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年をとって、初めてわかること 立川昭二 新潮選書

2009-02-14 09:16:12 | Weblog

年をとって、初めてわかること 立川昭二 新潮選書
 


 老いることは悲しいか。人生の晩秋を迎えることは何人も避けられない。その時感じる寂寞と孤独。しかし、そこには思いもよらない豊穣な世界があるのだ。本書は老いの複雑微妙な「幸福」の味わいを愉しむ文学案内である。斎藤茂吉「白き山」から青山七恵「ひとり日和」までカバーして老いの諸相をあぶりだす。
 老いと欲望という点から言うと、谷崎潤一郎の「ふうてん老人日記」を始めとする諸作が有名だが、これらは谷崎の見るからに艶福家風のイメージとぴったりの欲望全肯定の内容だ。老いても枯れぬその生命力に驚嘆してしまう。また、詩人の金子光晴も晩年無頼派を実践した人で、その足跡が記されている。創造的営為に携わるものは、その生命力も人並みではない。吉井勇の短歌「夜ふかく寒き夜床の中に聴く心の中のけだものの声」などを読むとその感を深くする。
 私が本書で一番気に入ったのは第三章の「老いのパトス」で、川端康成の「山の音」を分析したところだ。「山の音」を通奏低音として老いのパトス(苦しみ・受難)が語られる。川端独特の微妙な感情の表出が楽しめる小説である。後にノーベル文学賞を受賞したその理由は「日本的抒情」の探求であったと思うが、とにかくうまい。
 折りしも本書を読了後、朝日新聞の映画レビューで作家の沢木耕太郎が「エレジー」という作品を取り上げていた。六十二歳の大学教授が二十四歳の美人大学生と愛し合うという話だが、この前途ある美人が乳癌にかかり、かなり重篤な状況に陥る。その時、気楽な独身生活でいろんな女性とアバンチュールを愉しんでいた老教授は悲哀の涙を流す。それを沢木氏は、「女性に対する憐憫ではなく、自分もまた間近に死を抱えた存在であることを痛切に感じることによって生まれる悲哀だ。そのとき、二人は初めて対等になる。死というゴールまでの時間がもうほとんどないということを知った二人として。」と小説家らしいまとめ方をしている。私もこの映画を見たが、老教授のデヴィッドを演じているベン・キングズレーは誠に魅力的で女子大生にもてて当然という感じ。コンスエラという若くて美しい女性はペネロペ・クルスが演じていた。こんな美人の女子大生いるのかいという感じだが、これが最後の悲劇をいやが上にも盛り上げるのだ。この映画を見て、「老い」の豊穣な世界の一端を垣間見た気がした。人生はこれからだ。

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