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あまりに野蛮な 津島佑子 講談社

2009-02-10 14:34:38 | Weblog

あまりに野蛮な 津島佑子 講談社



 上下二冊で表紙が豹柄。紙は上質で読み易い。話の舞台は1930年代の日本統治下の台湾の台北。台北高等学校の教員の夫について日本からやってきたミーチャの結婚生活を、彼女の手紙・日記で構成する。新婚生活から子どもの誕生、そして子どもの死をきっかけにミーチャの精神は破綻していく。その台湾生活の象徴が「霧社事件」である。統治同化を強いられた山地の先住民族(高砂族と呼びならわされていた)が村の小学校の運動会に集まった日本人を多数殺した凄惨な事件である。その後先住民も日本の軍隊・警察によって殺された。植民地政策の中で起こるべくして起こった事件である。作者は自分の子どもの死を、「霧社事件」で死んだ日本人と先住民族の子どもと重ね合わせて、この時代の象徴性の中に彫り込もうとする。
 それから70年後、姪のリーリー(50代)が台湾をさまよう。彼女は、自分は子どもを殺し、親を殺し、男を殺したという思いにとりつかれている。この時空を隔てた二人の生活がタペストリーのように織り成されて展開する。作家の久田恵は朝日新聞の書評で、これは「女性小説」で、女であるところの痛みを書いたものだと言っている。したがって男には理解できないだろうと。
 小説の展開はドラマチックということではない。ただ内面の心情が延々と綴られていくのみである。そこにいろんな象徴性をかぶせて行って小宇宙を形成するというやり方だと思う。これは笙野頼子の方法に似ている気がした。久田が「女性小説」という所以はそこら辺にあるのではないか。私としては、台湾を伝説の国、そう易々と近寄れない異郷として取り上げているのが興味深かった。「霧社事件」の顛末はまさにそのことを証明している。並みの作家じゃそうは行かない。

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