Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『京乱噂鉤爪― 人間豹の最期 ―』 特別席1階前方センター

2009年10月18日 | 歌舞伎
国立大劇場『京乱噂鉤爪― 人間豹の最期 ―』2回目 特別席1階前方センター

国立『京乱噂鉤爪』2回目の観劇です。今回は特別席1階2列目での観劇。私はどちらかというと引きのほうが好きなので2列目は前すぎないか?と思いましたけど、国立大劇場の前方列は意外と見やすく舞台のなかに入り込んだ感覚になってとっても良かったです。1回目に観た時よりさらにとっても面白く楽しく観られて、また観てもいいなあって心から思いました(笑)とにかく観ている間は色んな部分が楽しくて楽しくて。突っ込みどころ満載な部分も面白がってしまえ、という感じもありました。

相変わらず脚本のアラにはとにかくツッコミまくりで、説明台詞いらないわ、説教台詞いらないわ、明智小五郎@幸四郎さんの余計な独白いらないわ、キャラクターの行動原理が薄すぎよねえ、本筋の部分に大きな筋がないし~、物語の構造を組み立て切れてないと思う、とあれこれ言いたいことは山のよう(笑)

がっ、それがあってもなぜかいちいち、いちいち、あれこれが楽しい不思議な芝居。なんでこんなに楽しいんだろう?役者さんが衒いなく楽しそうに演じている部分とか、そういうとこでなぜか妙な説得力が生まれているせいかな?

個人的には期待してたのが恩田対明智だったから、それを考えると原作のあった前作のほうがやっぱ好きなんですけどね。でも思い出してみたらあれも脚本や演出にはツッコミまくりで物足りないながらも役者の力技な魅力がすごく気に入ったって感じだったかも。でもスペクタクルさというか場面、場面の派手さの部分でいえば今回のほうが上かな。また梅玉さんと翫雀さんが入って舞台に厚みが出たし。

脚本が荒いだけに役者さんたちの地力がかえってよく見えた部分もあるかなあ。そういう意味では歌舞伎ぽいのかな。前回以上の役者さんたちの力技の見事さに惚れ惚れしたりしました。

お気に入りはやはり大子(みすず)ちゃん。大子(みすず)@染五郎さんの可愛らしさったら。実次じゃなくても惚れてしまうだろう、と。大柄で太めで力持ちで声も太くてではあるけど(個人的には見た目も十分かなり可愛いとは思う)性根の部分の可愛らしさがとっても素敵なんですよね。コミカルな部分もあるのだけど品が良くて、ちゃんと商家のいとはんで、心根の優しさが滲み出ている。とってもキュートでいじらしくて、応援したくなってしまう。

人間豹(恩田乱学)@染五郎さんは今回、脚本のせいで存在意義が薄かったのがやはり残念。いったい何のために一般人まで殺戮をしていたのだろうね。好みの女も捜してなさげだったしね。美女殺しの恩田はいずこ?ただ脚本の薄さのなかでも前回以上に動きまわり不気味さを感じさせ、またラスト、獣人としての行き場のなさをきちんと表現していたと思う。今回の旋回宙乗りは12日に観たときよりもっと迫力ありました。とても綺麗な回転で素直に「お~っ、凄い」と楽しめました。この宙乗り、かなり体力が必要でしょうねえ。

鏑木幻斎@梅玉さん、一歩間違えればとんでもないキャラになりそうなキャラクターを見事に魅力的な悪役に仕立ててきたと思う。妖しくも怪しげで、それでいてどこか冴え冴えとした部分のある造詣。いやあ、こういう役がこれほどハマるとは。これからこういう役もどんどん演じていっていただきたい。いつもとまた違う魅力があります。

実次@翫雀さん、柔らかい雰囲気がやはり良いわ~。松吉と実次との切り替えも一貫しつつ、メリハリをつけてきていました。実次はマジメで夢見がちで優しすぎる性格ゆえに騙されてしまう哀しい人だけど、そんな人だから大子ちゃんの性根の可愛らしさを愛したんだろうな、なんて思いました。大子ちゃんとのデコボコカップルはほのぼのします。幸せになってほしかったなあぁ。 

前回、あえて(笑)言及しなかった明智小五郎@幸四郎さん、存在感はバツグンなんですけど今回の役割があまりに薄すぎて、恩田以上に存在意義があったかな?と。いでたちとかカッコイイんですけど明智らしい活躍はほとんど無しで、乱歩の明智小五郎キャラを期待するとガッカリかなあ。それと明智の恩田に対する思い入れが感傷的すぎて納得いかない感じ。まずは隠密同心としての正義感の部分とかもっと押し出して欲しかった。その上で何も言わないまでも「恩田は哀しいやつだったんだな」とフッと一瞬思い入れした佇まいするぐらいのほうがカッコイイと思うんだけどなあ。「恩田~~!」なんて叫ばなくてよろしい。観客が思い入れできるだけの恩田がそれまでに描かれているなら別だけど、そうじゃないし…。

幸四郎さんの演出の部分もついでも言及させていただくと、脚本の荒さを補うどころか、そのまま提示してしまうような役者の動かし方(特に人間豹と鏑木の対決シーン、大子ちゃんの最後のシーンなどは、もっとたっぷりと舞台中央でハッキリ見せるべきだったと思う)をしていたのはかなり不満ではあるのですが全体の流れでいえば場面転換が今回のほうがスムーズだし、舞台美術はダイナミックだし、視覚的に面白い部分が多かったと思います。

特に朱雀門の大セリ使いや、ラストに向けての国立の奥行きの深さを生かした舞台美術の効果などは本当に見事だと思う。ただ、照明はもう少し明るくしてほしかった。暗い場面が多すぎる。冒頭なんて前回2階から観た時には何をしているか判りづらかったし、二幕目の傾奇踊りのところも、かなり面白い踊り&衣装なのにそこまでわからなかった。今回、1階の前方で観てようやくかなり面白いことをしていたんだ、という部分が散見。そういう部分、3階の一番上まで判らせないといけないんじゃないかと思う。 

観劇後、友人たちと、あーだこーだ、こうしたら良いだの、これがダメだのツッコミまくり。こういうのが楽しかったりしたのでまあ、脚本のアラも良しでしょうか(笑)それにしても脚本&演出はちょっと練り直してほしいなあ。

声を大にして言いたいのは大子ちゃんは殺さないでラスト、ハッピーエンドにしようよ~。そしてラストの明智小五郎の独白要りません(笑)。大子(みすず)ちゃんは殺す必要がないと思いません?花がたみを動かす魂、死ななくても大丈夫だと思う。実次を助けたい気持ちだけで十分で、その気持ちが花がたみに籠められた父親の魂に呼応した、という流れでいけるとと思うんです。大子(みすず)ちゃんは死なないほうが物語の筋的にもいいと思うんですよね。生きていかなければならない「人」がきちんと生きていたほうが人間豹の魂も救われる気がするのです。

ちょっと思ったんですけど全体的な雰囲気とかテーマはなんとなく今月新橋演舞場で上演している『蛮幽鬼』にも通じてるなと感じました。それで勝手な申し分で失礼なんですが『京乱噂鉤爪』を中島かずきさんが大筋の脚本書いて、女子キャラの補足を岩豪友樹子さんがやったら、すんごく面白くなるんじゃないかとか思った私でした…。ああ、観てみたい。