黄昏どきを愉しむ

傘寿を過ぎた田舎爺さん 「脳」の体操に挑戦中!
まだまだ若くありたいと「老い」を楽しんでま~す

「憎っ気やつ!」 どうしてくれる・・・・

2022-03-21 | 日記
 今朝もいつものように5:30起床。
 天声人語の書き写しが終わって、新聞を読み始める…
 時計が6:00~窓を開ける。
 
 庭いっぱいに「ユキヤナギ」が真っ白な花を咲かせて…
 「おはよう!、 今日も元気に頑張れよ…」と声を掛けてくれる。


 

 この雪景色? の感じは、今日の始まりには最高・・・・
 爽快な気分になれます。

 そして、さらに目を楽しませてくれるのが、可愛い椿に花。
 「港の華」なんです。
 小ぶりな樹いっぱいにこぼれるばかりに、花を咲かせています。
 朝の冷え冷えとした空気の中…かすかに漂っている? の感じの香り。

  とっても落ち着きます。
   

 しばらくすると~ 小鳥が飛んできました。
 3羽も~ ちょっと黒っぽい、嘴の尖った小鳥

 う~ん、「ヒヨ」かな?

 この鳥には、毎年 迷惑をこうむっています。
 「ヒヨ」は、花の蜜が大好きなんだそうです…だから、この「港の華」
 は、彼らの好物なんです。

 朝の静けさを破って…「チチチチ…」と枝から枝へ。

       

       

       

  そうなんですよ~ 花弁の奥まで 嘴が入り…蜜を吸う。

  終われば、次の花へと、3羽が交代で~

  じっと眺めているわけにはいきません! 
  ガラス窓を「トントン」と叩き~追っ払います‥‥。

 観てくださいよ~ 彼らの悪行の後を
  樹の下には~喰い散らされた…花びらが。

 「牡丹散って、うち重なりぬ 二、三片 」って句ありますが
 
  そんなもんじゃない…この結果は、この樹の、花が終わるころには
  「うち重なって、十重二十重・・・・」なんです。

  一番下の花弁は、すでに茶色に変色 憐れな姿になっていくのです。



  今年も、これからの日々、こうした風景が~

 自然に朽ち果てる花なら、まだいざ知らず、こうして、鳥にやられる
 のは主としても「許せない!」

 というものの、四六時中見張っているわけにもいかずねぇ。

       毎年、繰り返す 闘いなんですよ。
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爺ちゃんこそ「ありがとう!」

2022-03-18 | 日記
 今朝から雨が続いています。
  少し天気が続いた後の雨は、花たちにも効果的です。

 ぐんぐん伸びていく~・・・今日は少しお休みだ。

 しかし、我が家の椿、勢いは止まりません。

  先日来からの「ロイスミナウト」は、すでに数も8つ目です。
  最初の花は、首を落としたので消えました‥‥
   現在7個が~
  

 この陽気です。
 日増しに増えてくるので大いに楽しみ。

 そんな雨の中、小学校の生徒さんの見守りのお礼状が回って来ました。
  6年生の生徒さんからです。
      
       

       

  「嬉しいですね!」
  この1通で、逆に私たち老人
  「元気百倍」に。

   本当に寒い朝、雨の日、強い風の日…ちょっとは辛いなぁ~。
   と、思った日もありましたが‥‥

   子供たちの元気な姿が生きがいと、会員の皆さんも
   「挨拶」「声かけ」
   負けずに元気出して来ました。

   やっぱり、次の時代を背負う子どもたちです。
   大きく、素直に成長してほしいと…願ってのことです。

   卒業して、中学校へ行く子供も、また、いつか会うことも。

   この春から1年生の
   ピカピカの大きなランドセルを背負って…
   本当に可愛い、可愛い 
   姿が これもまた楽しみです。

   お礼の言葉に・・・
     「これからも お体に気をつけてがん張ってください」
     と、ありました。

    身体の続く限り、私たちも頑張って、子供たちの為
    地域の「お役立ち」のために、大いに意気盛んで
      
       「高齢者だって、ここにあり!」
            頑張りますよ。
         
            本当にお手紙有難う!
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春ですね~

2022-03-13 | 日記
 今朝、起床5:30。
 いつもように天声人語の書き写しから始める。
  一行目から「植物たちに、魔法がかけられた。
  そんなふうに思えてしまうのが春という季節である」

 本当にそうですね、寒い冬を辛抱して乗り越え、枯木にしか
 見えない枝が、鮮やかな緑の目を吹いてくる。
 日差しの長さや暖かさに反応しているのだと・・・・。

 実感です。 
 毎日庭に出て落ち葉や枯れ木の掃除していても、季節の動きを
 感じます。 季節の移ろいを敏感に感じるのは、人間以上?

  今、「春が来た!」と言っているのが「桜」ですよ。

 我が家には、3種類の桜を植えたいますが、まず最初に咲くのが
 「さくらんぼ」の木。
  今朝の姿は~ もうこんなにも…満開ですよ。
  この花は、味がない…真っ白なんですよ。
   まだ 「おめかし」していない姿なんでしょうか?
  


  次は、同じさくらんぼなんですが、こちらは少し色気?があります

 小ぶりな樹ですが、「実」はしっかり毎年プレゼントしてくれます。
 まだ、膨らみ始めです。
 

 

 暖かい陽ざしは、日々成長させてくれそうですね。

もう1本は、花が小さく、桜を見る。という可愛い樹です。


 「芽」が出て、「花」が咲く。
 何となく見ている花の動きですが~不思議ですよねぇ。
 「色」も、「形」も、 変えることなく、そして、いつものように
 同じ季節になると、「こんにちは、お待ちどうさま~」って
 顔を出してくれる、植物たち…
 この不思議さがあるから、感動があるのだろう‥‥とは、まさに名言。

 「潤い」って、人間に必要なことですからね。

  そうそう、例の花。椿の「ロイスミナウト」
  一番のりの花 次が~どんどん膨らみ始めています。

   ほら! 
    

