なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

親子で膵癌

2018年07月11日 | Weblog

 昨日内科医院からの紹介で、軽費老人ホームに入所している76歳男性が内科新患を受診した。当院とは診療圏の違う医院で、通常は一番近い地域の基幹病院に紹介しているはずで、当院への紹介は珍しかった。

 妹さんが患者さんを連れてきたが、患者さん自身は脳出血後遺症があり、問いかけないと自分からはしゃべらない(もつれたしゃべり方だった)。先々月ごろから諸局が低下して体重が減少していた。両下肢はやせ細っていた、到底歩行はできない。入所しているホームの対象ではなく、もっと介護度の高い施設に入所する必要があった。ふだんは医院で糖尿病と高血圧症の処方を受けている。病院への紹介は妹さんの希望で、先生が紹介状を書いたという経緯らしい。

 アスベスト肺があり、基幹病院の呼吸器内科で定期的にフォローされていた。糖尿病もそこの糖尿病科で診ていて、ホームに近い医院に紹介していた。食欲低下の精査で上部下部内視鏡検査依頼なので、当然基幹病院の消化器内科への紹介になるはずだが、家族側の事情があった。

 患者さんの90歳代の母親が膵癌で、基幹病院消化器内科でフォローされていた。現在は妹さん宅に同居している。担当の先生は優秀な先生だが、病状説明をビシビシとされるので怖い(?)のだという。それで患者さん(兄)の精査は当院を希望したという経緯だった。

 上部消化管内視鏡検査はできるが、下部の検査は入院して前処置をしないと難しそうだ。内視鏡検査をすること自体ためらわれるような体力低下だった。

 まず血液検査と腹部エコーを行った。腫瘍マーカーはCA19-9が1422、CEAが5.4と上昇していた。腹部エコーで特に異常は指摘できないが、膵臓は膵頭部しか描出できない(消化管ガスの問題)。腎機能は異常なかったので、造影CTを行った。

 膵尾部に不整な腫瘤様陰影が描出されて、膵(体)尾部癌と診断された。放射線科の読影レポートでは脾静脈への浸潤も指摘された。腹水や肝転移はなかった。やせていて、消化管の読影は難しいが、明らかな消化管癌は指摘できない。

 胸部CTでは両側肺の病変(アスベスト肺)も結構なものだった。認知力低下・筋力低下もあり、とても膵癌の手術や化学療法の適応になるとは思えない。しかい当院で(当方が)説明しても納得してもらえないので、専門病院の先生の意見を訊いてみることを勧めた。

 がんセンターまで行くのも難しいということで、やはり一番近い基幹病院の消化器内科に行ってみることになった。妹さんは、兄もひょっとしたら母親と同じ膵癌では思っていたそうで、がっかりされていた(涙ぐんでいた)。

 

 

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肺癌脳転移

2018年07月10日 | Weblog

 先週の金曜日に、62歳男性が左半身不全麻痺で内科クリニックから当院の神経内科外来に紹介された。1~2週間前からしだいに進行した症状だった。紹介した先生も、紹介された先生も脳梗塞と思っていたが、実際は脳腫瘍だった。

 頭部MRIで右上前頭回に拡散強調画像で高信号域を認めて、FLAIRで周辺白質の広範な高信号域(脳浮腫)を認めた。入院時検査として胸部X線も撮影したが、左中肺野の結節影があった。肺癌脳転移と診断された。がんセンターに紹介することになり、今週水曜(明日)に予約をとった。

 ところが左半身麻痺が進行して日曜日に救急外来を受診した。ちょうど日直が同じ神経内科医だったので、入院で経過をみることになった。グリセオール点滴静注で幸いに症状は軽減して、今日退院して明日がんセンター呼吸器内科の外来を受診する予定となった。

 がんセンターは予約受診日にそのまま入院できるかどうかわからないが、早急に対応はしてくれるのだろう。全脳照射?。

 

