アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

京大と「731部隊」「盗骨」そして「学知の植民地主義」

2023年11月30日 | 侵略戦争・植民地支配の加害責任
   

 京都大学の学園祭(11月祭、22~25日)で、「731部隊と京大」と題したパネル展企画がありました(企画・社会科学研究会ピース・ナビ)。
 関東軍の防疫給水本部として中国人、朝鮮人らを人体実験で虐殺し、細菌兵器などを研究開発した731部隊。統括していた石井四郎は京都帝国大学(現京大)医学部出身です。

 「戦前と戦中の京大医学部」のタイトルのパネルが目を引きました。滝川事件(1933年)で政府の側に立って滝川幸辰教授の追放を主張した戸田三郎医学部長は、文部省の科研費を審査する委員に就任し、京大への資金助成に便宜を図りました。同時に文部省から京大医学部に対し、悪性腫瘍、癩、航空医学、体力医学、放射線、薬毒物に関する軍事研究を進めるよう要請がありました。京大(医学部)と政府・軍部の癒着は石井四郎だけではなかったのです。

 パネルの前には11月23日に提出されたばかりの湊長博京大総長宛ての「要望書」が置いてありました。京大や同志社大の教授らの連名による「琉球民族遺骨返還訴訟の判決を受けての要請書」です。

 1929年、京大医学部の金関丈夫助教授、三宅宗悦講師が「研究のため」と称して、琉球人の遺骨を持ち去った「盗骨事件」に対し、大阪高裁が「持ち出された先住民の遺骨は、ふるさとに帰すべき」と指摘した画期的判決(9月22日)。その後も京大は遺骨を返還しないばかりか、原告の遺族らと面会さえしようとしていません(9月25日のブログ参照)。

 「要望書」はこう指摘しています(抜粋、改行は私)。

「京都大学は判決のことばを重く受け止めてください。まず、最低でもこの訴訟の原告らと、判決を踏まえてあらためて直接協議の場を設け、遺骨の「ふるさとで静かに眠る権利」(高裁判決)を実現する方策を探るべきです。

 それだけではありません。過去の<学知の植民地主義>の産物である遺骨収集について、自ら率先して洗い出し、その全貌を明らかにし、謝罪と原状回復のために尽力すべきです。

 京都大学はこれ以外にもさまざまな問題を抱えています。過去の<学知の植民地主義>のうえにいつまでも居座りつづけるのか、それとも、たいへん遅ればせながらも、そこからしっかり決別して新たな学知の道を歩もうとするのか、その岐路に立たされているのです」

 「要望書」を提出した1人、同志社大の板垣竜太教授は先に琉球新報に掲載された論稿でこう述べていました。

「近代日本の植民地主義は、数多くの禍根を各地に残した。そのほとんどのものは、残念ながら、もはや取り返しがつかない。しかし、遺骨問題は、そうした植民地主義がもたらした諸問題のなかでも、原状回復に近いことが可能だという希有な事例である。学問の遅ればせの脱植民地化のためにも、京都大学は自ら率先して真相究明をおこない、真摯な謝罪とともに原状回復に尽力し、他の研究機関に対して範を示すべきである」(10月7日付琉球新報)

 「731部隊」の亡霊は今も消えていません。国家権力が誘導する軍事研究と決別し、学問・研究の自由を守ることができるのか。「学知の植民地主義」から脱却することができるのか。岐路に立っているのは京都大学だけではありません。
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