  角度を変えて~
     

  ちょっと肌寒い今朝ですが、

  花たちが、暖かい「春」を運んでくれるのに感謝・感謝です。
  
  
  
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どんどん大きくなぁ~れ!

2022-03-10 | 日記
 昨日朝、花開き始めた「ロイスミナウト」

 時系列に昨日から、今朝まで(10日朝)まで追いかけてみました。

 昨日の8:00の画像を掲載しました。

 では…14:00の「花びら」が9㎝でした。
  

   17:00 10㎝   夕日がまぶしい! 反射しています。




 一晩越して 
   今朝8:00 13㎝   朝日に輝いてますよ…
             気持ちよさそう~



   10:00 14㎝
                   花びらも大きく広がって…のびのびと。


  こんな風に、「花を愛でる」
   ベランダから、食卓から、ガラス越しにいつも眺められる。
 
   花のいきいきとした動き、風に揺れるさ姿
        陽に映えて、変わる色彩…

   赤く燃えたり、反射で白になったり、濃い赤色に変身したり
   
   花って、役者ですよ。  観る人を十分楽しませてくれます。

   これから、毎朝、ひとつずつ増えてきます。

   今年の蕾は多いので~きっと1輪は、今までよりは小ぶりかも?

   さて、いつ咲く花が、「大輪」の栄誉を?

   希望は…19㎝ ちょっと難しいかな?

   追いかけてみたいと思います。

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ようやく春の訪れ?

2022-03-09 | 日記
 今朝、NHKの天気予報で、予報士の彼女の言葉に…
「今日は、3月9日は「咲く」。」
  だそうです。

 花が咲く~とてもいい響きですね。

 早速、我が家の庭の「花」はどうかな? 
   とカメラ片手に出てみました。

 まず、ベランダの椿(ロイス・ミナウト)この春の一番打者?
 とても張り切って、蕾を膨らましています。
  もう、おそらく昼過ぎには~開花でしょう。
 

 毎年この時期になると、忘れずに開花してくれます。
 今年は、豊作? で「蕾」の数も…30近くにも。
 しばらくは、この花で、ベランダは賑わいますね。
  大輪になると、幅18㎝にもなるんですよ~凄いんです。

 その後方、庭には同じ椿の仲間で、こちらは小粒な椿
 名前が「港の華」という可愛らしい、薄ピンク色の上品な種類です。

 今、大量の蕾を膨らませている最中~



 この2~3日前から、小鳥たちが近づいています。
 鳥も良く知っていて、毎年、この椿の蜜を吸いにやって来るのです。
 いろいろな種類の小鳥たちなんです…
  毎年、この時期に同じようにブログアップしています。
 そして、最後には、この椿の樹の下に…小鳥たちが嘴で突き落とした
 花びらが絨毯のように重なっていくのです。

  さて、隣の鉢、シンビジュームの蕾も 膨らんできました。
   これも、4年目を迎えます。
         こちらは ピンク
        

         こちらは イエロー
       

  この花も、長持ちします。

 
  さぁ、庭へ足を進めて~

  もう、サクランボの木も 蕾ですよ。
        この種類は「真っ白な花です」
         小粒なサクランボで、鳥たちの餌になります。

       

     こちらは、ふっくらとした可愛い花で、実もおいしく
  毎年、鶏との格闘に勝ち抜いて? ボールに何杯も収穫してます。
   
       

   まるで雪が降っているような小さな花びらの
     「ユキヤナギ」にも、春がやって来ました。
    まだまだ ほんの目を出したばかり…
      これからが楽しみです。
      

   花壇の主役にしていた「紫陽花」をばっさり株から根こそぎ
   処分して~3株だけ残しました。
    その紫陽花も芽が~

        

    すずらん水仙の列も~整然と姿を現し緑の葉を膨らまし
   可憐な白い花が咲く姿も遠くありません。

.      
   
 以前植えていた、「原種チューリップ
  久しぶりに4種類24個 植えてみました。
  本当に小さな、可愛らしい花です。
  訪ねてくれる方の目に届く場所に植えました。
      やっと、芽を出し~どんどん大きくなりそうです。
      


  さて、ようやく春の気配

   これから庭は華やかに彩られてきますが~
 
  コロナ禍で、晩秋から、この春まで、癒してくれたのが
  この鉢植えの「シクラメン」です。

   すでに、6か月を経過~ほんとうに頑張ってくれました。
  ご褒美に? 毎朝、欠かさぬ「水」をプレゼントしてきた結果
  しおれることなく、シャッキと、茎はまっすぐに伸び
  花もしっかりと開き、誰からも、喜ばれ~
     もうすぐ役目を終えようとしています。
 
          長い間、ありがとう!

    3月9日 「咲く」日に最高殊勲選手賞を あなたに~
     
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デトロイト美術館の奇跡 NO.5 最終

2022-03-04 | 日記
 第4章 デトロイト美術館 《奇跡》 2013~2015年

 目が覚めるほどの青空がいっぱい広がった冬の朝、
 ジェフリー・マグノイドは、出発予定時刻よりも1時間早く家を出た。

 その日、デトロイトのダウンタウンにあるセオドア・レヴィン裁判所で、
     重要な会議・・・裁判ではなく、
   あくまでも会議だ ~ が開かれることになっていた。
 ジェフリーは、その会議の傍聴者として参加することを許されていた。
 
        DIAの存続がかかった大一番の会議になるずだ。

 まず、その前に、いつものラリーズの店へ。
 店内に入っていくと…奥のカウンターに~フレッドが。
        「やあ、ジェフリー。やっぱり来たか」

 隣同士に座って、コーヒーを飲みいつも通りに会話を楽しんだ。

          

