「わかった。今日は三班、休憩は三番目」
「三班というと・・・神殿とかですか?」
「いま、メモを渡すから・・・」
「じゃあお願いね、ブリングリー。」
古代エジプトの展示エリアは、他に類をみない仕事場だ。
膨大なコレクションの量を展示できるほどの広大なスペース。
その豪華さ。3000年もの長期にわたる民族のアイデンティティを
失わずにそしてそれらのもたらす美は、この展示エリアに入った瞬間に
感じられる。
王家の谷、ピラミッド、周期的に氾濫するナイル川・・・
メトロポリタン美術館のなかで、この展示エリアほど幅広い層に
訴える場所はない。
学童も、野外調査を好む教授も~ここで警備員の仕事をしていると、
来館者が投げかけるきわめて象徴的な質問を何度も耳にすることになる。
「ねぇ、これって本物なの?」
私は、紀元前2350年頃につくられた「ペルネブの墓」そばに立つ。
「これって、エジプトにあったてこと?」 「5000年前?」
「でもさ、これ全部が本当に本物だなんて信じられないよ」
「私はこういう人たちが好きだ」
「彩色された木製の人形」
順路で展示室を移動する~
ショーケースの中には、模型の船や、忠実に再現されたミニチュアの
いろいろなものがそこに置かれている。
私の持ち場も交代して、その日の三番目の持ち場。
硬直したような石彫りのファラオ像、象形文字がはっきりと刻まれた
すらりと伸びる円柱。浅い浮き彫りに優雅な横顔をみせている神々や
司祭や王家の人々など…
目の目には新王国時代のファラオ、ハトシェプスト女王の有名な座像
がある。
その両側に、アメン=ラー神に捧げ物をしている巨大な像もある。
この部屋にある展示物は、この女王の埋葬殿から発掘されたもの。
次は、「テンドゥール神殿」の班に~。
この美術館の驚異の一つ。
見事な神殿の敷地がダム建設により水没する前に、ニューヨークに移送
された。 (アスワン・ハイ・ダムの建設に伴ってヌピア遺跡群を移築した有名な話)
本書イラスト 「メトロポリタン美術館の驚異の一つ、テンドゥール神殿」
写真
どうやって運んだの?・・・・
遺跡の跡から海まで~ 日本で言う…まさか「修羅」のような・・
しかし、途方もない作業だよ 驚嘆と敬服。
この神殿は紀元前15年頃 ローマ時代のもの。
初代ローマ皇帝の アウグストゥスです。
神殿の傍に 「ハトシェプスト女王スフインクス」が。
これって、1920年代にメトロポリタン美術館の発掘チームが発見・復元したそうです。
各国が競って発掘調査・・・盗掘?なんかの匂いも??
でも、結果、政情不安な国の事情を考えれば・・・
こうした遺跡群、文化遺産は争いのないところで保存されるのが人類の歴史考証にとって
大切な一面ですね。
今日、日本でも「戦後80年」と言って、各地で「戦争の悲惨さを後世に残す」
そんな動きが目立ていますが、振り返ってみると世界各地で「戦争の終結」が
無残にも「廃墟」と化し、「歴史の証」を消滅していった例は事欠かない。
大変残念なことだと思います。
世界の美術館の役割って・・・「美術品」をみせるだけじゃないんですね。
人類の生きてきた「歴史」の証を、
現代の私たちに教えてくれる貴重な教科書です。
だから、「出会い」 「感動」 時間の経過を身に感じ、
語らぬ相手だが~じっと見つめていると理解できる。
それが、「本物」の魅力なんです!
さぁ、まだまだ展示物はめまいがするほどありますよ。
でも、この膨大な展示品を細かく紹介するには、途方もない時間が必要。
少し、飛ばしながら前へ進みます。
次の展示室には何が待っているのだろうか。