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スキルス胃癌

2018年07月09日 | Weblog

 先週に引き続き、地域の基幹病院の腫瘍内科医から連絡が来た。進行胃癌患者さん(85歳女性)の入院治療依頼だった。

 先月初めから腹部不快感・嘔気嘔吐があり、内科医院で上部消化管内視鏡検査を受けた。幽門前庭部が全周性に不整に肥厚していた。胃癌として生検したが、結果は陰性だった。スキルス胃癌で粘膜面にはあまり癌細胞が顔を出していないようだ。

 当院の放射線科に造影CTが依頼されて、進行胃癌・腹膜播種疑いと診断された。生検で癌が出なかったこともあり、専門医のそろっている基幹病院の方に紹介された。

 消化器科で上部内視鏡内視鏡検査が行われて生検したが、やはり陰性だった。手術適応はないので腫瘍内科に回されたが、PSが悪く、抗癌剤治療の適応はないと判断された。家族と相談して緩和ケア(BSC)の方針となった(妥当なところだろう)。嘔気・嘔吐で食事摂取できないので、そのまま当院入院となった。

 胃体下部から幽門まで狭窄して胃液が大分貯留している。完全には詰まっていないようだが、液体しか通らないだろう。まず1日点滴500ml2本+流動食で経過をみることにした。

 家族は夫はすでに18年前に亡くなっていて、息子さん3人のうち長男(独身らしい)と同居している。長男は定年後にも仕事があり、日中はいないの(いても?)介護力はない。

 いよいよ幽門狭窄になるとNGチューブを挿入するしかないが、なるべくなら入れたくない。HbA1c6.6%と軽度だ糖尿病があり、ステロイドが使いにくい。

 生検したのはいずれも大学の上部消化管グループ出身の専門医だから、癌を証明するのは相当に難しいのだろう。当院ではもうしないことにした。

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「かぜの話」

2018年07月08日 | Weblog
 来週医学部2年生が2日間だけだが病院実習に来る予定。基本的には座学にしないで、病院のあちらこちらを連れまわすように予定を立てている。最後に時間調整もあってミニレクチャーも入れている。昨年は「意識障害の診かた」の話をしたが、今年はそれと「かぜの診かた」を話してみることにした(山本先生、岸田先生の単なる受け売り)。
 昨年一番好評だったのは、手術見学で、外科医の指導で手洗いと術衣着用を行う。院長先生執刀の手術を見学する予定で、院長先生は「臓器を触らせてみようか」とやる気満々だ。
 山本先生はちょっとずつバージョンを変えているようだ。最新の講義はCareNeTVで見られる。
 
健和会大手町病院 総合診療ステップセミナー
第2回急性気道感染症診療の原則
 京都大学臨床研究教育・研修部
  山本舜吾先生
2017年6月1日
「抗微生物薬薬適正使用の手引き 第一版」が発行
 
2003年日本呼吸器学会が指針
風邪に抗生物質は効かない

薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 
2016年4月5日に閣議決定
ヒトの抗微生物薬の使用量(人口1000人当たりの1日抗菌薬使用量
指標 2020年(対2013年比)
全体で33%、経口セファロスポリン・フルオロキノロン・マクロライド50%減、静注抗菌薬20%減
日本全国で毎日200万人に抗菌薬が投与されている
約90%が内服薬で外来での処方が多い
上気道感染症で受診した60%に抗菌薬が処方されていた
病院では40%を中心に分布、診療所では90%を中心に分布
第3世代セファロスポリン46%、マクロライド27%、キノロン16%、ペニシリン4%
 
抗菌薬適正使用≠抗菌薬使用を減らす
抗菌薬適正使用
・必要な人には適切に処方する
・必要でない人には処方しない
「抗菌薬を処方しない」ことが目的ではない!
風邪症候群に対する一律の抗菌薬投与
 抗菌薬の利益>抗菌薬の副作用
 
