黄昏どきを愉しむ

傘寿を過ぎた田舎爺さん 「脳」の体操に挑戦中!
まだまだ若くありたいと「老い」を楽しんでま~す

あの「ゴッホ」を追いかけてみよう! (№11)

2020-10-20 | 日記
11月下旬

日曜日の朝、パリの街に雪が降った。
       

道沿いの市場が切れる角を曲がった瞬間、小柄な女性とぶつかった。
あっと小さく叫び声が聞こえて、彼女が提げていたかごから
林檎が転げ落ちた。
はっとして、テオはとっさに雪が降り積もった石畳の上を転がっていく
果物を拾い集めた。

「すみませんでした、マドモアゼル。
     ・・・お怪我はありませんでしたか」

見覚えのある顔が、テオの胸の中で心臓が激しく鼓動を打った。
彼はささやいた。
「・・・君は・・・ヨーじゃないか・・・!」
故郷の友人の妹、ヨハンナ・ボンゲル
 ずっと昔、テオがほのかな恋心を抱いたことのある少女が、
   美しい女性になって、目の前に立ち尽くしていた。
          
         

12月中旬 

テオ重吉を芝居に誘った。
                      
 コメディフランセ-ズ劇場では 今、
モリエールの喜劇「人間ぎらい」が~   

 重吉は、なにせ、君に芝居に誘われるなんてことは、
いままでついぞなかったからな・・・
何かいいことでも起こったのかと思ってね」

        =====
「お待たせ、テオ、ごめんなさい、遅くなってしまって・・・」
細い肩で息をつきながら、可憐な女性がたたずんでいた。

お互いの紹介が終わって~テオは、彼女との再会について
話し始めた。

        =====
 そして…。
「・・・きのうの夜、僕は、彼女に結婚を申し込んだんだ」

次の朝 
夜の間に本格的に降り積もった雪は、一夜にしてパリの街なかを
 真っ白に染め上げた。
           
ロンドンの出張から帰った来た忠正に 
重吉は「その…急に テオが結婚をすることになって…」と。

忠正は~「それはまた、急な話だな」

いままでの経過を説明を 最後まできいてしまうと、
「フィンセントは知っているのか」そう尋ねた。
重吉は首を横に振った。
「その・・・いまだけは、後回しにしたいようでした」

忠正は、「・・・フィンセントは、このままでは破滅するな

そう忠正は、あの絵に漂うそこはかとない孤独感を感じ取っていた…    
    

 アルルに行けば、風光明媚な風景を追求して、フィンセントが憧れる
 「日本の絵」のような作品の中で際たたせられるはずだと、
  俺はよんでいたんだ。 
  だが・・・実際は、そんな単純なものではなかったようだな」
 
       ====

 その日、ヨーと共に彼女の郷里の町、アムステルダムへ
 旅立つ日だった。
    重吉は~「いま、どのあたりを走っているのだろうか」

  通りの向こうから、黒いコートをまとった男の影が近づいてきた。
   「テオ!」
  「テオ、 どうしたんだ、いったい何が」
 
   「兄さんが、に。い、さん…が…」

 その手には、一通の電報が握られていた。
 アルルのポール・ゴーギャンから…。

      フィンセントが自分の耳を切り落とした
      すぐに来られたし
 

 12月25日 アルル 市立病院

 フィンセントは眠っていた。やすらかに。~死んだように。

 テオの嗚咽が収まるのを待って、若い担当医
 フェリックス・レイは「兄上の病状についてお話しましょう」と。
 別室に彼を誘った。
 説明しましょう~穏やかな声で話し始めた。
 「兄上の傷は、命にかかわるほどのものではありません。
  一緒に住んでいたムッシュウ・ゴーギャンによれば~
  おととい、何か兄上と口論になったようで、
  喧嘩別れしたそうなんです。
  それで、ムッシュウ・ゴーギャンは駅前の宿に泊まり、翌朝
  家に帰ったところ、大騒ぎになっていたということなんです」

  ゴーギャンは、フィンセントが無茶な行動にいたった
  直接的な原因について、じぶんはわからない。
  と、警察に言った。
   一緒に過ごす時間が長いから、諍いも起きる。
  きのうだって、いつものように口喧嘩したにすぎない。
  自分はパリに引き上げようと思っていたから
  そのことを伝えたのだ

  
  医師は、ゴーギャンはこうも言っていました。
  彼は感情の浮き沈みが激しい男で、かっとなると何をするか
  分からない。
   しかし、…
   【いままで誰も見たこともないような、まったく新しい絵を描く。
     彼の絵は新しすぎて、いまはなかなか認められないだろうが
     いずれ必ず見出されるだろう】
  確かに、おかしなやつです。
  そして、それ以上に、とてつもなく優れた画家なのです。
   彼は、そう言い残してアルルを去った。

  フィンセントは目を覚ました。
  かすれた声で~ここはどこだ?
  アルル? パリだろう?
  
 テオは、ここはアルルの病院だよ。と答えた。

 ・・・なぜだ? なぜ パリじゃないんだ?
     どうしておれはパリにいないんだ?

     意識が朦朧としている…彼には説明しても無駄だろう。

フィンセントは、つぶやいた。
おれは・・・一番描きたかったものを、まだ描いちゃいないんだから。

描きたかったものとは、なんですか…
テオは、兄の口に耳を近づけて、その言葉を聞いた。

              Fluctuat nec mergitur  
                      ラテン語だった。
 言葉の意味は、すぐにはわからなかった。
 それっきり、また 眠りに落ちてしまった。
 

続 黄昏どきを愉しむ

 傘寿を超すと「人生の壁」を超えた。  でも、脳も体もまだいけそう~  もう少し、世間の仲間から抜け出すのを待とう。  指先の運動と、脳の体操のために「ブログ」が友となってエネルギの補給としたい。