《面接を始める前に帳票に記された資料に目を通すとIQが82、主な病歴なし、文身・玉入れなし、覚せい剤、薬物なし、暴力団組員履歴,〇〇県警問合せも名簿なし。30歳男。成育歴の欄によると小中と転校歴あり、高校は1年時の夏休み前に中退、父親は本人が8歳の時に家出をして以来不明、そのあと母親が本人を養育するも中学生になると同時に、今まで時々家に来て泊まっていた見知らぬ男と逃げて行った。それから遠方の母方の祖父に引き取られ生活をしていたが高齢の祖父が亡くなり、高校に通学することが難しくなったために退学した。罪名:〇〇罪、刑期:〇年○月、刑名:〇〇》
《面接時の対応では、知的にも身体的にも対話における不自然さを覚えるものはない。しかし仕事に向かうことの面接につき、尋ねるに、今まで就いた仕事のことを聞く。経験した仕事はアルバイトや期間工、契約社員や派遣での仕事がすべて。コンビニが1ヶ月、自動車部品組立は6ヶ月、溶接の経験もある。土木作業員の仕事に就いた時期もあったが天候に左右さる仕事で日待ちがあり収入の多寡に因り長く継続することができなかった。鉄工所の仕事もある。》
《今までやった仕事の中で、もう一度やってみたい仕事があるか、また傍で見ていてやってみたい仕事があるか、などと意欲方面から尋ねるも、仕事にどんなものがあるか知らない、などと云い、それほど興味を持つものがなさそう。続いて何を基準にして仕事を選びたいか、と尋ねる。返ってきた言葉は、とにかく高い収入を得たいだけであると答えた。いくら希望するの?と聞くと、〇〇万円だと云った。じゃ、その金額を得られるような自分に自信が持てる仕事の腕を訊くことになる。》
腕に自信がないから答えられない。何も根拠はない。願望だけが高く見合う能力が極めて低い。これでは堂々巡りの話になる。それで今日の面接相手にいくつかの提案をする。出所前に協力雇用事業主の面接を受け釈放後すぐに就職をする。あるいはいくつかの一般求人情報を提供する中から選択し面接を試みる。就きたい仕事に向かって出所してから職業訓練を受けた後に就職する・・などと。今後行くゆく道筋に個人情報のことがのしかかる。犯罪のことをどうしたいか?開示なのか非開示なのかと。刑余者である自分を相手に伝えるのか伝えないのか・・が刑余者にとって一つの大きな問題。その前の問題がさらに大きくのしかかる。働く意欲、動機づけのところ。これが私に与えられた問題となる。
面接は難しい。相手の何を引き出すのか、引き出してそれをどこに向かわせることが本人にとって良いことなのだろうかと・・。