アリの一言 

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ウクライナ戦争「和平案」検証<下>「3・29和平案」の意義

2023年03月06日 | 国家と戦争
   

 ウクライナ戦争の停戦・和平において、ロシア軍の撤退が不可欠であることは言うまでもありません。問題は、ロシア軍がどこまで撤退することを停戦の条件にするかです。

 キッシンジャー元米国務長官は、「軍事侵攻(昨年2月24日)前の国境線まで(戦線を)押し返したら停戦すべきだ」(1月18日、ダボス会議)と主張しました(1月28日のブログ参照)。

 このキッシンジャー提案に、ゼレンスキー大統領は激しく反発しました。

 しかし、「軍事侵攻前の国境線」で停戦すべきだというのは、もともとウクライナ側が提案したものでした。

 3月29日、ウクライナとロシアはトルコの仲介で、イスタンブールで停戦交渉のテーブルにつきました(写真左・中)。ここでウクライナ政府は15項目の和平案を提示。「新たな安全保障の枠組みの実現」を前提に、こう主張しました。

ウクライナは(NATOも含め)軍事的同盟にも参加せず、外国の軍事基地も置かず、永久的な中立国になり、かつ核兵器も保有しない。
クリミア半島については、15年かけてロシアとウクライナで別途協議する。この間、ロシアとウクライナは、軍事的な手段でクリミア問題を解決しようとしない。
(東部の)ドネツク州とるハンスク州の一部の区域(親ロシアはが実効支配していた地域)についての協議も、別途行う」(東大作・上智大教授著『ウクライナ戦争をどう終わらせるか』岩波新書2023年2月より。東氏は写真右=NHKより)

 これは、「2・24」までの国境線を「停戦ライン」とすべきだという主張です。ゼレンスキー大統領は当時、より明確にこう述べていました。

ゼレンスキー氏は(5月)21日のテレビ番組で、「より多くの人々と兵士を救うのが最優先だ」と述べ、戦闘によってロシア軍を2月の侵攻直前の位置まで押し戻せば「わが国にとっての勝利となる」との認識を示した」(5月22日の朝日新聞デジタル)

 ところが、8月になって、ゼレンスキー氏の主張が大きく変わりました。

米国をはじめ西側諸国からの圧倒的な軍事支援を受け、ウクライナの軍事的な勢いが増す中、次第にゼレンスキー政権も「クリミアを軍事的に奪回する」という方針に変更し始める。…3月29日の和平交渉で提示した…立場から、大幅に方針変更したことは明らかである」(東大作氏、前掲書)

「クリミア奪回」を停戦の条件とする限り、戦争終結の見通しは立ちません。

「クリミアの帰属をも軍事的に決着させるということになれば、プーチン大統領が権力を握っている間、また仮に、プーチン大統領が失脚した後も、戦争が続いていく可能性が高くなる」(東氏、同)

「クリミアの奪回」を停戦の条件にすべきではないというのは、実はアメリカの本音でもある、という報道があります。

「米国の著名なジャーナリストのデイビッド・イグネイシャス氏も、1月23日に「ワシントン・ポスト」のコラムで、米国のトニー・ブリンケン国務長官の終戦構想を具体的に示した。すなわち、ウクライナはNATOへの加盟ではなく国防力の強化によって安全保障を達成するとともに、ロシアのクリミア半島領有権を認めるべきだという案だ」(2月21日付朝日新聞デジタル)

 ウクライナがかつて提示した「3・29和平案」は、停戦を実現するうえできわめて有効だったと言えます。
 その案に立ち返り、ロシア軍は「2・24侵攻」以前まで撤退し、クリミア半島と東部2州などの帰属問題は停戦後に協議すべきです。それが1日も早い停戦を実現する道ではないでしょうか。

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