来週医学部2年生が2日間だけだが病院実習に来る予定。基本的には座学にしないで、病院のあちらこちらを連れまわすように予定を立てている。最後に時間調整もあってミニレクチャーも入れている。昨年は「意識障害の診かた」の話をしたが、今年はそれと「かぜの診かた」を話してみることにした(山本先生、岸田先生の単なる受け売り)。
昨年一番好評だったのは、手術見学で、外科医の指導で手洗いと術衣着用を行う。院長先生執刀の手術を見学する予定で、院長先生は「臓器を触らせてみようか」とやる気満々だ。
山本先生はちょっとずつバージョンを変えているようだ。最新の講義はCareNeTVで見られる。
健和会大手町病院 総合診療ステップセミナー
第2回急性気道感染症診療の原則
京都大学臨床研究教育・研修部
山本舜吾先生
2017年6月1日
「抗微生物薬薬適正使用の手引き 第一版」が発行
2003年日本呼吸器学会が指針
風邪に抗生物質は効かない
薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン
2016年4月5日に閣議決定
ヒトの抗微生物薬の使用量(人口1000人当たりの1日抗菌薬使用量
指標 2020年(対2013年比)
全体で33%、経口セファロスポリン・フルオロキノロン・マクロライド50%減、静注抗菌薬20%減
日本全国で毎日200万人に抗菌薬が投与されている
約90%が内服薬で外来での処方が多い
上気道感染症で受診した60%に抗菌薬が処方されていた
病院では40%を中心に分布、診療所では90%を中心に分布
第3世代セファロスポリン46%、マクロライド27%、キノロン16%、ペニシリン4%
抗菌薬適正使用≠抗菌薬使用を減らす
抗菌薬適正使用
・必要な人には適切に処方する
・必要でない人には処方しない
「抗菌薬を処方しない」ことが目的ではない!
風邪症候群に対する一律の抗菌薬投与
抗菌薬の利益>抗菌薬の副作用
抗微生物薬薬適正使用の手引き
第一版
基礎疾患のない、成人及び学童期以上の小児を対象
感冒
・感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する
急性鼻副鼻腔炎
・成人では軽症の急性鼻副鼻腔炎に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する
・成人では、中等度または重症の急性鼻副鼻腔炎に対してのみ以下の抗菌薬投与を検討することを推奨する
・(成人における基本)
アモキシシリン水和物に内服5~7日間
急性咽頭炎
・迅速抗原検査または培養検査でA群β溶血性連鎖球菌(GAS)が検出されていない急性咽頭炎に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する
・迅速抗原検査または培養検査でGASが検出された急性咽頭炎に対して抗菌薬を投与する場合には、以下の抗菌薬投与を検討することを推奨する
・(成人・小児における基本)
アモキシシリン水和物に内服10日間
急性気管支炎
・慢性呼吸器疾患等の基礎疾患や合併症のない成人の急性気管支炎(百日咳を除く)に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する
田坂佳千先生
かぜ症候群とは
・患者自身が「かぜと思うのだけれど」といって受診する症候群
上・下気道症状が目立つ
・非特異的上気道炎型(普通感冒
・急性鼻・副鼻腔炎型
・急性咽頭・扁桃炎型
・急性気管支炎型
上・下気道症状が目立たない
・高熱のみ
・微熱・倦怠感型
・その他特徴的所見のある型;発疹型、急性胃腸炎型、髄膜炎型、その他
患者申告の「かぜ」
・ウイルス感染症
・抗菌薬が必要でない細菌感染
・抗菌薬が必要な細菌感染
・ちょっと変わった感染症
・非感染症
これらを見極めるのが医者の仕事
疾患スクリプト
・臨床医が経験によって蓄積してい病気のシナリオ
-どんな人がかかりやすいか?
-どのような病態生理か?
-どのような症状、経過をたどるか?
診療現場ではウイルス、細菌の区別はできないことがほとんど
疾患スクリプトを用いた症候学的アプローチが有用なのではないか?
気道感染症の疾患スクリプトをインストール!
感冒のスクリプト
・咳、鼻汁/鼻閉、咽頭痛の3系統の症状が、どれか一つが際立たずに存在し、重症感は乏しく、患者は「いつもの風邪と同じ」と訴える
・自信を持って「かぜ」と診断できる
・発熱の有無にかかわらず抗菌薬不要
感冒
同一の患者で、細菌性の副鼻腔炎・扁桃炎・肺炎の3つを同時に経験することは通常ない
年に何回くらいかぜをひきますか?
年齢が高くなるほどかぜをひきにくくなる
10歳未満 年3~6回
30歳代以上 年2~3回くらい
60歳以上だと 平均年1回くらい
感冒のピットフォール
・高齢者は風邪をひきにくい
・高齢者が「風邪をひいた」といって受診したら「それは本当に風邪なのか?」と疑いの目を持つ
バイタルサインの異常が多いと肺炎の可能性が高い
・急性の咳で救急外来を受診した成人が対象
・体温>38℃
・脈拍>100回/分
・呼吸数>20回/分
・SpO2 <95%
・バイタルサインに異常があれば感冒以外を考える
抗菌薬が適応になる急性鼻副鼻腔炎のスクリプト
・上気道感染後に症状がいったん軽快してから悪化(二峰性の悪化)
・膿性鼻汁、鼻閉、顔面痛/圧迫感→
主要3徴候
急性上気道感染症のうち細菌性鼻副鼻腔炎の合併は0.5~2%
副鼻腔炎の診断
ウイルス性でも黄色い鼻水
細菌性でも抗菌薬なしでよくなることがある
感冒の自然経過
推定される経過から外れて増悪傾向、または二峰性に悪化する場合は細菌感染症の合併を考える
抗菌薬を使うなら第1選択はアモキシシリン
経口第3世代セファロスポリンは基本的に使わない
腸管からの吸収が悪い
細菌性の気道感染症はほとんどアモキシシリンでOK
・腸管吸収が良い→バイオアベイラビリティは90%以上
・中耳・副鼻腔・喀痰などhの移行性良好
・肺炎球菌、A群溶連菌はアモキシシリンを十分量使用すれば大部分は治療可能
急性細菌性副鼻腔炎
βラクタムにアレルギーがある場合
・レボフロキサシン1回500mg1日1回 5~7日間
咽頭痛のスクリプト
・ウイルス性咽頭炎
→咽頭以外の症状を伴うことが多い
・伝染性単核球症様症候群
→急性から亜急性の経過で、後頚部やその他の全身リンパ節腫脹、脾腫、白血球分画はリンパ球優位
・細菌性咽頭炎
いつもの風邪よりも強い咽頭痛。高熱、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、白苔を伴う扁桃腫脹、咳や鼻汁は乏しい
下気道感染症のスクリプト
ACP(弁国内科学会)の指針
基礎疾患のない非高齢者では
・バイタルサインの異常(脈拍100/分以上、呼吸数24回/分以上、体温38℃以上)
・胸部聴診所見の異常
がなければ、通常胸部X線は不要
臨床予測ルールClinical Prediction Rule
4種類の肺炎の予測ルールと「医師の判断」を比較
「医師の判断」の方が感度は優れていた
心肺機能の予備力の少ない発熱・咳
患者では予測ルールは参考程度に
気管支炎に抗菌薬は必要?
急性気管支炎に対する抗菌薬
・臨床的な改善は抗菌薬群とプラセボ群で有意差なし
・抗菌薬群では副作用が有意に増加
利益よりも副作用が上回ってしまう
肺炎を疑わない咳の患者全てに抗菌薬を処方することは「割に合わない」