Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

PARCO劇場『決闘!高田馬場』4回目 千秋楽 中央やや前方寄り

2006年03月26日 | 歌舞伎
PARCO劇場『決闘!高田馬場』4回目 千秋楽 中央やや前方寄り

パルコ歌舞伎4回目は大楽。3回目観劇でもやもやがふっきれ、今日は楽しむぞと思い、そして本当に心の底から楽しみました。楽しかった~!

最初からお祭り騒ぎなるだろうとの予想に反し、始まる5分前から客席は異常な緊張感に包まれていました。あの空気はいったいなんだったんだろう。私まで緊張してしまった。でも芝居がはじまると一気にテンションが上がっていきました。さすがにノリが違う感じ。しかし役者さんたちはほとんど大筋を外れず気合の入った芝居。それでもところどころ、この日だからこそやったんだね、な小ネタも満載でした。

☆おもん@澤村宗之助さん、普段の役のイメージからすると大人しいタイプの役者さんなのかと思っていたのですが意外や意外に弾けられるタイプの役者さんのようです。いかにも長屋のおかみさんの気が強くて、でも心根は優しくて、だらしない旦那にちょっと呆れつつも心底惚れててしまっているおもんがピッタリでした。何気にみせる上目遣いでにら蔵を見つめるお顔が超ラブリー。犬との立ち回りでは最初の頃に比べ、後半はひとつひとつキッチリ見せ場にしてました。またアドリブがきく役者でもあるなあと。私が見た回で印象的だったのは花道代わりの通路で吉右衛門さんを見つけ「あら、ここにも安兵衛さんが」とニンマリと笑いながら通り過ぎていった一場面。これを観て、宗之助さんの亡くなった師匠の柔軟性溢れた演技をされていた宗十郎さんを思い出しました。

千秋楽ネタ:偽喧嘩のために男に扮装するシーンでいつもいかにもな太い眉毛を付けて演じているのですが今回は髭まで付けてました。このお髭のことは直前まで相手役の高麗蔵さんに内緒にしていたらしく、普段動じない高麗蔵さんが「ぶっ」と思わず吹き出していました(笑)。

☆にら蔵@市川高麗蔵さん、この方のすっきりした風貌と演技が今回のにら蔵にピタッとハマった時、博打打ちで夢ばかり追いかけ、いわゆる甲斐性無しなんだけど根はいいやつな長屋に住む粋な江戸っ子が現れました。ドタバタしていても何気にキレのいい動きときちっとした姿を決めていくんですよね。持ち味が存分に活かされて、この方の世話物をもっと色々見たいなあと思わせてくれました。

千秋楽ネタ:おもん@宗之助さんに対して「この一月、おまえはいつも俺に衝撃を与えてくれたよなあ…」と愚痴ってました。

☆六郎左衛門@松本錦吾さん、武士として、そして安兵衛の叔父としてちょうど良い重量感がありました。無骨にまっすぐ生きてきたんだろうと思わせる六郎左衛門は非常にかっこよかったです。あくまでも真面目に、しかし四角四面ではない情をみせる。そのバランスが絶妙でした。個人的にこの『決闘!高田馬場』という芝居のなかで惚れそうになったのは六郎左衛門でした。後妻にいってもいいわとか…だって剣の腕前は見事だし、女性には優しそうなんだもん(笑)

千秋楽ネタ:まさかやるとは思わなかった。でもさりげなくやっていた。又八が安兵衛の布団を乱暴に敷き、思わず上掛けをばさっと六郎左衛門のほうに投げつけてしまい、それを受け止め又八に返すというシーン。なんとこの日はその布団をさっと避けてました(笑)。そして投げ出されたその布団を後でそーっと引き寄せ又八に返してました。この間(マ)と終始真面目な顔の取り合わせが妙におかしく、笑いを誘っておりました。錦吾さん、何かやりたかったのねっ。また高田馬場での庄左衛門との立会いでは「オラオラ来いや」とばかりに挑発していたのも今回初めて見ました!

