読書日記

いろいろな本のレビュー

さようなら、ゴジラたち  加藤典弘  岩波書店

2011-02-05 09:48:47 | Weblog
 著者は16年前『敗戦後論』で「日本の三百万人の死者を悼むことを先に置いて、その哀悼を通じてアジアの二千万人の死者の哀悼、謝罪に至る」と述べ大きな反響と論争を巻き起こした。わかりやすく言うと、太平洋戦争で戦死し、靖国神社に合祀された軍人の慰霊を実践して初めてアジアの平和が祈念できるというものだ。戦後の民主主義は正しく戦後を総括していない(その象徴的な事項が憲法第九条と自衛隊の問題である)という思いが『敗戦後論』を書かせたのである。
 ところでその戦後問題の議論と「怪獣ゴジラ」はどういう関係があるのかということだが、実はこのゴジラは戦争の死者の霊だと著者は言う。その根拠としてゴジラは南太平洋の海底深く眠る彼の場所から、何度も何度も、日本にだけやってくるからである。しかも28回もだ。この映画は1954年に作られているが、戦後の復興の緒についたばかりの東京の市街は再び破壊され尽くす。ゴジラは高圧防止線を放射能の火炎を吐いてあっさりと踏み越え、東京の中心街を東京大空襲を思わせるスケールで破壊する。しかし皇居を踏みつぶすことはない。これは天皇制の呪縛が戦後もなお強く残っているからだという説と戦争の死者たるゴジラは、天皇に会いに来たのだが、皇居にはもう自分たちを戦場へと烏賊占めた統帥権者で現人神である天皇がいないからだという説が紹介されている。面白い。
 ゴジラがそのご50年にも渡って、28回も作り続けられたのはなぜか。それは戦後の日本社会が、戦争の死者たちと正面から向かい合い、自分たちと戦争の死者たちの間に横たわる切断面、ねじれを伝って、相手に繋がる困難な関係性構築の企てに成功しなかったからだという冒頭の主張に繋がっていく。見事な手法と言わなければならない。
 最後にゴジラが行くべき場所はもちろん靖国神社。戦後を終結させるには著者の言う通り、靖国神社を破壊しなければならない。

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