Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『通し狂言 摂州合邦辻』1等A席1階センター後方

2007年11月23日 | 歌舞伎
国立大劇場『通し狂言 摂州合邦辻』1等A席1階センター後方

以前、観た菊五郎さんの『摂州合邦辻』とはかなり違う肌合い、演出。今回の本行(人形浄瑠璃)にかなり近い演出のも面白かったです。物語本位というところでしょう。しかし人形の代わりに役者がやることで生々さが醸し出されるので下世話な感じに落ちる部分もありました。それが悪いわけではなく、肉体を通してのほうがストレートに台詞が伝わることもあるんだと。庶民の物語だったんだなというのを改めて思いました。

物語本位とはいえ藤十郎さんが演じるので基本的には藤十郎さんを見る芝居でもありました。いやはや、この方の今の境地って凄いですね。しかも若いっ。それにしても濃いわ、濃いわ。藤十郎さんの玉手は最初から恋する女でした。終始、本気です。絶品だったのは「合邦庵」の段の出ですね。なんともいえない緊張感があって、玉手の覚悟がひしひしと伝わってきました。また娘らしい立ち振る舞いと感情のありかたに説得力がありました。玉手の短絡的なとことか激情とかそれも演技じゃなく本気。覚悟したからこその心の揺れ、とも感じました。

この濃さに対抗できてたのは秀太郎さんだけですね。それと合邦庵での合邦の我當さんが、不器用な芝居ではあるのですが義太夫のイキをしっかり飲み込んだ台詞で聞かせてきて対抗。我當さんてニンにハマさえすれば台詞で説得力を持たせるタイプなのね、と今更ですが。

あとは奴入平の翫雀さんがニンによくあっていて大健闘。

三津五郎さんが意外に受けの芝居の部分で風情が足りない感じ。台詞は上手いしよく工夫されていて俊徳丸の立場は明快で良いんですけど。存在感がちょっと薄め。藤十郎さんの濃い芝居にはカッチリしすぎなのかも。 というか知的すぎるのですよね。一人でなんとかしそうな感じなので、玉手も浅香姫も必要じゃないんですよね。

全体的にはテンポよく飽きずに観ることができましたが説明的な場が多く、面白さは「合邦庵」に集約されてしまう感じ。文楽のほうが他の段ももう少し物語的面白さがあったような気がするのですが。