Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 夜の部』 2回目 3等A席前方センター

2008年06月30日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 夜の部』 2回目 3等A席前方センター

風邪ぎみで体調が悪く一演目だけ観て帰ろうかと思ったのですが風邪薬が効いたか大丈夫そうな雰囲気だったのでずるずると結局最後まで観てしまいました(^^;)でもそれだけ集中して観れたということでもあります。前回観た時よりパワーアップしていた感じで楽しく拝見。

『義経千本桜「すし屋」』
これがとても良くて、大満足。前回観た時も思ったのですがアンサンブルがとても良いですねえ。配役のバランスが取れていました。

吉右衛門さんの権太は押し出しが強い方だけに悪さをしてきた「いがみ」の部分が納得できる。一度落ちてしまった人間、という部分が強調されるだけに「もどり」のところで、妻子を持って何かしら思うことがあったための、親のための「忠義」だったのではないかと、そう感じさせる。甘さがない骨太な権太であった。それだけに弱さを見せる権太は哀れでもある。人はやはり情無しでは生きていけないのだなと。そして、でも吉右衛門さんの権太はどこなく満足気でもあった。自分のために身を投げ出してくれる妻子を持ち、自身を許してくれ泣いてくれる両親、妹が傍らにいて。自分が成さなければならないことはやった上で、それが空回りなことであっても自分を受け入れてくれる人たちがいてくれた感謝の念があったような気がした。情に溺れるのではない、ぐっと押し殺した心を解放させていった権太であった。どことなく男気、というものも感じさせた。こういうキャラクターの作り方は吉右衛門さんならでは、だったな。

前回も良いと思った染五郎さんの弥助/維盛、ますます良くなっていました。たぶん、弥助/維盛はニンにあった役なのでしょう。品があってちょっと儚げで。皆に守られるべき運命の人でした。今回、弥助と維盛の切り替えがきちんと明確だっただけでなく、気持ちがすごく入ってました。後半もしっかり存在感がありました。維盛なりに弥左衛門一家への思いがしっかりみえました。それと妻子への心配りもさりげないけどきちんとあってとても人間味溢れた維盛だった。

歌六さんの弥左衛門の手強さもやはりいいなあ。単なる老け役にとどまらないのです。役柄本来の背景が浮かんできます。

芝雀さんのお里も、健気でほんとに可愛いらしかった。節度があるだけにほんとに切ないんですよね。身分違いと判ってとっさに下手に下がる、それがこんなに切ない行動だったのかと思いました。すれてない純真なお里さんでした。

今回、高麗蔵さんの若葉の内侍にどことなく艶であって良かったです。ここの段だけだと情が薄くみえがちな若葉の内侍なのでやはりもう少し情味が欲しい感じもありましたがお里への嫉妬心もみえてなかなか良かったと思います。

段四郎さんの梶原平三景時は輪郭の太さが見事だなと。佇まいだけで納得させてしまいます。

『身替座禅』
今回の『身替座禅』はほんわかとしててほんと楽しい。仁左衛門さんがやっぱりとにかくかわゆらしい。錦之助さんがだいぶ弾けてました(笑)皆、楽しそうに演じてた。

『生きている小平次』
前回少し不満だったのですが今回はかなり面白くみました。日々変化してる芝居なのかも。まだ完全に演出の方向性が決まってないんだろうなと思いました。今回はだいぶ怖い方向でした。

太九郎@幸四郎さん、だんだんに恐怖心を抱き、おかしくなっていく感じでかなり良かった。おちか@福助さんは前半、かなり抑えた芝居で、これはいけると思ったんだけど後半、いきなり崩れた。というか緩急の芝居が幸四郎さんだと笑い→恐怖の切り替えが上手くて笑わせっぱなしにはしないんだけど、福助さんそこまで出来てなくて客が笑いっぱなしになる、という感じ?もったいない。でも、なんとなく方向性がわかってきた雰囲気で。再演してほしいかも。もう一場増やしてもいいんじゃないかなあ。

小平次@染五郎さん小平次は今回、相当怖い人でしたほんとに背筋が寒くなるくらいぬめぬめの粘着質などこか狂った人になっていた。元々どこか危うい人で、それが太九郎と言い争ううちにカクンと境界線を越えてしまった感じ。2場での太九郎宅での小平次は自身が生きているのか死んでるのかわかってない風情。もうほんとに凄惨な空気を纏っていた。こんな人に付きまとわれたくないです…ひいい。

『三人形』
『生きている小平次』が怖かったのでこの華やかな打ち出しでほっこりしました。錦之助さんと芝雀さんのカップルはバランスがいいです。美男美女。

それにしても芝雀さんは雀右衛門さんに似てきました。親子ってだんだん似てくるんですねえ。声も似てきたし。後見の京珠さんが姿勢が綺麗でちょっと注目。

踊りはやっぱり歌昇さんが一歩も二歩も上手。柔らか味と備えたキレのいい踊り。これで華がでるといいんですよねえ。