 時計の針が、8時半を指していた。
   「そろそろ行くよ」と、ジェフリーが立ち上がった。

 特別室のドアーが、9時きっかりに開けられた。 
 会議の進行役を務める裁判官、ダニエル・クーパーに呼び止められた。
  
   「君の席は私のすぐ後ろだ、ジェフリー」 小声で耳打ちされた。
      見守っていてほしい
        という裁判官の気持ちがその一言に込められていた。
 
  「皆さん、お手元の資料の表紙をご覧ください。
   
   本日、私たちは、なんのために集まり、協議するのか。
     その目的がそこに書かれています」
                                                        ダニエルが朗々と語った。


  「デトロイト市の退職職員の年金削減の救済 
   ならびに市の経済的・文化的活力再興の為の資金調達と支給」

       ~ ~ ~

 連邦裁判所で会議が行われる2か月前のこと・・・・

ジェフリーは、ラリーに紹介されて二人は握手を交わした。
 櫛目の通った銀色の髪はきっちりと撫でつけられている。

 「ジェフリー、こちらがダニエル・クーパー裁判官」

 連邦裁判所の裁判官といえば、社会的な地位も名誉もある職だ。
 しかし、ダニエルは尊大なところはちっともなく、気さくで飾り気の
 ない人物だった。 

        

 すぐに意気投合した二人は、しばらくよもやま話に花を咲かせていたが‥‥
 ジェフリーは、ふと、
   この人物に自分の本音を聞いてもらいたい気持ちになった。

 「ところで・・・・」
   ダニエルがふいに話題を変えた。
 「もしも、DIAが閉鎖されてしまったら君はどうするつもりだい!」
   どきりとした。
 
 「わかりません…答えるのは、とてもむつかしい」

 ダニエル
「僕だって市の職員だ。もしもらえるはずの年金が大幅にカットされて、
 退職後の生活がままならなくなってしまったら‥‥
 どれほどきついことなのか、
 自分の身に置き換えてみればよく分かります。 でも‥‥」

 ジェフリー
「それでも、DIAのコレクションを散逸させることは、
 許されないことだと思います。
 退職者の年金を守ることも重要です。
  けれど、コレクションを守ることも重要です。
 僕は、その両方を実現したい。~このふたつは等しく価値があります
 どちらかをとってどちらかを切ることはことは、できません」

 ダニエルは、ジェフリーをみつめた。深く、思い詰めた目で。
  そして、何も言わなかった。
        
                                     沈黙が流れる

 やがてゆっくりとジェフリーの方を向いた。
 「ジェフリー、 DIAのコレクションは、クリスティーの試算によれば、
   100億ドル以上の価値があるということだったね? 

 ジェフリーは正直にうなずいた。
 「ええ、100億どころではありません。 とてつもない価値があります」

  「…だったら…それを『売る』のではなく、『守る』ために、
    寄付を募るだけの価値がある‥‥ということだね?」

 ジェフリーは、はっと息をのんだ。

 ダニエルの瞳には輝きが宿っていた。
 朗らかな声で彼は言った。

    「『売る』ではなく『募る』発想の転換だ。
           ‥‥やってみようじゃないか」

     ~ ~ ~

 2015年1月。
 フレッド・ウイルはベッドの中で目覚めた。
 軽やかにメールの受信音が…
 ジェフリーからのメールだった。
         
                     「We did  it !  (ついにやった!」

 メールを開いた。
 差出人 : ジェフリー・マクノイド
 宛先  :フレッド・ウイル
 件名  :ついにやった!

 フレッド、速報だ!
 DIAがついに寄付金目標額を達成した。
 資金調達キャンペーンの最後の最後になって
 アンドリュー・メロン財団 
        
 ゲティ財団
                         
 
   が巨額の寄付を表明してくれたんだ。
 これと引き換えに、美術館は市の管理下を離れて独立行政法人になる。
 これからは市の経済状態に左右されることなく、存続していくことが
 できるようになったんだ。

  「な‥‥なんてこった! ほんとうか、ジェフリー⁈ 」

 フレッド、僕は、まずあなたに感謝の言葉を告げたくて、
   誰よりも先にこのメールを打っている。

 僕は、あなたような市民がいるこの街、
 デトロイトを誇りに思う。
 あなたがこの街にいてくれたことこそが
          デトロイト美術館の奇跡なんだ。

 ありがとう。

     ~  ~  ~

 すっきりと晴れ渡った青空の中で、星条旗とミシガン州旗がはためいている。
 白い石造りの建物が、春の日差しの中で眩しく輝いている。

 デトロイト美術館の正面入り口に、フレッドはひとり、佇んでいた。
 
      

            終わり

これも 何てこった! ですよ。

  ‥‥この裁判の後  僅かの時間で 
 このデトロイトの至宝(ロバート・タナヒル・コレクション)
 日本へ初上陸し、東京上野の森美術館(2016.10.7~2017.1.21)
 を皮切りに巡回展が行われた。
                   
 最後に、この時にお目見えした名作を少しご紹介しましょう。
 この連載中にアップした名画も、もちろん展示されました。
  作中でクリスティーズが査定した、多くの作品‥‥
   実際に、これをオークションに掛ければ
        いったい どれほどになるのでしょうか?

