読書日記

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東大のディープな日本史 相澤理 中経出版

2012-10-07 14:51:58 | Weblog
 東進ハイスクールという予備校の講師が東大の日本史の問題を解説したもの。自明に思える歴史の見方・考え方に揺さぶりをかける面白さがあると説く。設問パターンは、いくつかの資料を元に記述式で答えるもので、歴史は年代の暗記で事たりるという者からすると大変厄介な問題である。逆に言えば、深い問題意識と読書経験のある生徒を取りたいということだろう。
 入試問題を一読してこれをあっさり解ける生徒はそんなに多くないと思うが、大変問題意識の高いもので、さすが東大というべきか。中では2008年度の第二問の中世の「一揆」に関する問題が面白かった。まず資料1~4を提示する。1は1373年、九州五島の武士たちが「一味同心」を誓った誓約書に「このメンバーの中で訴訟が起きた時は血縁で有るかどうかを問わず、理非の審理を尽くしべし」と書かれていたことを示すもの。2は1428年に足利義持が跡継ぎの男子なく死去し、遺言もなかったので、重臣たちは石清水八幡宮の神前でクジを引いて、当たった義教を将軍に推戴したという文章。3は1469年備中国の荘園で、成年男子が一人残らず鎮守の八幡神社に依り合って、境内の鐘をつき、「京都の東寺以外に領主を持たない」ことを誓い合った。鐘をつく行為は、その場に神を呼び出す意味があったという文章。4は1557年、安芸の国の武士12人は、「今後、警告を無視して軍勢の乱暴をやめさせなかったり、無断で戦線を離脱したりする者が出たら、その者は死罪とする」と申し合わせた。その誓約書の末尾には、「八幡大菩薩・厳島大明神がご覧になっているから、決して誓いを破らない」と記され、左の図のように署名がなされたとあり、傘(からかさ)連判状の写真が載せられている。
 これに対する設問は、A 図のような署名形式は、署名者相互のどのような関係を表明しているか。三十字以内で答えよ。B 一揆が結成されることにより、参加者相互の関係は結成以前と比べてどのように変化したか。六十字以内で答えよ。C 中世の人々は「神」と「人」との関係をどのようなものと考えていたか。六十字以内で答えよ。
 解答例を示すと、A ある特定の目的の下で署名者全員が対等な関係で団結している。B血縁関係よりも地縁的な結束が優先され、参加者全員で行なう合議による決定と互いに交わした誓約が強く拘束するようになった。C 人々は神前で一味同心であることを誓い、決定事項に従うことを誓い合うなど、神の存在が集団における結束の核となっていた。となっている。
 連判状はこの後伝統となり、現在に至っている。忠臣蔵のそれも有名だが、血判で不退転の決意を示すことが多くなった。血縁よりも地縁的なものが、優先される日本社会の原型が作られたと言える。またその結束を強固にしたのが神の存在である。やおよろずの神に誓いを立てる、この点から見ても日本は神の国といえる。資料2の足利義教はくじで将軍になったが、くじは神の意志ということで、誰も文句を言わなかった。その義教が恐怖政治をやって後に赤松満祐に暗殺される話も面白いがここでは控えておく。ちなみに、『籤引き将軍足利義教』(今谷明 講談社選書メチエ)は石清水八幡宮での籤引きの様子を細かく書いていて大変面白い。
 この東大の問題を見たら、高校の日本史の教員もうかうかしていられないのではないか。
 

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