抗微生物薬薬適正使用の手引き 
第一版
基礎疾患のない、成人及び学童期以上の小児を対象
 
感冒
・感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する
 
急性鼻副鼻腔炎
・成人では軽症の急性鼻副鼻腔炎に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する
・成人では、中等度または重症の急性鼻副鼻腔炎に対してのみ以下の抗菌薬投与を検討することを推奨する
・(成人における基本)
アモキシシリン水和物に内服5~7日間
 
急性咽頭炎
・迅速抗原検査または培養検査でA群β溶血性連鎖球菌(GAS)が検出されていない急性咽頭炎に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する
・迅速抗原検査または培養検査でGASが検出された急性咽頭炎に対して抗菌薬を投与する場合には、以下の抗菌薬投与を検討することを推奨する
・(成人・小児における基本)
アモキシシリン水和物に内服10日間
 
急性気管支炎
・慢性呼吸器疾患等の基礎疾患や合併症のない成人の急性気管支炎(百日咳を除く)に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する
 
田坂佳千先生
かぜ症候群とは
・患者自身が「かぜと思うのだけれど」といって受診する症候群
上・下気道症状が目立つ
・非特異的上気道炎型(普通感冒 
・急性鼻・副鼻腔炎型
・急性咽頭・扁桃炎型
・急性気管支炎型
上・下気道症状が目立たない
・高熱のみ
・微熱・倦怠感型
・その他特徴的所見のある型;発疹型、急性胃腸炎型、髄膜炎型、その他
患者申告の「かぜ」
・ウイルス感染症
・抗菌薬が必要でない細菌感染
・抗菌薬が必要な細菌感染
・ちょっと変わった感染症
・非感染症
これらを見極めるのが医者の仕事
 
疾患スクリプト
・臨床医が経験によって蓄積してい病気のシナリオ
-どんな人がかかりやすいか?
-どのような病態生理か?
-どのような症状、経過をたどるか?
診療現場ではウイルス、細菌の区別はできないことがほとんど
疾患スクリプトを用いた症候学的アプローチが有用なのではないか?
気道感染症の疾患スクリプトをインストール!
 
 
感冒のスクリプト
・咳、鼻汁/鼻閉、咽頭痛の3系統の症状が、どれか一つが際立たずに存在し、重症感は乏しく、患者は「いつもの風邪と同じ」と訴える
・自信を持って「かぜ」と診断できる
・発熱の有無にかかわらず抗菌薬不要
感冒
同一の患者で、細菌性の副鼻腔炎・扁桃炎・肺炎の3つを同時に経験することは通常ない
年に何回くらいかぜをひきますか?
年齢が高くなるほどかぜをひきにくくなる
10歳未満 年3~6回
30歳代以上 年2~3回くらい
60歳以上だと 平均年1回くらい
感冒のピットフォール
・高齢者は風邪をひきにくい
・高齢者が「風邪をひいた」といって受診したら「それは本当に風邪なのか?」と疑いの目を持つ
バイタルサインの異常が多いと肺炎の可能性が高い
・急性の咳で救急外来を受診した成人が対象
・体温>38℃
・脈拍>100回/分
・呼吸数>20回/分
・SpO2 <95%
・バイタルサインに異常があれば感冒以外を考える
 
抗菌薬が適応になる急性鼻副鼻腔炎のスクリプト
・上気道感染後に症状がいったん軽快してから悪化(二峰性の悪化)
・膿性鼻汁、鼻閉、顔面痛/圧迫感→
主要3徴候
急性上気道感染症のうち細菌性鼻副鼻腔炎の合併は0.5~2%
副鼻腔炎の診断
ウイルス性でも黄色い鼻水
細菌性でも抗菌薬なしでよくなることがある
感冒の自然経過
 推定される経過から外れて増悪傾向、または二峰性に悪化する場合は細菌感染症の合併を考える
抗菌薬を使うなら第1選択はアモキシシリン
経口第3世代セファロスポリンは基本的に使わない
 腸管からの吸収が悪い
細菌性の気道感染症はほとんどアモキシシリンでOK
・腸管吸収が良い→バイオアベイラビリティは90%以上
・中耳・副鼻腔・喀痰などhの移行性良好
・肺炎球菌、A群溶連菌はアモキシシリンを十分量使用すれば大部分は治療可能
急性細菌性副鼻腔炎
 βラクタムにアレルギーがある場合
・レボフロキサシン1回500mg1日1回 5~7日間
 
