命じられる。
盗聴器を通して知る、愛と自由、音楽。彼らを通して人間らしい自由人の別世界を知ることで、ヴィースラー自身の心境が少しづつ変わってゆくのであった・・・
タイトルからして最初ピアニストの話かと思ってたんですが、劇作家が劇中でたった一度だけこの“善き人のためのソナタ”のスコアを弾いて、それを盗聴していたヴィースラーはコロっとやられてしまうわけです。
とにかくこのヴィースラー役を演じるウルリッヒ・ミューエのキャラクターがかなりの魅力を放っておりまして、冗談を言っても表情ひとつ変えない男が1曲のソナタで涙してしまう程に感動に打ち震えるこの劇的な表情の変化が素晴らしい!いったいどんだけいいヘッドフォンで盗聴しとったんや?
この“善き人のためソナタ”を聴いてからの彼は監視人というより殆どストーカー。恋人たちの生活を盗聴し、ファンになりすまして酒場で助言を与えたり、謀議をキャッチしながらも右から左へ受け流す~♪とっても善いストーカー。
そして寡黙な彼の私生活での孤独感がまたこの映画を一段と感慨深いものにしております。この役者から醸し出されるとてつもない哀愁感は一体なんなんのだろう?
実際彼は東ドイツ出身でシュタージに監視されてたらしいです。そしてなんと女優である奥さんに10数年間当局に密告され続けていたとか!
そんな辛い過去が彼をここまで哀愁漂わす名優に仕立て上げたのではないでしょうか。
いや~『硫黄島』の渡辺健といい、今回のウルリッヒさんといい、ハゲ俳優が映えてますね!ハゲカッコいい時代が到来したのではないでしょうか!実は私もかなりキテますんで・・・(これ内緒ね!)

しかしこの監督さんもかなりの優れものですねぇ。
東独時代のベールに包まれていた監視社会の冷徹さを、史実に基づいてリアルに浮き彫りにし(それは自白の強要だったり、身内の密告だったり)、そこにピアノ曲を通じて心を動かされる監視人が思いがけない行動をとっていくといったドラマ性を盛り込み、サスペンス風味をほんのり盛り込んだ悲劇的な山場へと展開させ、さらにラストにほんのりと心救われる感動で締めくくるこの監督の手腕は見事である。

ピアノ曲をテーマとした映画で『暗い日曜日』という感動作がありましたが、これもやはりドイツ/ハンガリー映画で、ピアノ曲だけで観る者をグっと物語に惹きこませるのはやっぱクラシックが盛んなこの辺ならではの伝統が成せる技といったところでしょうか。

オススメ度:★★★★★

今日の1曲:『善き人のためのソナタ』/ Gabriel Yared & Stephane Moucha
コメント (4)
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