アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「非暴力」という「武器」いまこそ

2023年01月31日 | 国家と戦争
   

 1月30日は「インド建国の父」といわれたマハトマ・ガンディーが暗殺されて75年でした。そのガンディーの「非暴力主義」を研究し、現代に生かす理論を構築したアメリカの政治学者がジーン・シャープ(1928~2018)です。

 NHK・Eテレ「100分de名著」がシャープの主著『独裁体制から民主主義へ』(1994年、ミャンマー民主化闘争のために小冊子として発行。日本では2012年にちくま学芸文庫から瀧口範子訳で出版)を取り上げました(1月9日~30日の4回)。講師は中見真理・清泉女子大名誉教授(写真右)。

「シャープは、インドの独立運動指導者マハトマ・ガンディーの研究を礎として、独自の非暴力論を構築した政治学者です。2018年に90歳で亡くなるまで、一貫して非暴力による社会変革の重要性を訴え、抑圧されてきた人々が自らの手で自由をつかみとる方法を発信し続けてきました。…冷戦終結前後から2010年初頭にかけて世界に広く伝播した非暴力革命に多大な影響を与え、4回にわたってノーベル平和賞の候補にもなっています」(中見氏、番組のテキストから)

 シャープの「非暴力闘争」論の特徴を中見氏はこう解説します。

「非暴力に基づく平和論は、ほとんどの場合、宗教心の深さや強い道徳心を重んじ、非情な弾圧にも屈しない勇者・聖人を高く評価する傾向を持っています。…これに対し、シャープが説く非暴力論は、とりたてて勇敢でも立派でもない「普通の人」が、日常生活の延長として平和活動の一翼を担うことを目指しています。シャープは、非暴力を用いるのは、それが宗教的・道徳的に優れているからではなく、「政治的に賢明な策」だからだと述べています」

 「普通の人」の「日常生活の延長」としての「非暴力」による「平和活動」―それをシャープは「非暴力行動198の方法」として具体的に書いています。たとえば―。

〇旗や象徴的な色を掲げる(その実践がウクライナの「オレンジ革命」2004年など)
〇シンボルを身に付ける(香港「雨傘運動」2014年など)
〇歌を歌う
〇非消費行動を起こす
〇勲章を放棄する
〇沈黙する

 シャープの「非暴力論」は主に国内の「独裁体制」を「民主主義体制」に変革することを念頭においたものですが、他国(大国)による侵攻・侵略に対する対応にも言及しています(番組ではなぜか触れられませんでしたが)。

「自由化された国家は…国外からの脅威にさらされることもあろう。国内での民主主義を維持するためには、国家防衛にも政治的抵抗の原則を適用することを真剣に考慮すべきだ。新たな自由国家は、抵抗の力を市民の手に委ねることによって、軍事力を構築する必要性を回避することができる。軍事力はそれ自体が、民主主義を脅かしたり、本来ならば他の目的に向けられるべき多大な経済的資源を奪ったりするものだ」(『独裁体制から民主主義へ』ちくま学芸文庫版)

 さらにシャープは、「非暴力闘争」が市民を民主主義的に鍛えることを重視します。

「独裁者を弱体化して取り除くだけでなく、抑圧された人々にパワーを与えるのも非暴力闘争の効果のひとつである。この手法は、それまで自らを人質や犠牲者としてしか自覚できなかった人々が、奮闘して大きな自由と正義を勝ち取ることに直接力を注ぐのを可能にする。この闘争経験は、かつては無能と感じていた人々の自尊心や自信を高めるのに貢献するという、心理的な効果をもたらすものだ」(同)

 中見氏は講義の締めくくりとして、「ロシアのウクライナ侵攻」に関連し、テキストにこう書いています(番組では触れられず)。

ロシアがウクライナに侵攻して以来…急速に軍事に傾斜する動きもみられますが、それが長期的にみて賢明な策かどうかをよく考えてみる必要があるでしょう。私たちは一人でも多くの人命を、そして地球環境を守っていかねばなりません。暴力連鎖を激化させることによって、その課題が果たせるでしょうか。民主主義と自由の基盤を強化し、暴力連鎖を少しでも逆転させていくことができるよう、シャープの非暴力論に学んだことを実践していく必要があります

 シャープの「非暴力闘争」論にも弱点はあります。中見氏は、「アメリカ型民主主義の評価」「部分的暴力闘争の容認」を指摘しました。私は、シャープもまた「国家」という枠組みを前提としており、それを越える理論でないことを残念に思います。

 そうした不十分点はあるものの、ウクライナ戦争を機に日本をはじめ急速に拡大している軍拡・武力闘争(徹底抗戦)至上主義に対抗する理論と実践の手引きとして、シャープの「非暴力闘争」論を学び、発展させることはきわめて重要だと痛感します。
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