  ヴィンセント・ファン・ゴッホの「自画像」     

          

     「 オワーズ川の岸辺、オーヴェールにて」
        

    ドガ 「女性の肖像」
        

    モネ 「グラジオラス」
        

    ルノワール 「肘掛け椅子の女性」
        
 
      「座る女」
        

   ワシリー・カンディンスキー 「白いフォルムのある習作」
        

   モジリアニ 「女の肖像」
        

        
    「男の肖像」
        


 どれもこれも、あの騒動から・・・

 全てのコレクションが今も、美術館のそれぞれの部屋で
      今日も・・・息づいているのです。

 もう一度、日本へ来る機会があれば~
        今度こそ、絶対に 美術館には 足を向けるぞ!  
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デトロイト美術館の奇跡 NO.4

2022-03-03 | 日記
  第3章 ジェフリー・マクノイド<予期せぬ訪問者>

 ジェフリー・マクノイド 
  DIA(デトロイト美術館)チーフ・キューレーター
    コレクション担当として勤め始めてから、すでに15年。

 前職は SFMOMA (サンフランシスコ近代美術館)  
             アシスタント・キューレ-ター
     
   

  いずれアメリカ国内のどこかの美術館でキューレーターになることを
 狙っていた。ジェフリーは、DIAでキューレーターを募集しているとの
 情報をキャッチするや、すぐに面接を申し入れる。

 とんとん拍子で話が進み、応募の3か月後にはデトロイトに移住。
 DIAに通い始めめていた。
           

 自分のこの先の人生を捧げても構わないと思うほど特別な美術館。
 彼は強くまっすぐにそう信じていた。

  なぜ? …DIAに《マダム・セザンヌ》があったからだ。

         

  彼は大学時代から{ポール・セザンヌ}のことを研究し続けていた。
 この作品を見るために、何度もデトロイトを訪問した。

 DIAでこの絵に対峙したとき、ひと目でこの作品が気に入ってしまった。
 セザンヌを、そしてこの肖像画の女性、オルタンスを…
 どこまでも追いかけてみたい、と思ったのだ。

 彼の生活は、結果的に、デトロイト美術館の職員だった女性と結婚し、
 一男一女にも恵まれて、幸せな家庭を築いたのだから、デトロイトに
 来たことは間違っていなかったと…。
 
前章でもすでに話していますが、
 この美術館のコレクションは、幅広い時代と領域をカバーしている。
 中でも、印象派・後期印象派・近代美術の充実ぶりは、全米屈指と
 言いてもいい。
 ゴッホやマチスの作品は、アメリカの他の公立美術館に先駆けて
 購入した歴史を持つ。
 セザンヌの作品も、DIAの歴史に燦然と名を残コレクター、
 ロバート・タナヒルが所有していたものだ。
   
 彼は、このコレクションを、彼の死後、そっくりDIAに寄贈してくれた。

 
 愛する家族と職場の気さくな仲間たちに囲まれ、
 DIAのすばらしいコレクションを研究し、展覧会を企画する
 仕事に打ち込む。 
 この上なく充実した幸福な人生を、ジェフリーは送っていた。

 そして、そんな日々がこれからもずっと続くと思っていた。
        ~ そう、つい今朝までは。
 
    
        

  「おはよう、ジェフリー。 コーヒーでいいかい?」
    カウンターの一番奥の席に座ると、店主のラリーが気さくに
     声をかけて来きた。

   「とびきり熱いやつを頼むよ」  
       
     1分と経たずに、カップ入れられた熱いコーヒーが出て来た。 


  ラリーが心配そうな表情で…
    「ニュース 見たよ。 ‥‥なぁ、冗談だろう?」

    「なんのことだい?」とジェフリーは・・・訊き返した。

  「今朝の「デトロイト・フリープレス」のトップニュースに
         なっていたじゃないか。
       デトロイト市がまもなく「破産」するってこと…は、  
 
*この日のニュースは、世界中を飛んで行った~
  当時の日本の新聞にも掲載されている…一部をカット、編集しました。   
      
  


 カウンターにコーヒー代を置いて、ジェフリーは店を出た。
 歩きながら… 
     靄のような不安が胸のうちを覆うのを感じていた。

   デトロイト市財政破綻 DIAのコレクション 売却へ


今朝、自宅の新聞の一面に躍っていた文字をみつけて、
 ジェフは目を疑った。
   なんだって?
 一瞬、血の気が引くのを感じた。 あわてて記事に目を通す。


・・・記事には、デトロイト市はDIAのコレクションを売却し返済に充てる
 ことも検討せざるを得ない状況に追い込まれている。 と。
      
 ‥‥まさか。


 二階奥のオフィスへと足早に歩いて行く。おはよう、と、
 言い交す職場の仲間たちの表情が、心なしか硬い気がする。

 広報の責任者に、まずは、事の次第を聞かなければならない。
 呼び出したが、なかなか応答がない。
 すでに問い合わせが殺到しているに違いなかった。  

 せわしくなくドアをノックする音がした。
 アシスタントがドアの隙間から顔を覗かせ~
 「おはようございます。あの、朝一番で、電話が掛かって来て…
   面会の申し入れがあったのですが」

  悪い予感がした。 が、「そう、誰だい?」と。
 
「クリスティーズ」からです。
 DIAのコレクションの査定のために、来週中に一度お目にかかりたいと」


 *「クリスティーズ」
         世界中で知られるオークションハウス(競売会社)
   美術商のジェームス・クリスティにより1766年 イギリスのロンドン
   に設立された。世界で最も規模の大きいオークションハウスである。

    ロンドン 1808年頃のクリスティーズ
       

     現代
       
  
 クリスティーズにおいて
   近年の最高落札の絵画 レオナルド・ダ・ヴィンチ
        「サルバトール・ムンディ」
       

       
   
        
  連日、市民からの問い合わせや苦情が殺到している。
  ほんとうにDIAのコレクションは売却されるのか?
  そうなったら市民はもうコレクションを見ることができなるのか?

