Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

日本橋公会堂『第二回 趣向の華』 1階センター

2009年08月17日 | 歌舞伎
日本橋公会堂『第二回 趣向の華』 1階センター

なかなか拝見できない10才台、20才前半の歌舞伎役者御曹司たちが揃うということで興味を惹かれ観に行きました。

4時30開演で終演がなんと9時。休憩時間が計35分しかないという盛り沢山な超ハードな公演でした(笑) でも、とても楽しかったので疲れませんでした。所詮、お子ちゃまたちの発表会、と思っていたのですが、それなりにやっぱりプロ&プロの卵たち。拙くても表現しよう、伝えよう、見せようという気概が感じられて観ていて非常に気持ち良かったです。そして、そういう彼らをサポートする、若手・中堅役者や名題下の方々が、「さすが!」な締めっぷり。こういうの観るとまだまだ歌舞伎は大丈夫って思ったり。そして、古典の強み、歌舞伎演出手法の強みをつくづく思い知った感があります。 そういう意味で本当に新しいことに挑戦することの意義や大変さ、リスクなどにも想いが行きました。

長唄『藤娘』
立方は坂東亀三郎さん。普段はキリリとした立役をなさっている亀三郎さんの藤娘。この会ならではでしょう。ご本人、飛び道具とおっしゃっていますが拵えをした亀三郎さん、なかなか美人さんです。踊りのほうは丁寧に一生懸命に、という感じでしょうか。体全体に柔らか味があまり無く、手捌きや足捌きが荒いため、ごつごつした藤娘といういかにも立役さんの踊りだなあ感は否めません。藤娘は振袖姿のはずですが、袖が短めの着物を着ていました。袖の扱いが難しい女形舞踊に慣れていなから動きやすい長さにしたのかな?小道具の扱いがさすがにきちんとしていたのには感心。藤の枝や傘の扱いは難しいんですよね。三方へのご挨拶のところはとても可愛かったです。

演奏のほうは立三味線が勘十郎さんで並びに梅枝くん、萬太郎くん、種太郎くん、種之助くん、廣太郎くん。太鼓が亀寿くん、大鼓が壱太郎くん、小鼓は梅若玄祥さんと尾上青楓さん、それと梅丸くん。立唄が廣松くんで、あとは色んな社中の長唄連中。

唄は廣松くんが出だしこそ声がひっくり返りましたが、それ以降はまずます調子よく。三味線は勘十郎さんが終始引っ張っていきます。御曹司連中は譜面をみながら必死。そのなかで萬太郎くんが暗譜していたようなのには感心しました。御曹司連中には後ろに後見がいて、転調の時などに手がでて調整していました(笑)。鳴り物は梅若玄祥さんと尾上青楓さんがきちんと引っ張っていたのは勿論ですが、全員がなかなか安定した出来。

常磐津『仮名手本忠臣蔵 ―大序― 』
主催者、勘十郎さん、青楓さん二人だけでの素浄瑠璃。なんと、大序すべてを語りきりましたよ。途中、少しだけだれた所はあったものの、レベルはかなり高い。最初、プログラムをきちんと読んでなかったので、義太夫なのかと思い込み、勘十郎さんが太棹じゃなく中棹であれ?状態のなか、やはり中棹だと軽くなるんだなあとか青楓さん、美声だし非常に上手いけど語るというよりは唄い過ぎかなあ?とか見当違いの感想を持ち…途中、常磐津と知り、うわあ、ごめんなさい、すいませんという気持ちに。それにしても青楓さんの語り分けは素晴らしかった。音の高低の取り方が上手いんですよねえ。うむむ、ヘタな役者じゃ敵わないでしょうというレベルの高さで、ここまで出来るなら役者になったら?とかつい思ってしまいましたよ。

しかし、勘十郎さん、青楓さんって舞踊家なのに、こんなに何でも出来ていいのだろうかってくらい多彩な才能を持っていて、ビックリしてしまいます。


歌舞伎舞踊抄『花形一寸顔見世』
有名どころの舞踊のダイジェストをメドレーで。お客さんがかなり湧きました。勘十郎さんが「いつか彼らにこの作品を上演して欲しい…という願いで」という、御曹司たちの舞踊お披露目です。素踊りなので実力がすぐにわかってしまう、という…。

「いつか」と言うだけあって、まだまだこれから、拙いながらも一生懸命に、というレベルの舞踊です。それでも彼らは曲がりなりにも歌舞伎座本興行で何かしらの役で一月舞台立った経験のあるプロの卵たち。拙くても表現しよう、伝えよう、見せようという気概が感じられて観ていて非常に気持ち良かったです。

『供奴』
米吉くん、きっちり、きっちりと音に乗って踊っていました。それほどお顔は似てないと思っていたのですが時々ふっとお父様の歌六さんに似てるなと思う瞬間も。表情でかな?