咽頭痛のスクリプト
・ウイルス性咽頭炎
→咽頭以外の症状を伴うことが多い
・伝染性単核球症様症候群
→急性から亜急性の経過で、後頚部やその他の全身リンパ節腫脹、脾腫、白血球分画はリンパ球優位
・細菌性咽頭炎
いつもの風邪よりも強い咽頭痛。高熱、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、白苔を伴う扁桃腫脹、咳や鼻汁は乏しい
 
下気道感染症のスクリプト
ACP(弁国内科学会)の指針
基礎疾患のない非高齢者では
・バイタルサインの異常(脈拍100/分以上、呼吸数24回/分以上、体温38℃以上)
・胸部聴診所見の異常
がなければ、通常胸部X線は不要
臨床予測ルールClinical Prediction Rule
 
4種類の肺炎の予測ルールと「医師の判断」を比較
「医師の判断」の方が感度は優れていた
心肺機能の予備力の少ない発熱・咳
患者では予測ルールは参考程度に
気管支炎に抗菌薬は必要?
急性気管支炎に対する抗菌薬
・臨床的な改善は抗菌薬群とプラセボ群で有意差なし
・抗菌薬群では副作用が有意に増加
利益よりも副作用が上回ってしまう
肺炎を疑わない咳の患者全てに抗菌薬を処方することは「割に合わない」
 
 
 
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「八ヶ岳診療日記」

2018年07月07日 | Weblog

 今日は山中克郎先生の「八ヶ岳診療日記」を読んでいた。「総合診療の中でまだ経験していない領域は地域医療であった」ということで、藤田保健衛生大学救急総合内科教授から諏訪中央病院に転身された。地域の様々な方たちと交流しながら、研修医教育も継続されている。どちらも到底真似できない。

 この中に出てくる後期研修医(当時)の堂畑雄一先生の経歴が面白かった。大学受験失敗後に、沖縄で漁師をして、その後予備校で勉強して京都大学(人類学というから文学部か)に入学した。商社に勤務した後に、北欧を経てアフリカでNGO活動(エイズ撲滅)に従事して、医師を志した。また受験勉強をして東北大学医学部に入学したという(大分離れた後輩になる)。

 随分前に、医学書院で開催されたセミナーで山中先生の講義を聴いて、「攻める問診」にサインしてもらった。まさに「スマイリー山中」だった。

八ヶ岳診療日記

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器質化肺炎だった

2018年07月06日 | Weblog

 神経内科で肺炎の治療をしていた76歳男性のその後の経過。先週相談された時は、関節炎の併発についてだった。

 抗菌薬はメロペネムを使用していたが、発熱が続いて炎症反応も悪化した。右膝関節・足関節に関節炎の症状もあり、偽痛風が疑われた。発熱と炎症反応上昇は、肺炎の悪化というより、関節炎を反映しているという解釈だった。

 もともとの軽度腎障害に腎前性の要素が加わっていてNSAIDが使用できない。ステロイドを使用したいが、それでいいかと相談された。肺炎に対する抗菌薬と関節炎に対するステロイドを肺用して経過をみることにした。

 プレドニン20mgを使用すると、翌日にはすぱっと解熱した。2日ずつ20mg・15mg・10mg・5mgを使用して中止した。炎症反応も22から2.1まで低下した。併用していた抗菌薬は中止していた。