 その一方で、
  債権者や市の年金受給者からの圧力も想像を絶するほど激しかった。
  市は売却できるものは即刻売却して1弗でも多く換金し、自分たちへの
  返済に充てるべきだ。
   だからDIAのコレクションを売却するのは当然の成り行きだ。

   ・・・そんな声が続々と・・・。

  7月18日、デトロイト市はミシガン州連邦破産裁判所に
  連邦破産法第9章の適用を申請、事実上の財政破綻となった。
  負債総額は180億ドルを超え、アメリカの自治体の破綻としては
  過去最大となった。

 そして、ミシガン州から派遣された
 緊急財政管理官レイモンド・ミラーの指示のもとに、いち早く
 DIAへ送り込まれたのだった。

 DIAのコレクション担当チーフ・キュレーターである
  ジェフリーは、査定チームとの面談に臨んだ。

 財政危機が宣告されてまもなく
 債務返済のためにDIAのコレクション売却が検討されていることが
 公になった。
 

 雨の中にひっそりと佇むDIAの白亜の建物は、巨大な墓標のようだった。
        
               
  アシスタントのレイチェルが 声を
  「おはようございます。
  あの…「ロバート・タナヒル・コレクション」のカタログの著者
  に面会したいという方が、ギャラリーで待っておられるんですが」
  
  「そう誰だい?」

  「ミスター・フレッド・ウイルという、
    一般のデトロイト市民だそうです。」

 《マダム・セザンヌ》の前に、その男はぽつんと佇んでいた。

           

 「こんにちは、フレッド。 
   チーフ・キュレーターのジェフリー・マクノイドです。」

  ジェフリーは、この初対面の老人にたちまち親しみを覚えた。
 
 「奥様とご一緒に、いつもここへ来ていただいていたそうですね」

  そこで、フレッドとジェフリーは、妻との思い出…
  ことあるごとにDIAへ通った話を‥続けた~

  「DIAに友達がいたのですか?」とジェフリーが尋ねると…

   にっこりと笑顔で 「ええ、いますとも。
              ‥‥ほら、こんなにたくさん

  ぐるりと巡らせ~ ギャラリー内に展示してある作品の数々を
  眺め、・・・・
   DIAは、」あたしの「友だちの家」なの。 
   と妻のジェシカは言って 
       ここを訪ねることを楽しみにしていた。

   「すみません。おかしなことを言ってしまって‥‥」
  
  ジェフリーは、黙って首を横に振った。

  何か言いたかったけれど、胸に熱いものがこみ上げてしまって、
  どんな言葉も出てこなかった。

  やがて、ジーンズのポケットから皺くちゃの紙片を取り出した。
  そして、ジェフリーに向かって 「…これを」 と差し出した。

  手渡された紙片をみて、ジェフリーは、はっとした。
   それは小切手だった。額面は500弗。
   支払先には「Detroit  Institute  of  Arts」と書かれている。
    「Fred Will」と署名もされていた。
 
  フレッドは、ごく穏やかな声で、「受け取って下さい」と言った。
  「私は年金生活者だから、その金額が精一杯なんですが…
     ほんのわずかでも、寄付をしたいんです」
  
  もしもコレクションが売却されれば、
     二度とこの街に戻ってくることはないだろう。 
         私たちはもう会うことができないだろう。

            助けたいのです。 ・・・・友を。

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「デトロイト美術館の奇跡」NO.3

2022-03-02 | 日記
 ジェシカと共にDIAに足繁く通うになって、10年以上が経っていた
けれど、去年の秋口にジェシカが体調を崩し、末期がんであると
宣告されてからは、すっかり足が遠のいてしまっていた。

ジェシカも医療保険に加入していなかった。
手術には多額の費用がかかる。
ジェシカには黙って自宅を担保に借金しようとした。
ところが、銀行は首を縦に振らなかった。
父が遺してくれた唯一の財産である自宅には、
もはやなんの価値もないと判断されてしまったのだ。

手術もできなければ、入院すらもできない。
いったい自分は何をしてきたのだと、フレッドは自分を責めた。
妻の命を救ってやれないなんて…日に日に衰弱していくのを眺めることしか
できないなんて。
 ジェシカ。…ああ、ジェシカ、許してくれ。役立たずのおれを。

           ~~~
 ・・・あたしのお願い、ひとつだけ聞いてくれる?
          最後にもう一度だけ、一緒に行きたいの。
           デトロイト美術館へ。

        
 
そして、フレッドは、痩せ衰えたジェシカを乗せた車椅子を
押して、DIAへ出かけていった。

これが最後の訪問になるとフレッドは分かっていた。
だから、正面の堂々とした入り口から入って、ホールを通り、
       

リベラ・コートを抜けて、
     ジェシカが大好きな部屋へ入っていくことにした。

その日、ジェシカは、口紅を付け、ほを紅をさして、
目いっぱいおしゃれをした。
かっての職場の同僚、エミリーが整えてくれた。
とってもきれいよ! とエミリーは鏡を覗き込んでそう言った。

事前に車椅子の妻を連れていきます。と、頼んでいた。
 「どうぞご心配なくいらしてください」
             事務局の担当者は応えた。
 階段の下で美術館の男性職員が4人、待機していた。

「ようこそDIAへ、と彼らは、笑顔で二人を迎えてくれた。
  そして、車いすを持ち上げて、入り口まで運んでくれたのだ。

フレッドは胸がいっぱいなった。
  ありがとう、とひと言だけ告げて、後は言葉にならなかった。

          《マダム・セザンヌ》の前に、車椅子のジェシカとともに                            
                                                                                     
                                  

 佇んで~フレッドは、
 ほんとうに思わず、彼女、お前に似ているね、とつぶやいた。
                                                   
 ジェシカはじっとみつめたまま、何とも応えなかった。
 黙ったままで、いつまでも、いつまでも、絵をみつめていた。

   ~ねぇ、フレッド、お願いがあるの。
   
  どのくらい経ったのだろうか、ジェシカが
             ふいにかすれた声でつぶやいた。

  …あたしがいなくなっても…彼女に会いに来てくれる?