☆洪庵先生@坂東橘太郎さん、終始和み系キャラで、ほわっとした存在感。声がね、なんだか良いんですよ。お話してると気が休まる、そういう感じ。藪医者と知りつつ、つい訪ねていってしまいそうな洪庵先生でした。それにしてもあの体の柔らかさは凄いですね。菊五郎劇団でよく拝見してるような気がしますが、これからもっと注目していきたい役者さんになりました。

千秋楽ネタ:やりたかったんでしょうねえ。たぶんやりたくてウズウズしてたんじゃないかなあ。アドリブネタとしては一番インパクトありましたよ!安兵衛に「手首が痛いから診て」と言われ、いつもは足首を診ちゃうという設定なんですが、この日はなんと安兵衛の胸元に手を突っ込み乳首を診ようとしてました。安兵衛@染ちゃん、くすぐられて焦りまくり(笑)またその次の「喉が痛いから診て」ではなんと見立てが「風邪ですな」のはずだったのに「脱腸ですな」に変わってました。「今年の脱腸はタチが悪くて」とか(笑)これには大爆笑。さすがの染ちゃんも切り返しが出来ず目が点状態「薬はもういいや」と立ち去っていきました~。
    
☆おウメ@市村萬次郎さん、アクの強いばあさんキャラをなんとも愛らしく演じてくださいました。かなりアクの強い台詞や場面が多いにも関わらず終始「女としての可愛らしさ」の範疇に納めてくる。これはお見事というしかありません。女形だからこそできたおウメ造詣なんじゃないかと思います。それにしてもどこからどうみても長屋のばあさんにしか見えない。特にこの方の独特の声があまりにハマりすぎておウメさんが実在しているような気になってきます。

千秋楽ネタ:安兵衛におんぶしてもらって医者に行くシーンの最後に舞台上で病気のウメの扮装(普段の着物の上に寝巻きを羽織ってる状態)を安兵衛@染ちゃんに手伝ってもらいながら解くのですが、その時に染ちゃんに「ひと月のあいだどうもありがとうございました」とお礼をおっしゃってました。また、安兵衛が痺れ薬のため立ち上がれないシーンでは右京に「なんとかせい、年寄りの知恵袋というではないか」と言われ、右京@亀治郎に「歌わなかった人に言われたかないね」と切り返してました!(亀ちゃんは、このシーンの前の人形劇で「パルコ歌舞伎」主題歌を歌ってとねだられ断っていた)。この絶妙なタイミングったらなかった。大爆笑になったのは言うまでもない。本来は「あんよは上手」と囃すシーンでしたが、その後、立ち上がる際の附け打ちがすぐに入ってしまい安兵衛@染ちゃんは自力で立ち上がってました(笑)附け打ちさん、タイミング早過ぎないかぁ?(笑)

勘太郎さん、亀治郎さん、染五郎さんについては24日観劇感想に書いたので簡単に。

☆又八&堀部弥兵衛@中村勘太郎さん、千秋楽でも熱血安兵衛ラブな又八でした。彼は無邪気さだけでなく屈折した表情を随分と上手く見せられるようになりましたね。

千秋楽ネタ:長屋回想シーンで又八が「これが蓋を開けてみれば果し合いって言うじゃないですかっ」と言わねばならないところ「これがフエを開けてみれば」とか噛んでましたが「噛んでない」「噛んでない!!」と逆切れ。安兵衛に弥兵衛@勘太くんが「婿になってほしい」とお願いするシーンではどんどん頭を下げていくうちに床に体全体がペッタリ張り付いてました。安兵衛@染ちゃんに「何やってるんだ?」と問われ「死んだばあさんに呼ばれたんじゃ」とか何とか。その後、腰曲げながら起き上がると、染ちゃんに「今、腰の伸びてたじゃないかー!」とツッコミ入れられてました。

☆右京&ホリ&庄左衛門@市川亀治郎さん、最後まで120%の前のめりでの力いっぱいの芝居を見せてくれました。いつもどこか計算して芝居をしている感じを受ける亀ちゃんですが今回はたぶん自身の計算を越えてしまった部分があるのではないかと思います。

千秋楽ネタ:元来が非常に真面目な方なのでしょう、4回拝見して4回ともアドリブをしているという部分は一切なく、しかしその真面目に受け答えしてしまっている部分で笑わせていました。人形劇で勘太くんに歌ってとねだられ「3役もやってる、来月は金毘羅だしもういっぱいいっぱいなんだよっ」と断る姿や庄左衛門で体力の限界とばかりにヘロヘロになっている姿が本当なだけに笑えます。
        