 その後発熱はないが、CRPが3.6とちょっと上昇して、胸部CTでまだ陰影が大分残っていた。神経内科医は、呼吸器科外来に来ている先生に相談した。

 そもそもの肺炎は左右肺に複数個所陰影を形成していて、これは細菌性肺炎というより器質化肺炎だろうと診断された。プレドニン0.5mg/Kg(30mg/日)から開始されることになった。

 関節炎併発に対して投与したプレドニンが器質化肺炎に効いて(関節炎も軽快したが)、解熱して肺陰影も軽減したということのようだ。プレドニンは8日で切ってしまったので、さすがに器質化肺炎がいったん軽快して、まだ少しぶり返したのだった。

 

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原発不明癌・多発性骨転移

2018年07月05日 | Weblog

 お昼に製薬メーカーに院内説明会に出ていると、地域の基幹病院の腫瘍内科医から連絡が来た。転院ではなく、外来からの入院依頼の紹介だった。

 関節リウマチで先方の病院(リウマチ膠原病外来)に長年通院している87歳女性だった。腰痛・骨盤痛が続いて、家族が担当医にお願して整形外科に紹介してもらった。整形外科で行ったMRIで病的骨折が疑われた。シンチの結果、主には脊椎・骨盤に転移巣が多発していた。四肢骨にもある。

 腫瘍内科で造影CT検査を行ったが原発巣は指摘できなかった。腫瘍マーカーもまったく異常がなく、免疫電気泳動でもM蛋白は検出されなかった。

 患者さんはひとり暮らしだった。夫はすでに亡くなっていて、娘3人はそれぞれ嫁いでいる。疼痛で家事はできず、介護が必要な状態なので、緩和ケアでの入院しかなかった。

 鎮痛薬としてアセトアミノフェン・NSAID・トラマドールが処方されていたが、それでも疼痛が治まっていない。オキシコドンを10mg/日から開始することにした。

 キーパーソンは一番近くに住んでいる三女で、疼痛が出現してから診断されるまで時間的に大分かかったと言っていた。MRIをとれば存在診断はできそうだが、リウマチで通院しているので、他疾患が発症していることが分かりにくいのだろうと思う。

 通常見る癌の形ではないので、経過を見ないと予後が予測できない。明らかな内臓疾患はないので、経過が長くなる可能性もある。最期まで診せてもらうつもりだが、長期になると療養型病院に回ってもらうこともあると伝えておいた(ちょっとずるいけど)。

 

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橋本病の急性増悪

2018年07月04日 | Weblog

 昨日はAST(抗菌薬適正使用支援チーム)の検討で63歳男性のことが話題に出た。といっても抗菌薬使用の問題ではなく、細菌検査室の技師さんから、喀痰塗抹標本で肺炎球菌(グラム陽性双球菌)が単独で多数出ていたという内容だった。

 名前に見覚えがあった。数年前に気管支喘息発作で数回時間外受診した患者さんだった。当時は内科医院に通院していたが、現在は当院の呼吸器外来(大学病院からの出張医師担当)に来ている。通院が不規則で発作時だけ受診するような方だったので、きちんと通院しているのはいいことだ。

 喀痰培養を提出したのは外科医で、外科にも通院していたのだった。どうしたのかとカルテを確認すると、昨年倦怠感で救急外来を受診して、甲状腺機能亢進症と判明した。担当した外科医(今年4月に他院へ転勤)は甲状腺外科も診ているので、そのまま主治医となって入院にしていた。本来は甲状腺腫瘍の治療が専門だが、バセドウ病や橋本病も外科の甲状腺外来で診ている。

 甲状腺自己抗体検査では、抗TSH受容体抗体は陰性で、抗サイログロブリン抗体と抗TPO抗体が陽性で、橋本病(慢性甲状腺炎)だった。甲状腺エコーではびまん性甲状腺腫。炎症反応が上昇している(白血球数増加、CRP上昇)。甲状腺の疼痛は訴えていない。

