・トリュフォーが絶賛したヒッチコックのラブ・サスペンス。
ヒッチコック監督の原案で、スパイの娘という「汚名」を着せられた女とナチ残党を追うFBI諜報員がブラジルに潜入して展開されるラブ・サスペンス。脚本は2度オスカー受賞のベン・ヘクト。主演は「白い恐怖」(45)に続くイングリッド・バーグマン、「断崖」(41)のケイリー・グラントという美男美女。
当時3秒ルールのキスシーンが異例の長さで話題となった。合間に会話を挟みながら何と2分30秒!?
なんと言ってもI・バーグマンの美しさが際立った作品だ。ハリウッドでは<スウェーデンからきた健康な雌牛>とまで言われた彼女を前作(白い恐怖)でイメージ・チェンジさせたヒッチ。UPを多用し女優を綺麗に撮ることでは卓越した手腕を発揮している。
本作では世間から非難をを浴び自暴自棄になりながら「汚名」を晴らすべく危険なスパイとなったが、リオで恋が芽生えモラル・ジレンマに陥るヒロインで観客を虜にした。
C・グラントは仕事で彼女を利用するうち恋と板挟みに悩むというイメージとは違う役柄。ユーモアもなく、どちらかというと受けの演技は不似合いな感じだったが、終盤の緊張感アル場面で取り戻し本領発揮した。
ヒロイン・アリシアに片想いしていたナチ残党のセバスチャンに扮したのはクロード・レインズ。「カサブランカ」の警察署長でお馴染みだが、トリュフォーが絶賛した<影の主役ともいえる存在>。
中年となって偶然リオで再会したアリシアにプロポーズして夢が叶い結婚して有頂天となるも、スパイと知って毒を盛るハメになる気の毒な役。
セバスチャンの母(レオポルディン・コンスタンチン)の反対を押し切っての結婚は、まさに天国から地獄へ落とされる気分。コーヒーに毒を入れ徐々に弱らせるという母の命令に従うマザコンぶりは彼のお陰で緊張感が倍加した名演で、受賞はならなかったがオスカーにノミネートされている。
本作は卓越したストーリー・テラーだけでなく、ヒッチならではのカメラアングルとカット割りの歯切れの良さが満載だ。
二日酔いのアリシア目線で映像がくるくる廻ったりボケたりするシーン、天井から階段へ移り鍵がアップで映るなど<娯楽映画の神様>と言われる所以があちこちに観られる。
お馴染みのカメオ出演は、終盤ハイライトになる前にパーティ会場でワインをひと呑みして退場するシーン。
これだけ奇想天外な物語を外連味なくやってのけるヒッチの映画的手腕はマニアも納得である。
そして階段を歩き開いたドアで自宅に戻るセバスチャンの哀れな後ろ姿という幕切れまで用意されていた。