読書日記

いろいろな本のレビュー

永続敗戦論 白井聡 太田出版

2013-08-05 10:30:00 | Weblog
 日本の戦後はまだ終わっていない。アメリカの呪縛にって左派も右派も雁字搦めにされており、新しい思考の枠組みが求められるという内容。するとこれは安倍政権の「戦後レジジームからの脱却」といことと同じテーマになってしまうが、中身はもう少し多岐に渡っている。このテーマでは『戦後史の正体』(孫崎享 創元社 2012)が、アメリカの属国日本をリアルに書いて評判になった。アメリカの呪縛から逃れるための第一は憲法改正だが、自由民主党は今回の参議院圧勝で第一歩を踏み出そうとしている。それは集団的自衛権を認めることであるが、いずれは憲法9条まで行こうとしている。左派も戦後平和憲法死守という単一スローガンでやってきたが、それも言ってみれば日米安保条約によりかかった上での運動で、両派ともに思考停止のままなのである。保守派は憲法改正をいうが、一方で日米同盟の強化を主張している。これは矛盾を孕んだ言い回しである。憲法改正するならアメリカからの自立が筋である。この点を明らかにしないと、いつまで経っても独立国にならない。
 それが如実に表れたのがTPP参加の問題である。日本はこれに遅れて参加したが、アメリカの餌食になりかねないリスクを背負っている。『反・自由貿易論』(中野剛志 新潮選書)はこのTPPの危険性を改めて論じている。著者によれば、アメリカは自由貿易の国だというのは嘘で、保護貿易そのものだという、そのアメリカがTPPで参加国をカモにしようと虎視眈々と狙っている。アメリカ政府の後ろには業界団体がひしめいているのだ。彼らは巨額の資金をもとにロビー活動を展開し、大統領選でも寄付金を上納している。これに日本政府は勝てるのか、はなはだ疑問だ。これに参加しなければ、日本は取り残されるという言説は間違いで、韓国がFTAでどれだけアメリカにやられたか見てみるがよいと著者はいう。同感である。このアメリカの業界団体と政府の癒着を取り上げているのが、『(株)貧困大国アメリカ』(堤未果 岩波新書)である。中でも遺伝子交換食物のモンサント社のやり口は食のグローバル化の危険性を改めて浮き彫りにしている。金儲けに特化して、企業活動を展開する、これがグローバル化の実態なのだが、アメリカから規制緩和を押しつけられた橋本元首相に始まって、ブッシュのポチと言われた小泉元首相など、孫崎氏がいうアメリカに追随する首相の任期は概して長いが、反旗を翻した首相は短命に終わっているというのもうなずける話である。その小泉首相のもとで規制緩和と不良債権処理に奮闘したのが、竹中平蔵である。『市場と権力』(佐々木実 講談社)は彼の伝記だが、あれよあれよと言う間に権力中枢に潜り込み、アメリカ流の自己責任主義を蔓延させ、自身は膨大な資産をなした、その手口はなかなかのものだ。一見善人風の顔立ちだが、こういう人間こそ怖い。これを読むと、経済学と言うのはご都合主義で、権力者によっていかようにも代わり得る面妖な側面を持っていることがわかる。
 この竹中氏、安部政権でも有識者会議のメンバーに選ばれて、正規雇用が国力を衰退させると論じているらしい。その本人はパソナという人材派遣会社の役員をしているというのだからあきれる。公正・正義というのはこの御仁には無縁のようだ。「瓜田に沓を入れず、李下に冠を正さず」という格言を贈ろう。

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