晴れ、ときどき映画三昧

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「わたしは目撃者」(71・伊仏) 65点

2014-07-04 17:59:36 | 外国映画 1960~79

 ・ イタリアン・ホラーの巨匠・アルジェント監督2作目は、ヒッチコック風サスペンス。

                    

 原題に動物が入っているため<動物3部作>と言われているダリオ・アルジェント監督の2作目。原題は「9尾の猫」。

 「歓びの毒牙」で華々しくデビューを飾り、<ジャロ>という猟奇サスペンスホラーの担い手で、イタリアン・ホラーの巨匠と呼ばれたD・アルジェンド。ホラーは唯一と言っていいほど苦手なジャンルで殆ど観ていないが、「サスペリア」「フェノミナ」など大ヒット作を生んだ巨匠には若干の興味があった。

 今回初見だったが、随所にその片鱗は見えたもののヒッチコックを連想させる普通のサスペンスで、まだ本領発揮以前のものだろう。

 盲目の男と幼い姪が、偶然耳にした車中での言い争いがもとで殺人事件に関わる。事件を記事にした記者・ジョルダーニと盲目の元記者が、染色研究所に絡んだ連続殺人事件を追って繰り広げられるサイコ・スリラー。

 事件の発端は、染色研究所員がホームから落ちた列車事故。その婚約者や写真を撮ったカメラマンが次々と殺される。その死にざまがとても残酷で、スローモーションや顔のアップで強調されているところは晩年のヒッチにそっくり。のちの作品より大人しめで、目をそらすほどではないところがマニアには物足りないのだろうが、筆者にとっては辛うじて許容範囲。

 ヒッチが好きな金髪美人の役は、今回は所長の娘アンナ。なんとカトリーヌ・スパークが演じていた。10代でデビューして歌手でもあったピチピチ・ギャルの彼女も、本作は26歳の立派な大人の女性だが、何となく中途半端な役割。カーチェイスをしたり、毒入りミルクを飲みそうになったりするが人物描写がされていない。

 脚本もアルジェンドが書いているが、ストーリーや人物描写に緻密さに欠けるのは彼の作品の特徴とか。マニアにとってはシーン、シーンにドキドキするのが最も重要らしい。

 事件に関わる人物が次々殺されて行くと、残るは犯人探しが最大の関心事。終盤犯人が分かって動機を知って納得するが、驚きはそれほどないのが残念。

 見所はカメラが犯人の眼となって、殺人を犯すシークエンスの緊張感で、ナイフ・ハサミ・カミソリがとても巧く取り入れられて露骨な死の瞬間描写とともにヒッチ風。

 これを助けたのはエンニオ・モリコーネの音楽。監督の父と知り合いで近所付合いだったモリコーネは、若いアルジェントのために一肌脱いでくれたようだ。多彩な音を醸し出すモリコーネにとって快作とはいえないが、若い感性に触れるいい機会だったともいえる。

 主演のジョルダーニを演じたのはジェームス・フランシスカ。共演のベテラン、カール・マイデンに喰われてしまった感はあるが、これは大いに脚本のせいでもあった。

「ロング・ライダーズ」(80・米) 80点

2014-07-02 16:05:59 | (米国) 1980~99 

 ・ ウォーター・ヒルと盟友ライ・クーダーの哀感溢れる西部劇。

              

 <西部のロビンフッド>と言われた伝説のジェシー・ジェームズ。ウェスタン・ファンにはおなじみの南北戦争後に実在した無法集団のリーダーで、何度も映画化されている。21世紀に入ってからはコリン・ファレルが「アメリカン・ヒーロー」(01)、ブラッド・ピットが「ジェシー・ジェームスを殺した男」(07)で演じている。

 今回ジェシーを演じたのはジェームズ・キーチで、兄フランクを演じた実兄・ステイシーとともに製作・脚本で本作の中枢に関わっている。

 ミズリー州で起きた銀行強盗はジェームズ・ヤンガー・ミラー兄弟からなる7人の強盗団。彼らは銀行・列車・駅馬車などを襲い、元南軍兵士の無法集団として名を馳せる。鉄道会社が雇ったピンカートン探偵社が一掃を図るが手違いでヤンガー兄弟の従弟が殺され、ジェームズ兄弟の実家で15歳の末弟が殺され泥沼の報復戦となって行く。双方とも住民を巻き込んだ戦いは、終戦間もない南北戦争の収拾がついていないことを窺わせる。

 映画は反権力のヒーロー像を前面に出すのではなく、帰る家や仕事もない若者達のやるせなさを群像劇として捉え、哀感溢れる西部劇として仕立て上げている。ニューシネマ時代の「俺たちに明日はない」(67)、「明日に向かって撃て!」(69)に相通ずる、スタイリッシュなテイストの再来を感じさせた。

 監督のウォーター・ヒルは抒情豊かに破滅の美学を謳いあげ、盟友ライ・クーダーの静謐な音楽と相まって、ニューシネマ時代とは違う個性溢れる西部劇となった。

 W・ヒルが尊敬して止まないサム・ペキンパーを見習って、アクションでのスローモーションを多用した迫力映像が見所のひとつ。なかでもガラス窓に馬ごと突っ込むシーンは印象に残る名シーンだ。

 7人の強盗団をそれぞれキーチ・キャラダイン・クエイドの実の兄弟が演じたのも話題のひとつだが、スター不在のため見分けがつきにくく混乱のもとに。なかではコール・ヤンガーを演じたデヴィッド・キャラダインが主役級の活躍で個性が際立っていた。

 本作を期に絶滅が危惧されていた?西部劇が見直され、アメリカ映画のジャンルとして生き続けるキッカケとなった意味で貴重な作品と言える。