☆安兵衛&中津川祐範@市川染五郎さん、役を膨らませていくことに関してはやはり独特のものがあるなあ。どんな役であろうと役柄の生き方をどこかしらに滲ませ、そこに染五郎自身の味というものを出せるようになってきたと思う。今回かなり骨太な存在感を出せるようになったかなと思う。千秋楽では座長としての顔がそこここに出ていました。皆が皆、小ネタを炸裂するなかしっかりそれを回収しまくって、芝居の流れに目配りするその姿にちょっと感心してしまった。染ちゃんが座長としての責任をしっかり背負っていたからこそ周囲の皆がノビノビと楽しそうに遊べたのかもしれない。そういう結束の強さがストレートに出ていた千秋楽だった。座長としてもよく頑張ったねと褒めたい(^^)

千秋楽ネタ:回想シーンでの安兵衛と又八の会話。喧嘩指南と思いきや喧嘩をした後は片付けましょうになっていくのが可笑しいのだけど、ここの会話が微妙にいつも違うので三谷さんオリジナルがどこまでで染ちゃんのアドリブがどこまでなのかが気になる。千秋楽では釘が刺ささってしまい引っこ抜いた目玉話が長かった。「目玉が道に落ちていたら大変だぞ」「「きゃ、どこ観てるのよ又八さん」って大事になっちゃうだろ」なんてことをボソボソと話のだけど、このシュールな会話が染ちゃんと勘太くんの素の会話のようにもみえる(笑)


カーテンコールは何度あったかな?途中で数えるのをやめました。鳴物さんたちも自己アピールしてるし、ほんとに皆が皆、楽しみながら頑張っていったんだなあというのが見えました、三谷さんも御簾のなかに紛れ込んで顔を見せてくださいました。染五郎、亀治郎、勘太郎の三人はカーテンコールで早替わりを披露。まさかカーテンコールでやるとは思いませんでした(笑)

染ちゃん:安兵衛→中津川祐範→安兵衛
亀ちゃん:右京→村上庄左衛門→右京
勘太くん:又八→堀部弥兵衛→又八

しかもそれぞれ役に成りきってのご挨拶が笑えました。染ちゃんは中津川祐範の時だけ投げキッスしてるし、亀ちゃんは庄左衛門の時に祐範@染にベッタリくっついてるし、勘太くんも堀部弥兵衛の時はしっかりじじむさーく手を振っていた(笑)

途中、染ちゃんが座長としてご挨拶。全員が一丸となってやりきったというという自負が感じられました。うん、ほんとに皆が皆、素敵だったよ。そして新作歌舞伎の可能性を広げてみせた、そんな予感がしました。


3 コメント

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VIVA!主題歌  (かしまし娘)
2006-04-10 08:28:01
雪樹様、まいど!

今さらの話題なんですがTBさせて下さい(失敗してたらごめんなさい…)

主題歌が頭の中から出ていってくれません(笑)

三谷の次の夢は「文楽」!実現すれば嬉しいですぅぅぅ。

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まいど! (雪樹)
2006-04-10 14:34:27
かしまし娘様、TBありがとうございます。パルコ歌舞伎の主題歌、インパクトありますよね。思わずCDを買ってしまった私でした(笑)三谷さんの文楽…想像つきませんが実現したら楽しいでしょうねえ。三谷さん、あと最低1回は歌舞伎をまた書くつもりでいらっしゃるみたいです。こーなったらトコトン頑張っていただきたいですね。
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はじめまして 今頃高田馬場 (まめこ)
2006-04-18 01:59:45
お邪魔いたします。

友達に昨日高田馬場のDVD貸してもらい

今頃見ていて、

プログラムにあまりなかった洪庵先生検索でこちらに参上しました。

舞台はナマに限ると思っていたのに大笑い。

何度も好きなほりちゃんのシーンなど見ています。

こんなに詳しく一人ひとりかかれて凄いですねえ。

春の祭典もいかれてるんですね。
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