竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

万葉集巻十七を鑑賞する  集歌3911から集歌3928まで

2012年07月16日 | 新訓 万葉集
万葉集巻十七を鑑賞する


橙橘初咲、霍公鳥飜嚶。對此時候、詎不暢志。因作三首短謌、以散欝結之緒耳
標訓 橙(だいだい)と橘(たちばな)が初めて咲き、霍公鳥(ほととぎす)の飜(かけ)り嚶(な)く。この時候に對(むか)ひて、詎(なん)ぞ志を暢(の)べざらむ。因りて三首の短謌を作りて、以ちて欝結(うつけつ)の緒(こころ)を散(さ)んずるのみ

集歌3911 安之比奇能 山邊尓乎礼婆 保登等藝須 木際多知久吉 奈可奴日波奈之
訓読 あしひきの山辺に居れば霍公鳥(ほととぎす)木の間立ちくき鳴かぬ日はなし

私訳 葦や檜の生える山辺に住んでいるとホトトギスが木々の間を潜り飛び鳴かない日はありません。


集歌3912 保登等藝須 奈尓乃情曽 多知花乃 多麻奴久月之 来鳴登餘牟流
訓読 霍公鳥(ほととぎす)何の心ぞ橘の珠貫く月し来鳴き響(とよ)むる

私訳 ホトトギスよ、どのような気持ちで橘の花を薬珠に貫く月にはやって来て声を鳴き響かせる。


集歌3913 保登等藝須 安不知能枝尓 由吉底居者 花波知良牟奈 珠登見流麻泥
訓読 霍公鳥(ほととぎす)楝(あふち)の枝に行きて居(ゐ)ば花は散らむな珠と見るまで

私訳 ホトトギスよ、楝の枝に飛び来て留っていると、花は散るだろうなあ。珠が紐が切れ飛び散るように。

右、四月三日、内舎人大伴宿祢家持、従久邇京報送弟書持
左注 右は、四月三日に、内舎人の大伴宿祢家持の久邇京より弟書持に報(こた)へ送れり


思霍公鳥謌一首 田口朝臣馬長作
標訓 霍公鳥(ほととぎす)を思(しの)ふ謌一首 田口朝臣馬長の作れり
集歌3914 保登等藝須 今之来鳴者 餘呂豆代尓 可多理都具倍久 所念可母
訓読 霍公鳥(ほととぎす)今し来鳴かば万代(よろづよ)に語り継ぐべく思ほゆるかも

私訳 ホトトギスよ。今、この時に飛び来て鳴いたなら万代までに語り継ぐべきものと思われるのに。

右、傳云、一時交遊集宴。此日此處霍公鳥不喧。仍作件謌、以陳思慕之意。但其宴所并年月未得詳審也
左注 右は、傳へて云はく「一時(あるとき)に交遊集宴せり。この日この處に霍公鳥は喧(な)かず。すなわち件(くだん)の謌を作り、以ちて思慕の意を陳べる。ただし其の宴(うたげ)の所并びに年月は未だ詳審(つまびらか)を得ず」なり。


山部宿祢明人、詠春鴬謌一首
標訓 山部宿祢明人の、春の鴬を詠う謌一首
集歌3915 安之比奇能 山谷古延氏 野豆加佐尓 今者鳴良武 宇具比須乃許恵
訓読 あしひきの山谷越えて野づかさに今は鳴くらむ鴬の声

私訳 葦や檜の生える山や谷を越えて野の高みに今は鳴くでしょう。鶯の声は。

右、年月所處、未得詳審。但随聞之時記載於茲
左注 右は、年月と所處(ところ)は、未だ詳審(つまびらか)を得ず。ただし聞きし時の随(まにま)に茲(ここ)に記し載す。


十六年四月五日、獨居平城故宅作謌六首
標訓 十六年四月五日に、獨り平城の故(ふる)き宅(いへ)に居りて作れる謌六首

集歌3916 橘乃 尓保敝流香可聞 保登等藝須 奈久欲乃雨尓 宇都路比奴良牟
訓読 橘のにほへる香かも霍公鳥(ほととぎす)鳴く夜の雨に移(うつ)ろひぬらむ

私訳 橘の匂いがする香りなのでしょう。ホトトギスが鳴く夜の雨の中に香りが漂っている。


集歌3917 保登等藝須 夜音奈都可思 安美指者 花者須久登毛 可礼受加奈可牟
訓読 霍公鳥(ほととぎす)夜声なつかし網(あみ)ささば花は過(す)くとも離(か)れずか鳴かむ

