読書日記

いろいろな本のレビュー

言ってはいけない中国の真実 橘玲 新潮文庫

2018-05-20 09:37:12 | Weblog
 一読して面白く、ためになった。現代中国の本質を捉えているという点で、反中ものの類書とは一線を画している。まず巻頭のカラーページに「中国10大鬼城観光」とあり、廃墟フアンにお勧めの観光地の写真が目を引く。「鬼城」とはゴーストタウンのことである。だれも住まない巨大な建造物を何の逡巡もなく完成させる中国のパワーに圧倒されるが、ここに中国の抱える問題が集約されているのだ。これは地方政府が経済成長を維持するために公共投資したものが具現化したものだ。住む人がいようといまいとに関わらず建設によってお金が回り、一時的な雇用が生まれる。しかし、この流れが中断すると、バブルがはじけて経済の破綻に向かってしまう。ここがジレンマになっている。この地方政府の暴走を抑えきれない中央政府という図式が鮮明になっており、この国の統治が一筋縄ではいかないということを感じさせる。
 著者は今の中国の問題の最大の要因は、人間が多すぎるという点にあるという。資料を見ると、広東省だけで、一億の人口がある。これは一つの国家としても十分な規模だ。よって全体で13億の人間を治めるというのは、難しいだろうなあということはよくわかる。その中国で人間関係を規定しているのは「グアンシ(関係)」だと著者はいう。家族、親族、友人、これらの関係を重視して人間関係を築いて、これを利用して世の中を渡っていくのが、中国人の流儀で、自分と「無関係」(メイクワンシ)な人間には文字通り「無関心」なのだ。この人間関係の源流は「秘密結社」の「帮」にあると著者は言う。この「帮」は「黒社会」(ヤクザ組織)に通じていて、更に中国共産党にも通じると述べている。確かに中国共産党は一種の利権団体だと思っていたが、これで腑に落ちた。
 「黒社会」と「中国共産党」の共通点は、①伝統的な「政治的帮会」との類似、②主要な組織構成員が破産した農民と失業した流民である点、③平均主義(平等主義)の手段とユートピアの追及、④思想の排他性、⑤政治面での残忍性、⑥行動様式の秘密性、⑦不断の内部闘争の七点を挙げて、それぞれに解説がついているが、ここでは省略。この共産党に対して、地方では宗族の活動が活発になってきており、祖先を祀り、祠堂を建て、族譜を編纂したりして、宗族同士で争ったり、地方政府と衝突したり、黒社会が復活したりしているという。このような秘密結社的人間関係の中で、腐敗を一掃することは困難で、持ちつ持たれつの人間関係が無くなることはない。従って習近平が唱える腐敗撲滅は氷山の一角を潰すだけのパフオーマンス的な意味合いでしかないと言える。その他、目から鱗の指摘が多くあり、お勧めしたい。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。