Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

名古屋御園座『陽春大歌舞伎 昼の部』 2等2階前方下手寄り

2008年04月20日 | 歌舞伎
名古屋御園座『陽春大歌舞伎 昼の部』2等2階前方下手寄り

『ひらかな盛衰記』「源太勘当」
「源太勘当」は『ひらかな盛衰記』の2段目にあたる芝居。歌舞伎での上演頻度はさほど高くない演目ですね。わりと面白くまた人情味もあり良い段だと思うのですが。ただ芯の源太は主役だけどほとんど動かず風情と語りだけで見せないといけないお役だから役者にかなりの技量が必要でしょうね。また芝居としては義太夫ものとしての濃さも必要だし。源太だけでなく登場人物の役者が揃わないと面白くならないのかも。

源太の染五郎さん、「鎌倉一の風流男」と語られるに相応しい姿でした。衣装がとてもよく似合い、二枚目の柔らかさのなかに武士として芯があり麗しさと凛々さが同居した源太でした。また優しさのなかに武士として、そして梶原家の長男としてのプライドを感じさせる。強さと弱さが同居している源太というキャラクターにピッタリでした。

ほとんどが受けの芝居なのですが芯としての華やかさと存在感が終始ありました。こういう受けの二枚目の役柄だと時に大人しくなってしまうことのあった染五郎さんですが、今回はどの場面でも目を離させない風情があったと思います。とにかく姿形が非常に美しい。また語る場面での所作のひとつひとつが美しく明瞭でその場面、場面の空気が流れ目の前に浮かんでくるかのようでした。ただ、義太夫にノッての語りは緩急やメリハリがまだ少し足りないかなあと思う部分も。この台詞廻しにたっぷり感じがでてくるともっとらしくなるんでしょうね。

勘当させられ「やつし」になってからがまた良かったです。中間の黒い着物に縄帯姿にさせられた姿がまた美しい。どんな格好をしていてもあくまでも気品ある風情。ボロな格好になってなお美しくある。母への情に崩れても武士として芯から崩れないのが良いです。再演を重ねていくうちに当たり役に出来そうでした。

平次の歌昇さん、強面ではあるけれど甘ったれで弱虫なキャラクターを滑稽に演じます。平次は敵役ながらどこか愛嬌をもつ役柄でかつ動きのある芝居をするので儲け役です。歌昇さんは体型がぽっちゃりしていらっしゃるし拵えがとても似合います。ただ少しばかりマジメすぎて少々分別がありそうな雰囲気が。もう少しはじけた感じのほうがいいかなと。平次がもっとアホキャラのほうが源太も生きると思う。

千鳥の芝雀さん、とても可愛らしくはじけてて非常に良かったです。芝雀さんは義太夫もののなかの女性が一番似合う。拵えもとても似合ってて若い娘にしか見えなかったです。今月のなかじゃ一番似合ってたかも。また恋する娘としての心持ちがストレートに伝わってきました。台詞廻しもとっても良かった。義太夫ものとしてのたっぷり感は芝雀さんが一番あったと思う。

母、延寿の東蔵さん、場を締めます。いわゆるたっぷり感は無いものの、母としての情をストレートにしっかり演じていらっしゃいました。子を想うゆえ、といった部分の強さ、弱さがしっかりとありました。

にしても延寿さん可哀相ですよねえ。旦那(梶原平三景時)に息子の処遇を一任させられちゃうだなんて。まあ母に頼んだということは、息子を切腹させないのを見越してだったんでしょうが…。そもそものこういうことになったキッカケの失敗は自分なのにっ。というツッコミがはいるとこが古典…(^^;)


『鬼平犯科帳』「大川の隠居」
昨年五月に新橋演舞場で初演された新作歌舞伎。再演ということで、やはり演出が前回からかなり見やすいように練られていました。再演って大事なのね、と思いました。ちょっとダレるなと思っていた場がほとんど無くなっていてテンポが良くなっていました。ただ場をカットしただけでなく足した部分もあり、より内容がわかりやすく。

鬼平の吉右衛門さんが前回以上に「鬼平」でした。初演の時の肩の力が抜けた感じで鬼平らしいメリハリがあった感じ。ただ1幕目の声量が少々弱かったかなあ。2幕目以降は気にならなかったんですが。それにしてもまあ吉右衛門さんさんの鬼平にはいわゆる男らしい色気がありますねえ。

友五郎役の歌六さんは完全に当たり役ですね。上手すぎでしょう。アクの強い役を気持ちよさそうに演じていらっしゃってました。

奥方は芝雀さん、このお役どうなんだろう?と思っていたのですが品があってなかなか良かったです。旦那一筋な可愛らしさがあって違和感なし。

今回は木村忠吾の松江さんの劇中披露がありました。襲名してから松江さん、どんどん良くなってきましたよね。今月は飄々した忠吾がお似合い。