 橋本病の急性増悪だった。治療は最初にメルカゾールが処方されたが、抗体検査の結果をみて中止になった。ステロイドをプレドニン20mg/日から開始して症状・検査結果は改善している。現在は甲状腺機能低下症でチラーヂンSが処方されている。これは無痛性甲状腺炎と同じことだと思うが、教科書には別々に記載されている。

 肺炎は右肺に軽度の陰影があり、炎症反応の上昇も軽度だった。抗菌薬はアベロックスが処方されて、呼吸器科外来を受診予約になっていた。検査結果が全部わかっているので、「パセトシン(ABPC)1500mg分3くらいでいいんじゃない」とは思うが、後からは何とでも言えるから。

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重症喘息発作

2018年07月03日 | Weblog

 午前中内科再来を診ていると、病棟から連絡が来た。95歳女性が心停止となり、確認をお願いしますという。

 先々月の半ばに意識障害で救急搬入され、心不全の悪化(低酸素)で入院した。利尿薬の投与で軽快して、一時は食事摂取もできていた。やせた、というより骨と皮状態の小柄な方だった。そのうちに摂取量がしだいに低下して、特に心不全の悪化も肺炎の併発もなく、全身の問題つまり老衰と判断された。少量の経口摂取と点滴で経過をみていたが、2週間前からは食事摂取はまったくできなくなっていた。

 病室に行くと、息子さんが葬儀社に電話をしていた。家の場所などを伝えていて、なかなか電話が終わらない。大事な電話ではあるので(?)、葬儀社との交渉が終わるのを待って、死亡確認を行った。

 

 昨日は内科の若い先生が当直だった。循環器科のCCUを借りて、喘息発作の39歳男性を入院させていた。内科クリニックに気管喘息で通院しているそうだ。ふだんの治療はICS吸入とテオフィリン製剤の内服で、発作時にはメプチンエアーを吸入していた。昨日はそのメプチンエアーを家に忘れてきて、仕事中に発作が起きたが、すぐに対処できなかった。そのうちに喘息発作がひどくなり、自分で車を運転して当院まで来た。

 受診時の血液ガスはPaO2 72.3、PaCO2 77.6、pH 7.185と呼吸性アシドーシスだった。治療はデカドロン8mg(ネオフィリンを含む)の点滴静注とべネトリン吸入を行って、NPPVを装着していた。その後今朝までに3回血液ガスをとっていた。今朝は喘鳴も消失して、呼吸性アシドーシスもなくなっていた。

 希望で退院することになったそうだが、何だか危うい。胸部X線は異常がなかった。少なくとも数日全身ステロイドを追加した方がいいのではと伝えた。ふだんどのくらいの頻度でメプチンを吸入しているのだろうか。けっこう頻回なのでは?。吸入ステロイドは持ってきていないので正確には何かわからない。本当にICSだけならば、ICS/LABAに変更したほうがいいのでは?。

 数日入院で経過をみるのも(仕事の都合で)難しいようで、結局退院になったが、かかりつけ医宛てに診療情報提供書を出して、ふだんの治療を見直してもらうことにした。もうろうとして車の運転をしていたので、昨日の記憶があいまいだという。よく事故を起こさなかったものだ。

 昔呼吸器内科の教授が、重症喘息発作でかろうじて病院までたどり着いた患者さんが、ネブライザー吸入をしたとたんに心肺停止することがあると言っていた。タイミングの問題かもしれないが、(重症発作では)ネブライーザー吸入自体が刺激となって喘息発作が悪化している可能性があるという。

 酸素吸入とステロイド注を行って、少し症状が軽減したところで吸入する方が無断ではないか言っていた。使用するならエアゾル吸入の方が、病院のネブライザーより刺激が少なくていいらしい。人工呼吸器管理の時も、ネブライザーよりエアゾルを回路の途中から入れる方がいいという話もあった。

 

