Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

平成中村座『五月大歌舞伎 昼の部』立見席

2012年05月05日 | 歌舞伎
平成中村座『五月大歌舞伎 昼の部』立見席

『五月大歌舞伎 昼の部』の二演目を立見してきまました。今期の中村座にはお初、そして立見もお初。立見はさすがに疲れますけど視界が良いのとちゃんと花道もみえるのも良いですね~。中村座の間口は芝居にはちょうどいいですよね。立見でも臨場感あるし。

『本朝廿四孝』「十種香」
「おお、花形!」って感じでした。私が『本朝廿四孝』を最後に観たのが雀右衛門丈の八重垣姫。雀右衛門丈が封印された時に私も図らずも封印しちゃった演目。なのでかなり久しぶりこの演目を生で観ました。色々花形でしたがそれを含めて興味深く拝見。この「十種香」の場は物語が動く場ではなくて役者の風情や台詞廻しの妙を楽しむ場だと思うので、花形でしっかり見せてくるのは難しいと思います。立見席からだと中村屋の間口でも残念ながら濃密な空気は作れていませんでした。かといって「熱」で見せられませんし。難しい演目だなあとつくづく。でも役者それぞれの丁寧な運びでの芝居に細いながらしっかりとした骨格が感じられ、次世代が確実に育っているという感慨を先月に続き感じさせてくれました。

八重垣姫@七之助くん、赤姫姿が思った以上になじんでおりお人形さんみたく可愛いかったです。身体をよく抑えて丁寧に丁寧に動いていました。女形の身体の使い方がしっかり出来てきたんだなあとまずそこに感心。あと台詞も情感がたっぷりとは言えないものの随分とよく聞かせられるようになってる。勝頼を一途に思うストレートはよく伝わりました。七くんは最近、急成長ですね。赤姫としてまずは第一歩、ここからという意味でとても良いスタートを切ったと思いました。

濡衣@勘九郎くん、勘九郎くんの女形、最近ちょっと身体が大きくなりすぎ(背丈の問題を言うのではありません)な気がしていましたけど襲名で弥生をやったおかげか久しぶりにしっかり作れていた気がした。七くん同様丁寧に丁寧に演じていました。真面目な雰囲気が活きて恋より使命大事に心強くある濡衣でした。台詞廻し、最初は勘三郎を感じたんですが次第に時々ですが芝翫丈を感じました。それと勘九郎くんと七之助くんの質感が似てるな~って初めて思いました。私的にちょっとした発見。中村屋ファンの方々には今更なにをって言われそうね(^^;)

ふと思い出したこと。勘九郎くんの若い時、私は彼は女形をしている姿が好きだった。表情や立ち振る舞いがとても可憐で女形に進んでくれてもいいのになと思ったものだ。今でも。勘九郎くんの女形は寂しげななかに可憐さを感じて好きです。<まあ私は基本女形好きではあるが。

勝頼@扇雀さん、ふっくらとした姿がいい二枚目風情。勝頼は終始受けの芝居で難しいと思うけどまずは品があり丁寧に受けの芝居をしているのが良いと思う。もう少し艶やかな色気と一服の絵になる形が欲しい気がしました。もうひとつインパクトに欠けた印象。

謙信@彌十郎さん、姿は押し出しがよく見栄えするんだけど怖さがちょっと足りない感じ。声の作りのせいかな。重鎮が演じたものしか見て無いのでどうしても厳しい目になってしまいます。

白須賀六郎@橘太郎さん、出てきて一瞬ビックリ。この演目にもご出演ですか!こういう役のイメージがなかったんですけど想像以上にしっかりしてて感心。

『弥生の花浅草祭』
染五郎・勘九郎コンビでの舞踊の共演って2002年の『棒しばり』以来かな?うわあ、そんな長い間一緒に踊ってなかったんですね。この二人の『棒しばり』の間がとてもよくて見ていて気持ち良かった。またこのコンビで『棒しばり』が観たいな~っとずっと思っていました。この頃は今回ほど踊りの質の違いは感じなかったです。むしろ似てるとこもあったと思う。今回は染五郎さんと勘九郎くん踊り方が全然違っててビックリ。それでも息や間は以前と同じようにぴたっと合っている。その部分が不思議と面白かった。踊りの役割的に染五郎さんが全体的にリードしていくせいもありますが特に獅子は競いつつもお互いに信頼感がある雰囲気で兄弟獅子のようでした。

染五郎さんも勘九郎くんも踊り方の違いはあれど踊り手として情景描写がやはり上手いしメリハリがある。だから観ていてあっという間に時間が過ぎるし楽しい。何より二人が楽しそうだし。競争心もがっつりみえるけどお互い面白がってる部分もみえたような気がします。

染五郎さんの踊りはいつも思うけど本当に大きい。身体はきついところまで絞って使ってるのに空気の捕まえ方が大きい。中村座では舞台の端から端までめいっぱい動いてた。特にああいう激しい踊りになると舞台が狭くてしょうがないんだよオーラを出す(笑)。「石橋」での毛振り、染五郎さんは最初から少し早め→ターボ→高速ターボの三段階。染五郎さんのの毛振りは鋭いし力強い、そしてまったく崩れない。そして勘九郎くんを煽る煽る。若干大人気ない?(笑)。染五郎さんは高速ターボの時に片足をがっと引くんですけど個人的にそれが妙にツボというか好きです。

勘九郎くんの踊りは以前はもっと開放的だった気がするけど今はどちらかというと身体をまあるく内側へ内側へと向けてる感じ。膝を痛めたせいもあるだろうけど身体の使い方を変えてきてるんじゃないかな。溜めて最小限で表現する方向に向かってる。「石橋」での毛振りは勘九郎くんはゆったり→高速ターボの二段階。ゆったりの時のまるさがお父様の勘三郎さんの毛振りに似ていました。高速のところは最初はキレキレだったけど後半、染五郎さんの高速ターボに煽られたか早く回そうとして首で回してしまい毛が乱れ身体が傾いてしまっていました…危ないので気をつけて~。