AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

1929:霧の中

2011年06月26日 | ノンジャンル


 三度目の時坂峠は霧の中であった。この天気なので、峠の頂上には、ハイカーは誰もいなかった。峠の茶屋の主人は手持ち無沙汰な様子で座っていた。その姿はまるで置物か何かのようにずっとそこに固定されているかのように感じられた。

 霧は景色を含め、あらゆるものを消し去る。そのなかでは時間すら通常の一定方向への規則正しい流れではなく、不規則で流動的なものに感じられる。

 時坂峠で霧に包まれた5時間後、私はUNICORNさんのリスニングルームに座っていた。今日はNaruさんと連れ立って、1年数ケ月振りにUNICORNさんのお宅にお邪魔した。



 前回との変更点は、カートリッジがSPU-GTになったことと、左側のスピーカの上に置いてあったランプが震災の際に割れてしまってので、新しいものに変わっていることの2点である。



 前半はクラシック、後半はジャズという2部構成でOFF会は進んだ。SPU-GTはUNICORNさんの熟練の技による調整によりその本来の性能を遺憾無く発揮しているようであった。どこかを強調するようなバランスではなく、正統派と言っていいバランスで、各々のレコードの持つ個性を色鮮やかに提示してくれる。

 特に後半のジャズは、このシステムの本領がまさに全開で発散される。Naruさんは「明らかにジャズ向きのシステム・・・」と評されていた。ティーンエージャーになったばかりの頃からジャズに嵌ったUNICORNさんのジャズにかける情熱が、音にすっかり変換されたかのようである。

 それにしてもその年齢でジャズに嵌るというのは、稀に見る早熟ぶりである。それからうん十年・・・ジャズにかける情熱は途切れることなく連綿と続いている。その時間の累計は、独特の形をした「一角獣」の背後に、しっかりと息づいている。

 部屋は時間の経過とともに薄暗くなってきた。それにつれて、部屋の左右と真ん中に置かれた三つのランプから放たれているオレンジ色の明かりは、部屋のなかを霧のようにゆったりと漂い始めた。そのなかでは、時坂峠の霧の中で感じたように、時間の流れは不規則になり、かくとした意味合いを失ってしまう。熱っぽく鳴り響くジャズの音の背後には、UNICORNさんがジャズに目覚めた頃の、少年らしい無垢な笑顔が、見え隠れしているように感じられた。
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