アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「ホームレス」不可視化と「排除アート」

2024年08月03日 | 差別・人権
   

 五輪が開催されているパリを含む地域では、昨年3月~今年5月までに約1万2500人の「路上生活者」らが退去を命じられたといいます(2日付京都新聞夕刊=共同)。
 五輪開催時の「ホームレス」追放は3年前の東京五輪でも行われました。明らかな人権侵害であり、政治・行政の欠陥を隠ぺいするものです。

 重要なのは、こうしたあからさまな追放だけではなく、気づかれにくい形で「ホームレス」を排除する社会がつくられてきていることです。

 厚労省の調査(1月時点)では、「ホームレス状態の人」は全国で2820人、過去最少とされています。
 しかし、労働や貧困問題に取り組んでいるNPO法人「POSEE」が7月19日発表した調査結果では、国の調査が把握していない「若者の見えないホームレス化」が進んでいます(7月19日付朝日新聞デジタル)。

 「POSEE」では路上生活者だけでなく、ネットカフェ生活の人、家族からの暴力などで安心して暮らせない人ら、安心できる住居がない人も支援が必要な「ホームレス状態」と定義しています。「POSEE」が昨年度受けた10~30代からの相談は304件で、その半数近い139件が「ホームレス状態」の人からだったといいます。

 非正規など不安定な雇用も「ホームレス状態」に結びついています。生活保護を申請しても、「若いから働けると言われた」など生活保護をめぐる問題も浮き彫りになっています。

 問題はこうした政治・行政の無為・差別性だけではありません。

 公園やバス停留所などに仕切りのついたベンチが置かれています。あの仕切りは何のためでしょうか。効率よく座るためと思いがちですが、主な目的は「ホームレス」が横になれなくするためです。

 NHKニュース(6月18日)によれば、「仕切りベンチ」は約30年前に特許申請されました。その申請書には、「目的 公園等に固定設置しても、浮浪者などがベッド代わりに使用できず…」と書いてあります(写真中)。

 「ホームレス」の人々などを支援しているNPO法人「抱樸」の奥田知志理事長は、「ベンチはホームレスの人と支援者の出会いの場だった。(仕切りベンチによって)ホームレスが見えなくなり、対話もなくなる。知らず知らずに(ホームレスを)排除している」と指摘しています(6月18日のNHKニュース)。

 知らず知らずにホームレスを排除しているのは「仕切りベンチ」だけではありません。街には「ホームレス」が横になれないようにデザインされている公共物が随所にあります(写真右)。デザインで「ホームレス」などを寄せ付けない。これが「排除アート」です(2022年10月21日のブログ参照)。

 五十嵐太郎・東北大大学院教授(建築史・理論)はこう指摘します。

「おそらく、通常の生活をしている人は、仕切りがついたことを深く考えなければ、その意図は意識されないだろう。言葉で「~禁止」と、はっきり書いていないからだ。しかし、排除される側にとって、そのメッセージは明快である。つまり、排除ベンチは、言語を介在しない、かたちのデザインによるコミュニケーションを行う。禁止だと命令はしないが、なんとなく無意識のうちに行動を制限する。これは環境型の権力なのだ」(五十嵐太郎著『誰のための排除アート? 不寛容と自己責任論』岩波ブックレット2022年)

 「排除アート」で「ホームレス」を不可視化する社会。「環境型の権力」。それは軍拡と表裏一体の福祉の貧困を隠ぺいするとともに、市民を「無意識の排除者・差別者」にする戦争国家化の表れと言えるでしょう。

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