私訳 ホトトギスよ。夜に鳴くその声に心が惹かれる。鳥網を張ったら花が盛りを過ぎても、ここから飛び離れずに鳴いているでしょうか。


集歌3918 橘乃 尓保敝流苑尓 保登等藝須 鳴等比登都具 安美佐散麻之乎
訓読 橘のにほへる園(その)に霍公鳥(ほととぎす)鳴くと人告ぐ網ささましを

私訳 橘の香が漂う園にホトトギスが鳴いていると、人が告げる。ホトトギスを留めるために鳥網を張れば良かった。


集歌3919 青丹余之 奈良能美夜古波 布里奴礼登 毛等保登等藝須 不鳴安良久尓
訓読 青丹(あをに)よし奈良の都は古(ふ)りぬれど本(もと)霍公鳥(ほととぎす)鳴かずあらなくに

私訳 青葉が輝く奈良の都は寂れてしまったが、だからと云って、元の様にホトトギスが鳴かない訳ではないのだが。


集歌3920 鶉鳴 布流之登比等波 於毛敝礼騰 花橘乃 尓保敷許乃屋度 (底本では鶉は京+鳥となっています)
訓読 鶉(うづら)鳴く古(ふる)しと人は思へれど花橘のにほふこの屋戸(やと)

私訳 鶉が鳴くほどに寂れてしまったと人は思うだろうが、花橘の香が漂う、この屋敷です。

注意 原文の京+鳥で鶉を意味するのなら、そこには荀子の鶉衣の故事があります。


集歌3921 加吉都播多 衣尓須里都氣 麻須良雄乃 服曽比猟須流 月者伎尓家里
訓読 杜若(かきつばた)衣に摺り付け大夫(ますらを)の着(き)襲(そ)ひ猟する月は来にけり

私訳 杜若の色を衣に摺り付けて、大夫たちが着飾って狩りをする月がやってきました。

右、大伴宿祢家持作
左注 右は、大伴宿祢家持の作


天平十八年正月、白雪多零、積地數寸也。於時、左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等、参入太上天皇御在所 (中宮西院)、供奉掃雪。於是降詔、大臣参議并諸王者、令侍于大殿上、諸卿大夫者令侍于南細殿、而則賜酒肆宴。勅曰、汝諸王卿等、聊賦此雪各奏其謌

標訓 天平十八年正月に、白雪が多(さは)に零(ふ)りて、地(つち)に積もること數寸なり。この時に、左大臣橘卿の大納言藤原豊成朝臣及び諸王(もろもろのおほ)・諸臣(もろもろのおみ)等(たち)を率(ひき)いて、太上天皇の御在所 (中宮西院)に参入(まゐ)りて、掃雪(はきゆき)に供(つか)へ奉(まつ)りき。是において詔を降し、大臣(おほまえつきみ)・参議并びに諸王(おほきみ)は、大殿の上に侍(さむら)ひしめ、諸卿(もろもろのきみ)・大夫(まえつきみ)は南の細殿に侍ひしめ、則ち酒を賜ひて肆宴(とよのあかり)したまふ。勅(みことのり)して曰はく「汝(いまし)諸(もろもろの)王卿等(おほきみたち)、聊(いささ)かにこの雪を賦(ふ)して、各(おのおの)、その謌を奏(まう)せ」とのりたまふ。


左大臣橘宿祢應詔謌一首
標訓 左大臣橘宿祢の詔に應(こた)へたる謌一首
集歌3922 布流由吉乃 之路髪麻泥尓 大皇尓 都可倍麻都礼婆 貴久母安流香
訓読 降る雪の白髪までに大皇(おほきみ)に仕へまつれば貴くもあるか