『鷺娘』
男寅くん、可愛いですね~。鷺娘というより可愛い雛が親のマネしています、って感じの踊りでした。

『三社祭』
廣太郎くん、廣松くん、兄弟だけあって息がピッタリ。動きのある舞踊を若いだけあって弾むように踊ります。内容をきちんと把握して踊っていました。廣松くんのほうが体の置き方などがきちっと決まっていてセンスがいいなと感じました。

『吉野山』
種之助くん、丁寧に形作って決まり決まりを綺麗に見せてこようという踊りでした。

『二人椀久』
かなりテンポの速い『二人椀久』です。若い二人に踊らせるために工夫したのでしょう。梅枝くん、壱太郎くん、この二人の舞踊は年長さんだけあってレベルが高かったです。丁寧に踊るという部分以外にきちんと情感をみせてこようとする踊りになっていました。二人ともかなり上手いですねえ。手捌き、足捌きが柔らかで、体の置き方が断トツに綺麗。見応えがありました。若手花形興行(浅草あたり)で踊ってもいいんじゃないかな。

『勢獅子』
種太郎くん、萬太郎くんの二人、獅子の舞で最後しか顔を見せません。道具を使っての舞踊は難しいと思いますが、しっかり獅子を操っていました。足捌きも丁寧に。カラミがついたのですが、本興行で活躍中の名題下の役者さん4人がカラミ手なので本格的。

黒御簾音楽は立三味線は終始勘十郎さんが。この演目全部で立三味線できるって…長唄と清元と常磐津とですよ。青楓さんは鼓、太鼓、唄にとマルチの大活躍。しかも一定レベル以上なんだから凄い。なんですかね、この二人の多才振りは…。

特別出演?な市川染五郎さんは小鼓と鉦の演奏。『吉野山』と『二人椀久』では立鼓になり良いお声での掛け声を聴かせてきたり、かなり早い演奏をきちっと聴かせてきたりで予想以上の活躍ぶり。『二人椀久』の梅枝くん、壱太郎くんの踊りがとても良かったのにも関わらず、染五郎さんのほうもつい観てしまったりしました。染五郎さんは後輩たちの踊りを結構鋭い目で見ていましたねえ。かなり先輩モードなお顔をしておりました。

 
袴歌舞伎『血染錦有馬怪異 ―化猫騒動― 三幕六場』  
有馬の化け猫騒動の物語を新作歌舞伎として 苫舟(勘十郎)さんが脚本を新たに書き直し演出も手掛けた作品。なんと2時間という長時間の狂言でした。袴歌舞伎とは全員が拵えをしないで芝居をする、いわば素歌舞伎。演出はオーソドックスに、古典歌舞伎の演出をもちいており、安心感のある作り。しかし古典的なオーソドックスな歌舞伎演出は見慣れているせいもあるけど見やすくてすんなり気持ちが入っていけます。練りあげられたものの安心感というのは大きい。

本当に新しいものを取り入れていくのはやはり大変だしリスクが大きいものなんだな、ということも改めて思いました。でも新しいもの、が入っていかないと停滞する。だからあえてリスクを負うものをやろうとする方々の意欲は大したものだとも改めて思った。スーパー歌舞伎を手掛けた猿之助さん、そして現代の演出家を歌舞伎に呼び込んでいる勘三郎さん、新しい題材、新しい手法を取り込もうと挑戦する染五郎さんの試みは思っている以上に大変で凄いことなんだなと思いました。

さて、話が逸れましたが『血染錦有馬怪異』ですが、かなり面白かったです。練り上げれば本興行でも掛けられるくらいのクオリティはあったと思う。

友右衛門さん、芝雀さん、京蔵さん、亀三郎さん、亀寿くん、そして名題下の蝶之介さん、京三郎さん、京珠さん、京由さん、京純さん、蝶三郎さん、梅之さんがまずは見事というか超若手役者をフォローして芝居を締めていきます。この方々が出演したからこそ、きちんと作品として観られるものになったと思う。歌舞伎役者さんたちの地力はどこから来るのだろう。日々の稽古もさることながら、やはり毎日のように舞台立つことでの研鑽も大きいのでしょうねえ。亀三郎さん、亀寿くん兄弟はもっと役がつけば伸びる役者だよなあと改めて思ったり。曽我綉侠御所染の百合の方のような局岩波を演じた芝雀さんは意地悪なお局というニンにはない役だったけど、台詞の上手さが際立っていた。また名題下の方々がそれぞれ味わい深くて、舞台での位置取りの確かさというか人物像の捉え方の確かさというか、脇の方々がよくて芯が引き立つというのもつくづく感じたりしました。

超若手役者のほうは梅枝くん、米吉くん、種之助くん、萬太郎くん、廣太郎くん、梅丸くん、廣松くん、壱太郎くん、種太郎くんが出演です。

若手ではやはり年長の梅枝くん、特に上手さを見せてきます。このところ本興行でも大事な役をこなしていますから頭ひとつ抜けています。台詞廻し、所作ともにすっかり女形として作り上げられてきていると思いました。

また壱太郎くんの所作の美しさが目を引きました。台詞廻しはまだ声がコントロールできずに聞き辛いところがありましたし、見せ場を引っ張っていく場の空気を作りきれなかったりでしたが、身のこなしには説得力がありました。

種太郎くんはちょっと不器用さはあるけど存在感があります。独特の雰囲気をもっているのが強みだと思う。

それと廣松くんが芝居っ気という部分のセンスがかなりありそうでした。

他の皆も本当によく頑張っていて、年齢より上の役をきちんとこなしていました。暖かい目で見たということもあるけど、現在、学業優先で、また役が付かない年代の子たちがあれだけの気構えで演じていることに感動してしまいました。

それとオマケな感じですが最終幕での勘十郎さん、青楓さんのまたまた大活躍な大薩摩の時に三味線の足台を持ってきたのがなんと染五郎さん。スタスタとやけに姿勢のいい格好で出てきたと思ったら客席へ正面向いて台を置く(笑)。染五郎さんと判ったお客さんたちが大喜び。そして演奏後、やらかしてくれました。大薩摩演奏後、足台を引っ込めにきた染五郎さん、いきなり舞台中央に進み、両手をあげてたっぷりご挨拶。大受け、大笑いですよ。しかも、そのまま袖に引っ込む振りをして途中であれ?足台を忘れてたという小芝居をして引っ込んでいきました(笑)。ほんの一瞬でしたが、お茶目な染五郎さん、美味しいところを持っていってしまいました。