その乾いた音に釣られるように、視線を扉の方へ向けた。一人の年配の男性が入ってきた。コートは脱いで手にかけて、グレーの少しくたびれた感じのスーツを着ていた。
「いらっしゃい・・・」
女主人はさらっと言って、コップに水を注ぎ、おしぼりとともに運ぶ準備を始めた。その男性は入り口近くにあるマガジンラックから新聞を手にとって、店の奥まったところにある二人掛けのテーブル席に座った。
「ブレンド・・・」
水とおしぼりを運んできた女主人にそう告げると、男性は新聞を広げた。新聞を読むのには照明が少し暗めであるが、そこが定位置であるのであろう。
「Mimizuku」の照明は一様に暗めである。ここの照明は変わっている。船舶用の照明をイメージさせるデザインの古いものが使われている。
アンティークな雰囲気のその照明器具は、金属製の小さな楕円がいくつも連なったチェーンにより天井からつるされて、優しく頼りなげな光を周囲に投げかけている。
「青の人・・・」
「ゆみちゃん」はつぶやくように言った。
それを耳に止めて、彼女の表情を確認した。うつむき加減の彼女の表情は上から照らされる照明の加減か、少し暗いものに感じられた。
「青の人・・・?」
私は小さめの声でその言葉を繰り返した。
「そう・・・青の人・・・」
彼女はまた同じ言葉を繰り返した。
私は前回彼女に会った時に彼女が人の背後に靄のようなものが見え、それぞれその色合いが人によって違って見えるという話をしていたことを思い出した。
「青か・・・青はその色合いによって感じ方が違うもの・・・抜けるような青空の青であれば爽快な感じだし、暗く濃い青は沈んだ感じ・・・」そう頭の片隅で考えた。
「どんな青・・・?」
「濃い青・・・少し黒が混じっているような・・・」
「そう・・・」
私はコーヒーカップを手に取った。一口飲んだ。そしてさらに声を落として訊いた。
「あまり、いい色じゃない・・・?」
「そんな感じがして・・・」
「チッチッ・・・」と音が左後方の上のほうでした。急に一瞬オレンジ色の明かりが煌めいて、そして暗く終息した。複数ある照明の一つの白熱灯が切れたようである。
「いらっしゃい・・・」
女主人はさらっと言って、コップに水を注ぎ、おしぼりとともに運ぶ準備を始めた。その男性は入り口近くにあるマガジンラックから新聞を手にとって、店の奥まったところにある二人掛けのテーブル席に座った。
「ブレンド・・・」
水とおしぼりを運んできた女主人にそう告げると、男性は新聞を広げた。新聞を読むのには照明が少し暗めであるが、そこが定位置であるのであろう。
「Mimizuku」の照明は一様に暗めである。ここの照明は変わっている。船舶用の照明をイメージさせるデザインの古いものが使われている。
アンティークな雰囲気のその照明器具は、金属製の小さな楕円がいくつも連なったチェーンにより天井からつるされて、優しく頼りなげな光を周囲に投げかけている。
「青の人・・・」
「ゆみちゃん」はつぶやくように言った。
それを耳に止めて、彼女の表情を確認した。うつむき加減の彼女の表情は上から照らされる照明の加減か、少し暗いものに感じられた。
「青の人・・・?」
私は小さめの声でその言葉を繰り返した。
「そう・・・青の人・・・」
彼女はまた同じ言葉を繰り返した。
私は前回彼女に会った時に彼女が人の背後に靄のようなものが見え、それぞれその色合いが人によって違って見えるという話をしていたことを思い出した。
「青か・・・青はその色合いによって感じ方が違うもの・・・抜けるような青空の青であれば爽快な感じだし、暗く濃い青は沈んだ感じ・・・」そう頭の片隅で考えた。
「どんな青・・・?」
「濃い青・・・少し黒が混じっているような・・・」
「そう・・・」
私はコーヒーカップを手に取った。一口飲んだ。そしてさらに声を落として訊いた。
「あまり、いい色じゃない・・・?」
「そんな感じがして・・・」
「チッチッ・・・」と音が左後方の上のほうでした。急に一瞬オレンジ色の明かりが煌めいて、そして暗く終息した。複数ある照明の一つの白熱灯が切れたようである。