私訳 降る雪のように白髪になるまで大皇にお仕えすると、畏れ多いことです。


紀朝臣清人應詔謌一首
標訓 紀朝臣清人の詔に應(こた)へたる謌一首
集歌3923 天下 須泥尓於保比氏 布流雪乃 比加里乎見礼婆 多敷刀久母安流香
訓読 天つ下すでに覆(おほ)ひて降る雪の光りを見れば貴くもあるか

私訳 天下を覆い尽くして降る雪のように、大皇のお姿に輝く光を見ると、畏れ多いことです。


紀朝臣男梶應詔謌一首
標訓 紀朝臣男梶の詔に應(こた)へたる謌一首
集歌3924 山乃可比 曽許登母見延受 乎登都日毛 昨日毛今日毛 由吉能布礼々波
訓読 山の狭(かひ)其処(そこ)とも見えず一昨日(をとつひ)も昨日(きのふ)も今日(けふ)も雪の降れれば

私訳 山の谷間がどこかも判らない。一昨日も、昨日も、今日も雪が降るので。


葛井連諸會應詔謌一首
標訓 葛井連諸會の詔に應(こた)へたる謌一首
集歌3925 新 年乃婆自米尓 豊乃登之 思流須登奈良思 雪能敷礼流波
訓読 新しき年の初めに豊(とよ)の年しるすとならし雪の降れるは

私訳 新しい年の初めに、豊作の年となる兆しなのでしょう。雪が降ってくるのは。


大伴宿祢家持應詔謌一首
標訓 大伴宿祢家持の詔に應(こた)へたる謌一首
集歌3926 大宮之 宇知尓毛刀尓毛 比賀流麻泥 零須白雪 見礼杼安可奴香聞
訓読 大宮し内にも外(と)にも光るまで降るす白雪見れど飽かぬかも

私訳 大宮の内にも外にも輝くほどに降る白雪は、眺めていても飽きることはありません。


藤原豊成朝臣    巨勢奈弖麻呂朝臣
大伴牛養宿祢    藤原仲麻呂朝臣
三原王       智奴王
船王        邑知王
山田王       林王
穂積朝臣老     小田朝臣諸人
小野朝臣綱手    高橋朝臣國足
太朝臣徳太理    高丘連河内
秦忌寸朝元     楢原造東人

右件王卿等、應詔作謌、依次奏之。登時不記其謌漏失。但秦忌寸朝元者、左大臣橘卿謔云、靡堪賦謌以麝贖之。因此點已也

左注 (人名省略)  右の件(くだん)の王卿等(おほまえつきみたち)は、詔に應(こた)へて謌を作り、次(しだい)に依りて奏(もう)しき。登時(すなはち)、その謌を記さずは漏失(もら)せり。但し、秦忌寸朝元は、左大臣橘卿の謔(たはぶ)れて云はく「謌を賦するに堪(あ)へずは、麝(じゃ)を以ちてこれを贖(あがな)へ」といへり。此に因りて點已(もだ)をりき。


大伴宿祢家持、以天平十八年閏七月、被任越中國守、即以七月赴任所。於時、姑大伴氏坂上郎女贈家持謌二首
標訓 大伴宿祢家持、天平十八年閏七月に、越中國守に任(ま)けられ、即ち七月を以ちて任所に赴(おもむ)く。その時に、姑(をば)大伴氏坂上郎女の家持に贈れる謌二首

集歌3927 久佐麻久良 多妣由久吉美乎 佐伎久安礼等 伊波比倍須恵都 安我登許能敝尓
訓読 草枕旅行く君を幸くあれと斎瓮(いはひべ)据ゑつ吾(あ)が床の辺(へ)に

私訳 草を枕とする苦しい旅を行く貴方を幸があるようにと神に祈る斎瓮を据えました。私の床のそばに。


集歌3928 伊麻能去等 古非之久伎美我 於毛保要婆 伊可尓加母世牟 須流須邊乃奈左
訓読 今のごと恋しく君が思ほえばいかにかもせむするすべのなさ

私訳 今、このように恋しいと貴方のことが感じられると、これからどうしましょう。これから先、どうしようもありません。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 万葉集巻十七を鑑賞する  ... | トップ | 万葉集巻十七を鑑賞する  ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

新訓 万葉集」カテゴリの最新記事