Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『十二月大歌舞伎 夜の部』 3等B席下手寄りセンター

2008年12月26日 | 歌舞伎
歌舞伎座『十二月大歌舞伎 夜の部』3等B席下手寄りセンター

21日(日)に夜の部を観劇した時に今回の『籠釣瓶花街酔醒』がいたく気に入ってしまいどうしても再見したくて思わず千穐楽の3B席を取ってしまいました。つくづくノワール系物語が好きな私です。会社を早退できる状況ではなく『名鷹誉石切』は諦めて『高坏』と『籠釣瓶花街酔醒』の二本のみ観劇。週末・祝日以外はあまり入りがよくなかったらしい今月の夜の部ですが千穐楽のせいかほぼ満席。幕見も立ち見が出ておりました。今年の観劇納めが籠釣瓶花街酔醒』でいいのか?と思いつつ充実した芝居を見せていただき満足感が大きく、ラスト後味悪くても大満足しました。

『高坏』
21日に拝見した時よりぐんと良くなってました。今回は中日(幕見)と21日を見て、この舞踊で観客をわっと沸かせるまでにはいってなくて、さすがにこの舞踊は難しかったかしら?と思っていたのです。しかし、今回はしっかり踊りとタップで観客をぐんと湧かせてきました。踊りにかなり華やぎがでてほろ酔い加減という部分や恋模様などの情景をふんわり柔らかに表現。そして高下駄タップにもだいぶメリハリがでて、そのメリハリで色んなところで拍手が湧いてました。また品のよさというものが崩れずにあって染五郎さんらしい舞踊でした。

さすがに勘三郎さんのようにぐわっと観客を巻き込むような鮮やかさや「おお、すごい」と感嘆させるまでにはいってなかったですけど、回数重ねたらだいぶ良い線いくんじゃないかと思いました。これは千穐楽をみてよかった。それにしてもふんわかホケホケのキュートな染五郎さん本当に可愛いです。邪気のない子供みたいな可愛らしさでした。

『籠釣瓶花街酔醒』
人間の闇の部分を際立たせた今回の芝居、やっぱり面白いです!!

次郎左衛門@幸四郎さんの真っ直ぐな人物造詣には感嘆する。あれだけ真っ直ぐに演じているのに人物像に幅がある。あの造詣はちょっとやそっとじゃ出来ないと思う。また幸四郎さんて、芝居に「人間」というものを曝け出すことに躊躇がない。男の情けない滑稽さがそのまま提示されながらも、きちんと生きてきたという品格とプライドを芯の部分に持つ。そういう人間が、憎悪というどす黒い醜い狂気を爆発させる。だからなおさら次郎左衛門という人物の哀しさが浮き立つ。

八ッ橋@福助さん、苦界に生きる女の切なさややるせなさが伝わってきます。女の哀れさがあってじーんときてしまいました。元は武士の娘、実は世間知があまりない女性なのかなと思いました。思うように生きてこれない身に「身請け」という「自由」を提示された時、次郎左衛門の「家」に束縛されることは考えなかったんだろうな。もしかしたらこれで栄之丞が来るのを待つのではなく自由に会えるようなるかもなんて淡い期待をしてしまっていたのかも。そんなことを感じさせた八ッ橋だった。

今回、次郎左衛門と八ッ橋の二人の生き様の在りようがもうほんと哀しくって辛かった。

そして、栄之丞@染五郎さん。甘さのあるいわゆる本当の二枚目。浮世離れした花のような存在。だからこそ次郎左衛門が心の奥底にしまいこんだコンプレックスを刺激してしまったんだろうと思う。次郎左右衛門が栄之丞が八ッ橋の間夫だと悟った時、絶望が憎しみに転化した瞬間かなとと思いました。

栄之丞@染五郎もたぶん流されて生きるタイプの人間だろう。今までずっと女に甘やかされて生きてきたんだろうな。自分のことしか見えてないこんなダメ男。それでも素敵なんて思っちゃダメよと思いつつ、甘いオーラに女はやられる。苦界のドロドロのなかで生きている八ッ橋にとっちゃ夢をみさせてくれる男だったんだろうな。大事にしてきた綺麗な部分を栄之丞に託してたんじゃないかな。やっぱ栄之丞を選んじゃうよねえ。