    彼女、あなたがまた来てくれるのを、
    きっと待っていてくれるはずだから。
    あたしも、あなたのこと、見守っているわ。
    彼女と一緒に、ここで。

  その2週間後、眠るように、おだやかにジェシカは旅立っていった。

 

  フレッドは
   ふらりとDIAへ出かけ、《マダム・セザンヌ》と心ゆくまで対話して、
              
 帰り道、イースト・ワ-レン・アヴェニューにあるカフェ「ラリーズ」に
  立ち寄るのが、ひとりになってからのフレッドの定番になっていた

 ミルクと砂糖をたっぷり入れたコーヒーをすすりながら新聞を手にした瞬間、
 
    一面トップの見出しが、フレッドの目に飛び込んできた。
        
          ~えっ? なんだって?

       フレッドは思わず両手で目をこすった。
 その一文は、無慈悲なほどくっきりと鮮やかに、紙面の上で躍っていた。

     デトロイト市財政破綻 DIAのコレクション 売却へ
 
       




 第2章 ロバート・タナヒル 《マダム・セザンヌ》1969年

 
 ロバート・ハドソン・タナヒルは、
   午後のまどろみから目を覚ました。
                                 
 
  なんだろう、とても居心地のいい夢を見ていた。
   眩しい陽光に包まれたような‥‥いったい、夢の中で、
   私はどこにいたのだろう?
   ここ…デトロイトではないどこか? ~
   いま~春のまだ浅い季節ではなく~そうだ、
   初夏の日差しに満ち溢れた、あれは、~パリ、だったのだろうか。

 初めてパリを訪問したのは、かれこれ44年も前のことだ。       

 自分はあの時32歳。
 胸をときめかせながら花の都へ旅をした。

その頃、デトロイトの社交界で、ロバートは「若きコレクター」とか
 「新米の収集家」とかいう形容付きで紹介されていた。
  ・・・・「コレクター」として認識されていたことは、大きな誇りでもあった。
                        
   

 マントルピースでは、炭火が静かに燃えている。
               

 右横には大きな二つの窓があり、その向こうにはセント・クレア湖
    広がっている。
   
           湖の向こうはカナダだった。

大きなふたつの窓の間には飾り卓が据えてあり、その上の壁に1枚の絵
掛けられていた。
   ポール・セザンヌの筆による作品。
    《マダム・セザンヌ》という」タイトルの油彩画だった。

                        

 
  この絵の居場所は、この邸に引っ越してきた当初から、邸中で最も
 目立つ場所、リビングにあるふたつの窓のあいだの壁~
 と、決まっていた。
 なぜなら、ここを訪れる客人をもてなす場所であり、
 彼らと談笑する部屋であるから。
 そして何より、自分自身が毎日くつろいで過ごすところだから。

    ロバートは、デトロイトの裕福な一族~
 父はデパートの副社長であり
 従姉妹はフォード家に嫁いだ…出自とする
 タナヒルは、若い頃から 現在に至るまで、DIAにとっては
 なくてはならない存在であった。
 巨万の富に支えられて、働かずとも優雅に暮らしていける立場であった。

 派手な生活を好まず、76歳の今日まで独身を貫いてきた。
 デトロイトの社交界の人々はひそかに変人扱いしていたが…
 美術界は違った。
 生涯を通して美術品収集とDIAへの惜しみない援助
 財政支援と作品寄付の両面において~
 情熱を注いできた彼の功績はただならぬものである。

 家政婦のルイーズが顔をのぞかせた。
 ウイルス・ウッズさまがお見えです。
  「お約束はないとのことですが、お通しいたしますか?」

  「もちろんだとも、断る理由などない」

   デトロイト美術館の館長 ウイルス・F・ウッズであった。
 
  その日、ロバートの誕生日だった…そのお祝いに…
 しばらく談笑の後、帰っていった…
 帰り際に~ウイルスは
「ここから出ていくときは、いつも後ろ髪を引かれる思いです。
 あなたばかりでなく、ピカソとゴーギャンにも
 見送られるのですから‥‥」

  ホールの正面の壁にはパブロ・ピカソの油彩画
 《アルルカンの頭部》

階段横の壁にはポール・ゴーギャンの油彩画《自画像》

   
が掛けられていた。

 リビングに戻ると~ソファの右手に掛けられている
《マダム・セザンヌ》がこちらをじっとみつめている。

‥‥ ロバートは「空想を巡らす」
そうだ、おそらく、
  このくらいの位置に画家はイーゼルを立てたはずだ。
  そしてちょうどあの壁あたりに、妻を座らせて…
  そして、こんなふうに語りかけたに違いない。
   「いいね、オルタンス。
    絶対に動いてはならないよ。
    私が絵筆を動かしているあいだ。
    お前はリンゴになっていると思いなさい。
    微笑んだり、ため息をついたりしないでほしい。」・・・・

 セザンヌは生涯に油彩だけでも、29点もの肖像画を描いたという。

 《サント・ヴィクトワール山》
     

《リンゴのある静物》
  

と同様、セザンヌは
    自分の妻を{動かざるモデル}として、好んで描いていた。

 セザンヌが同じモティーフを選んで繰り返し描いたのは頑固に独自の画法を
  追求したからだ。時間をかけて対象を分析しながら、着実に自分のものに
  していく。それがセザンヌのスタイルだった。

 ここで妻の「肖像画」、「リンゴのある静物」「サント・ヴィクトワール山」

                を数点ご紹介しておきます。

 

  

  

山や静物のような動かざるモデルは理想的だっただろう。
そして彼の妻もまた、辛抱強く夫の目の前に座り続けた。

セザンヌにとって、オルタンスは、
ふるさとの山、サント・ヴィクトワール山であり、世界をあっといわせる
いびつなリンゴだった。 

《マダム・セザンヌ》を初めて見たときのことをいまでもはっきりと
 思い出す。 
 1935年、ニューヨークのディラーを介してパリの画商から
 購入したのだ。

 この絵は、もともと全米屈指のモダン・アートの収集家
 アルバート・C・バーンズ博士が所有していたものだが、
                  バーンズコレクション
         
