アリの一言 

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差別抗議を禁止するIOC決定は五輪憲章違反

2020年06月13日 | 五輪と政治・社会・メディア

    
 アメリカの白人警官による黒人男性殺害事件に端を発した差別反対運動は世界中に広がっています。人種差別への抗議を示す片膝をつく行為も各地で見られますが、国際オリンピック委員会(IOC)は五輪でこれを禁止することを決めています。

 「IOCは今年1月、(五輪)憲章第50条の当該条項について具体例を示したガイドライン(指針)を発表し、米プロフットボールNFLで人種差別に抗議するため国歌斉唱の際に一部選手が行った膝つき行為は認めないと明文化した」(9日付各紙【ジュネーブ共同】)

 五輪憲章第50条とは、「オリンピックの用地、競技会場、またはその他の区域では、いかなる種類のデモンストレーションも、あるいは政治的、宗教的、人種的プロパガンダも許可されない」とする規定です。膝つき抗議がこれに該当するというわけです。

 このガイドラインは容認できません。差別に対する抗議行為を禁止する権限はIOCにはありません。禁止することは五輪憲章の根本精神にも反しています。

 五輪憲章の根幹は「オリンピズムの根本原則」です。それは7項目からなっており、第2項で、「オリンピズムの目的」を「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指す」こととしています。

 さらに第6項でこう明記しています。
 「このオリンピック憲章の定める権利および自由は人権、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない」(JOCのHPより)

 「オリンピズムの根本原則」は、「いかなる種類の差別」にも反対することなのです。
 第50条の「デモンストレーション」「プロパガンダ」とは、特定の政治・宗教思想の普及活動と解するべきです。人種差別をはじめあらゆる差別への反対・抗議は、「人間の尊厳」に基づく人類普遍の権利=自然権であり、特定の政治・宗教思想ではありません。人種差別はじめあらゆる差別に反対し抗議することはむしろ「オリンピズムの根本原則」に沿うものといえるでしょう。

 さらに五輪憲章は、第6章「オリンピック競技大会」の第1項でこう明記しています。
 「オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない

 「国家間の競争ではない」とは、本来ナショナリズムとは無縁だということです。それは過去にオリンピックが国威発揚・国際政治の具になった苦い歴史による教訓のはずです。その原点に立てば、そもそも表彰式で国旗を掲揚し、国歌を流すこと自体が五輪憲章とは相いれないのです。人種差別を容認する国家に抗議して国歌斉唱に膝をつく行為はこの点からも禁止されるどころか五輪憲章の精神に沿った行為と言えるのではないでしょうか。

 IOCは1月に決定したガイドラインを撤回すべきです。そして、人種差別はじめあらゆる差別・ナショナリズムに対する抗議行動―膝つき行為や国旗掲揚・国歌斉唱に対する抗議を含め―を禁止するべきではありません。
 そうでなければ、誘致をめぐる賄賂疑惑に染まり、商業主義に侵されているIOCの「反五輪憲章」体質、オリンピックの国家主義はいっそう深まることになるでしょう。

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