晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「見知らぬ乗客」(51・米)85点

2022-05-28 12:20:26 | 外国映画 1946~59


 ・ スランプを脱出したヒッチのサイコ・サスペンス。


 「汚名」(46)以降ヒット作を出せずスランプに陥っていたサスペンスの巨匠・A・ヒッチコックが、パトリシア・ハイスミスによる奇抜なストーリーの同名小説を大胆なアレンジで映像表現。
 <列車内で知らない男に交換殺人を持ちかけられたテニス選手の恐怖>を描いたサイコ・サスペンス。

 見知らぬ男ブルーノ(ロバート・ウォーカー)と足がぶつかって話しかけられたテニス・プレイヤーのガイ(ファーリー・グレンジャー)。親しげに話しかけられるうち不貞の妻・ミリアム(ケイシー・ロジャーズ)を殺す代わり、彼の父親を殺して欲しいと交換殺人を持ちかけられる。

 ガイは有名なテニス選手で殺人を犯すような人物には見えないが、妻と離婚して上院議員(レオ・G・キャロル)の娘で聡明なアン(ルース・ローマン)と結婚しようとしていた。ところが妻は離婚を翻意、相手不明の妊娠までしていた。おまけに派手な夫婦喧嘩を目撃されている。

 ブルーノは良家の息子で一見社交的な振る舞いは正常だが、幼児性を持つ強迫性障害者であることが判明していく。ストーカーとなり遊園地でストーカー行為ののちミリアムを絞殺し、ガイに父親を殺せと迫ってくる。

 動機なき殺人を実行したブルーノに対し、ガイは委託殺人と誤解されるのを恐れ警察には言えずアンに告白する。

 相変わらずヒッチの切り口は斬新で、冒頭雑踏での二人の足下のクロスカットから殺人事件が起きるまで緊張感を高める構成で観客を惹き付ける。
 次第に二人の家族構成や背景が分かるにつれ、ブルーノの性格が異常であることが判明。トリュフォーの言う<殺人シーンをまるでラブシーンのように撮る>絞殺シーンを過剰な演出を用いず状況映像だけで恐怖感を募らせていく。
 小道具の使い方も巧みでライターは事件のKEYとして最後まで登場し、眼鏡・ネクタイピンなど登場人物並みにストーリーに絡んでくる。

 終盤でのテニスのラリー、排水溝に落ちたライターを捕ろうと必死に手を伸ばすブルーノ、暴走するメーリー・ゴーランドなどクライマックスは見どころ満載で、ヒッチの得意満面の笑みが思い浮かぶ名シーンの連続である。

 恒例となっているカメオ出演シーンは序盤にウッド・ベースを持ち列車に乗る男で登場、誰にも分かりやすい。

 出演者ではブルーノを演じたR・ウォーカーが主演のF・フレンジャーを喰ってピカイチ。同性愛的キャラでエキセントリックな人物を見事に演じている。実生活では女優ジェニファー・ジョーンズの最初の夫として有名だったが、大プロデューサーであるセルズニックに奪われ、本作完成の8ヶ月後32歳の若さで自殺している。
 ヒッチは主演F・グレンジャーを「ロープ」(48)でも起用しているが、本作ではミスキャストだったという。ただテニスが上手いのには感心する。のちの自伝でバイセクシャルであると告白していて実生活ではふたりは真逆の人生を歩んでいた。

 アンのR・ローマンもヒッチ好みの金髪ではないが無難な演技。素顔は美人でのちの「奥様は魔女」二代目ルイーザのK・ロジャースを不細工な妻役に起用したのもユニーク。
 脇役で目立ったのはブルーノを溺愛する母のマリオン・ローンとアンの妹パトリシア・ヒッチコック。パトリシアはヒッチの実の娘だが、ちゃんとオーディションし撮影中も扱いは普通だったと言う逸話もヒッチらしい。

 脚色にはレイモンド・チャンドラーの名があるが、二人は水と油でチャンドラーの出番は殆どなかったとか。阿鼻叫喚となった遊園地のメリー・ゴーランドが二人の映像表現の相違だといえば誰でも納得するに違いない。

 

「嵐が丘」(39・米)75点

2022-05-18 12:51:32 | 外国映画 1945以前 


 ・ L・オリヴィエのハリウッド進出第1作目で、原作をコンパクト化した悲恋物語


 世界十大小説とも三大悲恋とも言われる19世紀の作家エミリー・ブロンテの長編小説を僅か104分に短縮した愛憎劇。ウィリアム・ワイラー監督、チャールズ・マッカーサー・ベンヘクト脚本でおどろおどろしい復讐が色濃い物語を大恋愛ストーリーへ作り上げた。陰影のあるダイナミックな映像でグレッグ・トーランドがオスカー・撮影賞(白黒部門)を受賞した。

 イギリス・ヨークシャー。道に迷った旅人が「嵐が丘」と呼ばれる館に一夜の宿を得たが、「ヒースクリフ」と叫ぶ女の声が聞こえた。家政婦エレンが過去のハナシを語り始める・・・。

 ヒースクリフとキャシーは兄妹同様「嵐が丘」で育った仲の良い幼なじみ。父が亡くなり後を継いだヒンドリーは孤児だったヒースクリフを疎ましく想い馬丁として酷使する。
 キャシーへの想いから我慢してキャシーと密会していたヒースクリフだったが、身分違いの恋はやがて破綻し館を飛び出し行方不明に。

 W・ワイラーはオスカー監督賞12回ノミネートという記録を持つ名匠だが、「ローマの休日」(52)などオードリー作品や「ベン・ハー」(59)の監督として著名な人。格調高い演出は観られるものの情熱的で怪奇な悲恋物語描ききれていないのは出演者のギクシャクした関係があったのかもしれない。

 ヒロイン・キャシーを演じたのはマール・オベロン。インド人の母を持つエキセントリックな顔立ちでプロデューサー(S・ゴールドウィン)のお気に入り。
 ヒースクリフ役のローレンス・オリヴィエはシェイクスピア俳優として一世を風靡するのは10年後で本作は進出第1作目。
 お互い気に入らず、オベロンは「キスシーンを想像するだけでゾッとする」と言い、オリヴィエは後の夫人でロンドンにいた愛人ヴィヴィアン・リーに愚痴をこぼし、心配したリーは舞台をすっぽかしオリヴィエのもとに飛んで行った。それがキッカケで「風と共に去りぬ」(39)のスカーレットにキャスティングされたのは有名な逸話だ。
 
 おまけにキャシーの夫で若いイギリス紳士エドガー役のデヴィット・ニーヴンはオベロンの元恋人で3年前破局した間柄。如何に演技とはいえ、エドガーが直向きにキャシーを愛するのは辛い役回りだったことだろう。

 三人の関係が映像からは感じられないのはワイラー演出とプロの俳優魂がなせる技か?

 同年公開された「風と共に・・・」と何かと比較され酷評された本作だが、今では10度も映画化された原作のお手本となっている。