透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「楡家の人びと」北杜夫

2012-01-15 | A 読書日記



■ 北杜夫の作品を再読している。代表作の長編、『楡家の人びと』を読み終えた。大正から昭和、太平洋戦争が終わるまでの激動の時代を背景に楡家の三代にわたる個性的な人びとが織りなす繁栄から凋落までの壮大な物語。

トーマス・マンを敬愛していた北杜夫は「ブッデンブローク家の人びと」に感銘を受け、いつかは一家の歴史を書いてみようと大学生のころからずっと考えていたそうだが(「マンボウ 最後の大バクチ」、「どくとるマンボウ回想記」による)、この小説を30代半ばで書いている。凄いとしか言いようがない。これほどの長いスパンのなかで、多くの人物がリアルな存在感を持って描かれた小説が日本にどのくらいあるだろうか。島崎藤村の『夜明け前』くらいしか直ちには浮かばない。

**戦後に書かれたもっとも重要な小説の一つである。この小説の出現によって、日本文学は、真に市民的な作品をはじめて持ち、小説というものの正統性(オーソドクシー)を証明するのは、その市民性に他ならないことを学んだといえる。(中略)これは北氏の小説におけるみごとな勝利である。これこそ小説なのだ!**という三島由紀夫の絶賛文が下巻のカバー折り返しに載っている。

こんなくだりもあった。**戦争の波動はすでにこの東北の僻村にも及んできていた。七月にはいってから、警報がしきりと出た。そのたびに村の火の見櫓の半鐘がけたたましく鳴らされるのである。**(下巻423頁) 

今年の読書の大きな成果を既に得た。


『黄いろい船』
『どくとるマンボウ青春記』
『どくとるマンボウ途中下車』 
『どくとるマンボウ追想記』
『どくとるマンボウ昆虫記』
『どくとるマンボウ航海記』
『夜と霧の隅で』
『白きたおやかな峰』 

『楡家の人びと』

以上読了

 


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