Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席2階左袖

2013年05月21日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席2階左袖

『将軍江戸を去る』
真山青果作品のなかでもこの作品はある程度等身大の役者である程度の勢いや熱気で表現したほうがわかりやすくなる作品かなと思ったり。幕末は良くも悪くも若い人間たちの熱き想いが時代を動かしていた時期ですし。そういう意味で花形でこの作品を観られて面白かったです。

慶喜@染五郎さん、慶喜の立場からの悩み、苦しみ、悔しさ、そして孤独さを熱く静かに演じていたと思います。青果作品の独特の抑揚のある難しい台詞術のなかに細やかに感情表現していく。あそこまで言葉のひとつひとつのなかの想いがストレートに伝わってくるのに正直驚きました。独特の朗々とした台詞術は歌舞伎独特のものですがヘタするとなかなか感情が伝わりにくいかなと思っていたのですが伝えようがあるんだなと今回思いました。また染五郎さんの佇まいに品格があり感情に溺れない慶喜像が良かったです。この佇まいがあるからこそラストが活きたかなと。

山岡鉄太郎@勘九郎さん、熱く勢いのある本当に真っ直ぐな鉄太郎。なんとか慶喜を説得しなければという焦りにも似た勢いが身体から出てくるような雰囲気。その必死さに慶喜が耳を傾けざるおえなくなっていく、そこが良かった。また台詞の部分で争いの不毛さ悲惨さを初日に比べ粒立ててきて鉄太郎の行動原理に説得力がありました。

伊勢守@愛之助さん、落ち着いた佇まいとのなかに伊勢守としての芯をしっかり感じさせてくれました。

『藤娘』
藤娘@七之助さん、可憐で初々しい藤娘です。透明感があり硬質。娘らしさというより精の部分が大きい感じ。自身が恋する娘ではなく恋する娘を真似して踊って踊ってるというか。そこに可愛らしさがある藤娘。

舞踊としては丁寧にきちんと踊っていくという感じからはまだ抜けてきてないかな。ふんわりとしたオーラは少し出てきてたように思います。

『鯉つかみ』
ケレン優先にエンターテイメントに徹した内容。とりあえず観客との距離を身近にしようという感じ。小屋はもう少し小さいほうがよさそうな演目ではありますが明治座の客層的に今回はうまく伝わったかなと。

前半の流れは少々平坦でもう少しメリハリがあるともっと全体的に楽しめたかな。後半の立ち廻りは身体を目いっぱい張ってテーマパークのように観客を巻き込んで楽しく見せたと思います。