週に1,2回ほどの頻度で足を運ぶ喫茶店がある。中野坂上にひっそりと佇む喫茶店「Mimizuku」である。
とても古い5階建てのビルの1階にその店はある。同じビルの4階に「オーディオショップ・グレン」があり、「オーディオショップ・グレン」に立ち寄った際にふらっと入ったのが、この喫茶店に通うようになったきっかけである。
もともとは夫婦で営まれていたようであるが、私が通うようになった頃にはすでにご主人は亡くなっていて、奥さんが一人で切り盛りしていた。
カウンター席が4席、4人掛けのテーブル席が二つ、そして2人掛けのテーブル席が一つのみという小さなお店である。
いつもカウンター席に座るが、女主人は寡黙であり、季節の挨拶をするぐらいで長く会話するということはない。珈琲を飲んで30分ほどで店を出ることが多い。
時代に取り残された感のある小さな喫茶店であるが、ここのカウンター席に座って珈琲を飲んでいると不思議と心が落ち着く。
時代の先端を行くお洒落な喫茶店とは全く違い、「取り残された」あるいは「誰からも顧みられることがない」といった斜陽感が、人生の最終楽章を迎えつつある私には、妙に心地いいものがあるのであろうか・・・
一般的な喫茶店のようにBGMは流されていない。カウンターにはSONY製の古いラジカセが置かれていて、その脇にはミュージックテープが入ったのボックスが置かれている。カウンター席に座った客がそのなかから選んで、ラジカセに入れて再生すると、約20分間音楽が静かに流れる。テープの片面が終わると、音楽も止む。
ラジカセもミュージックテープも亡くなったご主人の遺品のようである。ラジカセは3台あるようで、いずれもSONY製で1970年代の製品である。時折入れ替わる。今日は、「CF-2580」が置かれていた。
「CF-2580」は1974年に発売された。ステレオラジカセとしては初期のモデルで、この時代のSONYらしくバランスの取れたシンプルデザインである。
この「CF-2580」の特徴としては、「4スピーカ MATRIX SOUND ONE POINT STEREO」という機能がついていることがあげられる。STEREO/MONO切り替えスイッチをSTEREO側に切り替えると普通のステレオで聴くより音が広がり、サラウンド効果が増すという機能である。
1970年代、ラジカセは電気製品の花形であった。1974年というと私は小学5年生、地元の上新電機の2階で買えるはずもない、こういったラジカセを飽きることなく眺めていた。煌びやかラジカセは見ているだけで、小さな男の子にひと時の夢を見させてくれたのである。
コーヒーを飲みながら、ミュージックテープが入ったボックスを手元に引き寄せて、その中身を確認した。
亡くなったご主人のミュージックテープのコレクションは数百本あるようで、ボックスの中は毎回違う。ジャンルは様々、クラシック、ジャズ、ロック、ポピュラーから歌謡曲まである。
そういえば、昭和の時代、駅前にあった小さなレコード屋さんにはレコード棚とは別の場所にミュージックテープの棚があった記憶がある。
ボックスのなかから1本のミュージックテープを取り出した。モーツァルトのピアノ協奏曲第23番と第19番が収録されているものであった。ピアノはマウリツィオ・ポリーニで共演はカール・ベーム指揮ウィーン・フィルである。
そのA面を「CF-2580」にセットした。A面にはピアノ協奏曲第23番が入っている。ピアノ協奏曲第23番は、第24番とともに、1786年に3回開かれたモーツァルトの予約音楽会のために作曲された。モーツァルトのピアノ協奏曲には名曲が多いが、個人的にはこの23番が一番好きである。
「CF-2580」の四角いPLAYボタンを下に押し込んだ。かちっという硬質感のある音がしてから、カセットテープがするすると回転し始める音が静かに響いた。
とても古い5階建てのビルの1階にその店はある。同じビルの4階に「オーディオショップ・グレン」があり、「オーディオショップ・グレン」に立ち寄った際にふらっと入ったのが、この喫茶店に通うようになったきっかけである。
もともとは夫婦で営まれていたようであるが、私が通うようになった頃にはすでにご主人は亡くなっていて、奥さんが一人で切り盛りしていた。
カウンター席が4席、4人掛けのテーブル席が二つ、そして2人掛けのテーブル席が一つのみという小さなお店である。
いつもカウンター席に座るが、女主人は寡黙であり、季節の挨拶をするぐらいで長く会話するということはない。珈琲を飲んで30分ほどで店を出ることが多い。
時代に取り残された感のある小さな喫茶店であるが、ここのカウンター席に座って珈琲を飲んでいると不思議と心が落ち着く。
時代の先端を行くお洒落な喫茶店とは全く違い、「取り残された」あるいは「誰からも顧みられることがない」といった斜陽感が、人生の最終楽章を迎えつつある私には、妙に心地いいものがあるのであろうか・・・
一般的な喫茶店のようにBGMは流されていない。カウンターにはSONY製の古いラジカセが置かれていて、その脇にはミュージックテープが入ったのボックスが置かれている。カウンター席に座った客がそのなかから選んで、ラジカセに入れて再生すると、約20分間音楽が静かに流れる。テープの片面が終わると、音楽も止む。
ラジカセもミュージックテープも亡くなったご主人の遺品のようである。ラジカセは3台あるようで、いずれもSONY製で1970年代の製品である。時折入れ替わる。今日は、「CF-2580」が置かれていた。
「CF-2580」は1974年に発売された。ステレオラジカセとしては初期のモデルで、この時代のSONYらしくバランスの取れたシンプルデザインである。
この「CF-2580」の特徴としては、「4スピーカ MATRIX SOUND ONE POINT STEREO」という機能がついていることがあげられる。STEREO/MONO切り替えスイッチをSTEREO側に切り替えると普通のステレオで聴くより音が広がり、サラウンド効果が増すという機能である。
1970年代、ラジカセは電気製品の花形であった。1974年というと私は小学5年生、地元の上新電機の2階で買えるはずもない、こういったラジカセを飽きることなく眺めていた。煌びやかラジカセは見ているだけで、小さな男の子にひと時の夢を見させてくれたのである。
コーヒーを飲みながら、ミュージックテープが入ったボックスを手元に引き寄せて、その中身を確認した。
亡くなったご主人のミュージックテープのコレクションは数百本あるようで、ボックスの中は毎回違う。ジャンルは様々、クラシック、ジャズ、ロック、ポピュラーから歌謡曲まである。
そういえば、昭和の時代、駅前にあった小さなレコード屋さんにはレコード棚とは別の場所にミュージックテープの棚があった記憶がある。
ボックスのなかから1本のミュージックテープを取り出した。モーツァルトのピアノ協奏曲第23番と第19番が収録されているものであった。ピアノはマウリツィオ・ポリーニで共演はカール・ベーム指揮ウィーン・フィルである。
そのA面を「CF-2580」にセットした。A面にはピアノ協奏曲第23番が入っている。ピアノ協奏曲第23番は、第24番とともに、1786年に3回開かれたモーツァルトの予約音楽会のために作曲された。モーツァルトのピアノ協奏曲には名曲が多いが、個人的にはこの23番が一番好きである。
「CF-2580」の四角いPLAYボタンを下に押し込んだ。かちっという硬質感のある音がしてから、カセットテープがするすると回転し始める音が静かに響いた。