 博士が財団を設立する際、資金調達のために、数多く所有していた作品
 の これはその中の一点で、パリへ「里帰り」したということだった。


この1枚の絵が、彼を変えた。
  ごく普通の、どこにでもいるような女性だ。
  それに、絵に描かれるほどの特別な美人かと問われれば、
  そうとは言えない。
  けれど…。
  このままずっと、いつまでもみつめられたい。
  そして、みつめていたい。

その時からずっと、《マダム・セザンヌ》はロバートとともにあった。
 
ロバートがモダンアートの真の素晴らしさを
 体得するきっかけを与えてくれたのは、ポール・セザンヌの作品だった。

 わけの分からない作品?は 到底受け入れられない…と思っていたが
ロバートは、驚くほどすんなりとそれが自分の中に入って来るのを感じた。

暴れ狂うタッチと激しい色彩、奥行きのない画面、でこぼこの表面。
そのすべてが新鮮で、」好奇心がそそられた。
 特にヴィンセント・ファン・ゴッホの《自画像》

         

 アンリ・マチスの《窓》

         

  画中にぐっと引き込まれる感覚があった。

 1925年、パリ万国博覧会が開催。
 ロバートは、社交界の友人たちと共に、パリ万博を視察がてら、
 イタリアやイギリスやオーストリアなど
 ヨーロッパ諸国をめぐる旅に出た。

 旅立つ前にDIAを訪問した時に…彼、ヴァレンティーナの言葉を
 思い出した…(のちのデトロイト美術館の館長)
 アドヴァイスを受けていた。
「パリに行ったら、是非、立ち寄っていただきたい画廊があります。」

 すっかり疲れてしまった一行を残し、
 ロバートはひとり、画廊へ出向いた。
 
そのいショーウインドウに飾ってあったのが、ポール・セザンヌの
静物画だった。

そのリンゴを見つめるうちに、口の中が酸っぱくなって来るのを感じた。
そのリンゴは現実離れしたかたちであるのに、甘酸っぱい香りと味が
したのだ‥‥。

 いま、邸のリビングで、《マダム・セザンヌ》と向き合いながら、
 ロバートはセザンヌの作品を見た瞬間を思い出していた。
  …いまでもときどき思い出す。
   そのたびに、リンゴをかじった甘酸っぱさが口の中に蘇ってくる。

 あれから、10年後~ 巡り巡って、《マダム・セザンヌ》が
  デトロイトに、自分のもとにやって来た。

 いつまでもみつめられたい。そして、みつめていたい。

 「… おそらく、死ぬまでかわらないんだろうな 」
 
  その年の秋、ロバート・タナヒルは、永遠の旅路についた。
 
  《マダム・セザンヌ》はロバートの遺志通り、
             DIAの一室の壁に掛けられた。
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「デトロイト美術館の奇跡」NO.2

2022-03-01 | 日記
 主人公のフレッド・ウイルはこの街デトロイト
中心部ブラッシュ・パークに5歳の時に引っ越して以来、
60年以上も暮らしている。
父親と同じ溶接工としてアメリカ最大の自動車メーカーの工場に就職
フレッドにとっては一番居心地のいい「自分の居場所」なのである。
        
 
                                デトロイト市
        

                            
        
   GM 本社           工場

       工場内 溶接
         

   そして、世界最大のモーターショーも開催される
            自動車の町である


「夜が闇のヴェールを少しずつ引き上げて、小さな部屋の中がまるで
ミルクに浸されていくようにやわらかく白々と明るくなり始める頃、
小鳥のさえずりが聞こえ始めるより早く、フレッド・ウイルは目覚めの
時を迎える。
 妻が亡くなってからというもの、毎朝、そんな時間に目覚めて、
もう眠れなくなってしまうのだ。」

 
22歳のときにふたつ年下のジェシカと結婚します。
新婚の二人は、フレッドの父と共にこの家で暮らした。
母はフッドが15歳で溶接子になった直後に病気で他界した。

ジェシカはパートタイムで、
近所のスーパーでレジ係として働いていた。
オフィスの掃除、レストランの皿洗い、
食品加工の工場で野菜のカット等の仕事を~
とにかく結婚してから他界するまで、ジェシカが働かなかったことは、
父の介護をしていた時期を除いて、ほとんどなかった。

その父もジェシカと共に暮らし始めて1年もたたないうちに、
あっけなく他界した。
最後の日々、献身的に父を支えたのはジェシカだった。
あれから、夫婦ふたりきりで~そう、
ふたりは子供に恵まれなっかた。

フレッドが40年もの間勤め続けた自動車会社に解雇されたのは、
13年前、55歳のときのことだ。
長引く不景気で、自動車産業は業績が著しく悪化、各企業は大幅な
コストカット、人員削減に乗り出していた。

まさか自分がレイオフの対象になるなどとは考えもしなかった。
(自分は15歳の時からずっとここで働いているベテラン中のベテランだ‥‥)

しかし、まもなく…ほんとうに信じがたい展開だったが~
フレッドはあっけなく失業してしまったのだ。

 まかせといて、と妻は言った。
あたし、あなたのぶんまでがんばって働くから、
なんの心配もいらないわ。

それから、こんなふうにも言った。
 「~ねぇ フレッド、その代わり、あたしのお願い
ひとつだけ聞いてくれる? 」

「あなたがリタイヤして、時間にも心にも余裕ができたら…
あたし、一緒に行きたいと思ってたの。」
      ーデトロイト美術館へ。
          (通称DIA Detroit Iinstitute of  Arts  )

   


