この前NHKスペシャルで、「神の領域を走る」というドキュメンタリー番組をやっていた。「神の領域」というからには、よほど標高の高い山でも走るんだろうくらいに考えていたら、それは意識の先の領域のことで、あまりに苦しいのを我慢して走っていると、意識が飛んでいるにもかかわらず走り続ける状態だという。それをランナーたちは「神の領域」と呼んでいるという。
舞台は南米パタゴニア。標高は800メートルほどの山々を超えて走るが、山頂では風速数十メートル、おまけに雪が積もり、岩場には氷が張り付いている。そういう場所をランナーたちは、軽装で駆け抜ける。距離にして141キロ。制限時間は46時間以内という厳しさだ。
世界中からウルトラマラソンに自信のある猛者たちが集まるが、完走率は3割だ。スタートして25キロで山の上にたどり着いた時には、かなりの参加者がリタイアしていた。
普通に山登りをしていても、下山では疲れた体では踏ん張りが利かず、ちょっとよろけるだけで転倒してしまうが、ランナーは飛ぶように駆け下りる。おまけに不眠不休でふらふらなので、岩場の氷で足を滑らせ、思いっきり岩場で転ぶ。睡魔に負け、坂道を転がり川の中へ転落する。
そうして最後はついに神の領域に入るわけだが、そこでランナーは奇妙な経験をする。自分のすぐ斜め後ろを、ずっと並走して励ましてくれるランナーが現れるという。
極限の山登りをする人たちや、遭難して九死に一生を得た人たちの間でも、しばしば自分を励ましてくれる不思議な人間は現れるという。そういう人を「サードマン」と呼ぶらしい。
僕もたまにはランニングしたり、山登りをしたりするが、いまだサードマンの出現にお目にかかったことはない。それどころか、脳内に悪魔のような格好をした小さな僕が現れ、「しんどいから休もうぜ」と僕を誘惑する。
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