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「東北抗酸菌研究会」

2018年07月02日 | Weblog

 先週の土曜日は「東北抗酸菌研究会」に出てきた。非結核性抗酸菌症の話が聴きたかった。

 結核病棟を持つ病院の先生から、結核治療の現状、特に高齢者結核の現状についての報告があった。80歳以上が半数を占めて、死亡率は34.4%(1/3)になる。ほとんど寝たきり状態で栄養状態の悪い患者さんが多い。そもそも経口摂取できないため、治療もできないそうだ。治療は4剤治療では副作用で中断してしまうため、3剤(HRE)で治療しているが、それでも副作用が多い(皮疹・発熱・食欲低下・肝障害)。INH・RFPを軸としながらも多彩な治療薬の組み合わせ・投与量投与方法の調整で対処している。点滴注射で治療する場合は、INH・SM・LVFXになるが、そもそもラインがとれないこともある。

 高齢者結核の治療の大変さが伝わってきた。会に先立って、秋田県では結核治療はモデル病床(専門病院がそれぞれ1~2床の結核病床を持って治療に当たり、いわゆる結核専門の病院は置かない)で行うようになったそうだ(渡辺彰先生の話)。 

 

 「非結核性抗酸菌症の最新知見」 新潟大学呼吸器・感染症内科 菊池利明先生

 非結核性抗酸菌(NTM)は188種類以上ある。ヒト-ヒト感染はしない。主なNTMはMACだが、aviumは西日本に、intracellulareは東日本に多い。マイコバクテリア科は5つの属に再分類された。結核菌群はM.tuberuculosis単一種になった。

 MAC症 

 キャピリアMAC抗体は、0.7U/mlをカットオフ値にすると、最初のKatadaの論文で感度84%・特異度100%、その後の14報のまとめでは感度70%・特異度91%。抗体価は病勢を反映する。

 MAC症の治療は、CAM(C)・EB(E)・RFP(R)で必要に応じてSM(またはKM)を追加する。菌陰性化はSM追加で71%、CERのみde51%。治療期間は菌陰性化後約2年間。英国ガイドラインでは治療期間は菌陰性化後最低1年間(以前は2年としていた)。ATSも1年間としている。

 MAC症の2タイプ。結節・気管支拡張型は、喫煙歴のない中年女性で、病変は中葉舌区、緩徐に進行。線維空洞型は、喫煙歴のある中高年男性で、上葉に大きな結節影と内部の空洞、1~2年で急速に進行する。

 結節・気管支拡張型の間欠療法の可能性。連日投与は46%が副作用で治療を変更する、週3回間欠投与は21%で治療を変更する。菌陰性化は前者で76%後者で67%と統計的には差がない。間欠投与ではEBの副作用が特に少ない。間欠でダメな時は、連日に変更すると30%菌陰性化する(最初間欠で開始して、ダメな時に連日への変更が可能かと)。

 RFPが入るとCAMの血中濃度が低下する。最低限CAM+EBでいいのではないか。むしろ菌陰性化はCAM+EBで83%、CAM+EB+RFP75%と前者の方がよい。

 MAC症に対するエリスロマイシン(EM)少量療法。無治療よりは悪化しない。EM投与でCAM耐性化はない。

 M、intracellulareaviumより病勢が強い(予後が悪い)。予後の悪いM.chimaeraintracellulareと判定されている可能性がある。MAC症には11菌種が含まれるが、chimaeraintracellulareと近縁。

 M.lentiflavumはコバスTaq Man MAIでintracellulareとされたが質量分析では分けられる。

 M、Kansasii

 NTMの4%。INH+RFP+EBを投与。菌陰性化から1年で治癒可能。50歳代喫煙男性で肺尖から上肺部の薄壁空洞。

 M.abscessus

 最も難治なNTM症。信頼できる抗菌治療はない。亜種はDDH法で判別不能。M.m.abscessus(陰性化率が比較的低い)とM.a.massilience(陰性化率が比較的高い)。 抗菌薬は、XAM+AMK+IPM/CS数週間からCAM+FRPM+KM(週2階筋注) 

 

この会は第20回になるが、メーカーの支援がなくなり、今回で終了になるそうだ。

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