その後~

フレッドは車から降りた。
デトロイト美術館の正面入り口には星条旗とミシガン州旗が掲げられ、
かすみがかった青空にたなびいていた。

フレッドは、この堂々とした階段を上がって、
正面から入っていくのがお気に入りなのだ。
 入るとすぐに広々としたホールが現れる。
左右に配置された彫刻達に見守られながら、
大理石の床をまっすぐ進んでいく。
その瞬間、ほんの少し、背筋が伸びる。
胸がわくわくしてくる
大好きなアートに向かい合う特別な時間がこれから始まるのだ。

 ホールの突き当りには、柔らかな光に満ちた
       「リベラ・コート」


コートの四方は、メキシコを代表する画家、ディエゴ・リベラが描いた
  フレスコ壁画《デトロイトの産業》でぐるりと囲まれている。

「フレスコ」は、13~16世紀のイタリアで制作された壁画によく使われた手法。
  まず、壁に、漆喰を塗り、その漆喰がまだ「フレスコ(新鮮)」である状態
  つまり、生乾きの間に水または石灰水で溶いた、顔料で描く。
  やり直しが効かないため、高度な計画と技術力が必要とする。
  このフレスコ画で有名なのが、バチカン宮殿にある 
         ミケランジェロの「最後の審判」
       
      
リベラは、この作品を1932年4月から33年3月まで、11か月かけて
ほぼ、ひとりで仕上げったという~。

           ディエゴ・リベラ
             

このコートに一歩足を踏み入れれば~ それが誰であれ…
 おお! と驚きの声を放たずにはいられないはずだ。

壁いっぱいにデトロイトを代表する産業、自動車工場の様子が、
活力と叡智と情熱をもって描かれている。

 「デトロイト産業」の北側

 南側


美術館のコレクションギャラリーへと続く入り口がいくつかある。
その中のひとつは、
印象派・後期印象派のギャラリーへとつながっている。

 一息ついて~入っていく。
もっとも胸が高鳴る瞬間だ。

まるで愛する人にこっそりと花束を届けに行くようなーー。

DIAのコレクションには、実に様々な時代、分野、国々の
美術品が含まれている。
日本の仏教美術、  バビロンのインシュタル門の装飾、


 

ピーテル・ブリューゲルの《婚宴の踊り》

 などなど~
いったい何がどうなって、こんなにすごい美術品がこの街のこの美術館に
集まって来たのか‥‥

デトロイト美術館を創ろう、とあるとき誰かがか考えて、
それに賛同する人々が集まって、お金や美術品を寄付する人々を募り、
アートの専門家が雇われ、建物が造られ、コレクションが納められ
美術館が出来上がったのだ。  と、フレッドは想う。

 DIAができたのは、1885年。
いまから130年以上も前のことになる。
ずっと、デトロイト市民の為に開放され続けているのだ。

 フレッドは、もともと芸術にはさほどの興味はなかった。
正直に言えば、長年勤めた会社を解雇されるまでは、一度もDIAを
訪れたことはなかった。
自分のような人間が行くべき場所ではないのだ。
けれど、、その考えを一蹴したのは、
      誰あろう、妻のジェシカだった。

 あの一言、  あたし、一緒に行きたいと思ってたの。
            デトロイト美術館へ。

実は、ジェシカは毎月一度、DIAに行っていた。
レストランで働いていた頃のパート仲間のエミリーが、
子供を連れて行ってとても楽しかった、
と教えてくれたのがきっかけだった。
「あたしも行ってみようかな?」 ジェシカは何気なく言うと… 

行ってみなさいよ、何時間でもいられるわよ!
  とエミリーは興奮気味に応えた。

それで、試しに行ってみようと思い立った。
 エミリーの言うことは本当だった。
ギャラリーからギャラリーへ、歩み入るたびに新しい発見があった。
 すっかり夢中になった。

 月に一度は時間を見つけて出かけるようになった。
 
そして、いつかフレッドと一緒に来たい、との思いが膨らんだ。
フレッドがリタイヤして心にも、時間にも、
そして年金が支給されて少しばかりお金にも余裕ができたら~
  きっと一緒に来よう。
  そして自分の友人たちを紹介しよう。
  そんなふうに心に決めていた。

‥‥友人たち? いったい 誰のことだい? フレッドが尋ねると、
  ジェシカは、少し照れくさそうな笑顔になって、
         ‥‥アートのことよ。
     DIAは、あたしの「友だちの家」なの。
              うれしそうに答えたのだった。

場面変わって… 
 今日もまた「彼女」がフレッドの到来を待っていた。
  「彼女」の前に、ひとり、佇むと、フレッドはごく小さくため息をついた。
   やあ、元気そうだね。また会いに来たよ。
   俺の方は、あいかわらず、見ての通りさ。

  フレッドが向き合っている「彼女」。
    ポール・セザンヌ作《マダム・セザンヌ(画家の夫人》)

    1886年頃 セザンヌ47歳くらいの時に完成した、
       セザンヌの妻、オルタンスの肖像画である。      

DIAが所蔵するコレクションの中で、フレッドはこの作品が
 いっとう好きだった。
   彼女の、なんとまあ、魅力的なこと!

もう何度、この絵の前に佇んだだろう…
 けれど、何度向き合っても飽きることがなかった。
 みつめるほどに、彼女の魅力はフレッドの胸に迫った。

 なんだろう、この感じ・・・と不思議に思っていたが。
 あるとき、ふと、この絵の中のマダム・セザンヌは、なんとなく
 ジェシカに似ているんだと気がついた。

何もかも全部ジェシカとは違う。
 それなのに、すべてが似ている。フレッドは感じた。
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続 黄昏どきを愉しむ

 傘寿を超すと「人生の壁」を超えた。  でも、脳も体もまだいけそう~  もう少し、世間の仲間から抜け出すのを待とう。  指先の運動と、脳の体操のために「ブログ」が友となってエネルギの補給としたい。