アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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大学授業料値上げと戦争への無反省

2024年08月10日 | 日本の政治・社会・経済と民主主義
  

 日本私立大学連盟は7日、大学教育への財政支援に関する提言を公表し、「2兆円規模の教育国債」の創設を提言するとともに、国立大学授業料の値上げを要求しました。「国立大と私立大の授業料格差を是正するため」(8日付京都新聞=共同)です。

 慶応大の伊藤公平塾長は「国立大の授業料を150万円程度引き上げるべきだ」と発言しました(3月の中教審)。東京大は約2割の値上げを検討中です(写真は東京大キャンパス・6月=朝日新聞デジタルより)。

 私立大学への公的支援の強化を要求するのでなく、国公立大の授業料値上げで「格差是正」をはかろうとするのは本末転倒です。

 自身「貧困層から公立大に進学した」ライターのヒオカ氏はこう指摘します。

「国立大は私立大に比べれば大幅に授業料が安いため、貧困層の大学受験において、公立を含め命綱といえる存在だろう。その授業料を上げれば、格差がさらに拡大することは容易に想像が付く」(7日付朝日新聞デジタル)

 日本の教育への公費支出が極端に少ないことは周知の事実です。経済協力開発機構(OECD)の最新資料(2020年分)で教育費に占める公的負担と私費(家計など)負担の割合をみると、日本は公的負担が38%に対し私費負担は51%(OECD平均は22%)で、データのある38カ国中ワースト4位です(7月15日付朝日新聞デジタル)。

 なぜ日本は大学授業料はじめ教育費への公的負担(財政支出)が極端に低いのでしょうか。

 世界の学費事情に詳しい園山大祐・大阪大教授(比較教育社会学)は、朝日新聞のインタビューで、「国立大学が多い欧州各国を見ると、授業料を取るのはむしろ例外で、ほぼ無料に近い国が大半です」と指摘。欧州で学費が公費でまかなわれている国が多いのはなぜか、という質問にこう答えています。

<「教育は社会で責任を持つものだ」という考え方が根付いているためでしょう。それは、過去の戦争への反省から来ているとも言われます。つまり、国家は政府の政策を科学的に判断できる市民を育てる必要があり、そのためには、意欲と学力がある者が経済的理由から教育を受けられないということがあってはならない、という理念です。

 日本には、経済的理由で退学を余儀なくされる学生が毎年いますが、欧州からの留学生は「日本には救済する手立てはないのか」と驚きます。…欧州の学生は勉強が忙しくてアルバイトをする時間がありませんが、様々な学割があり、住宅手当を受けることもできます。

 日本の場合、公教育の平等主義は徹底していますが、それ以上を求める場合は家庭がお金を払って塾や家庭教師をつけることが当たり前だと考えられています。このため、教育とは自分や親の努力によって獲得する「個人のもの」という意識が強く、社会の将来を担う力を育てる公共性の高い営みであるという認識が弱いと思います。>(7月15日付朝日新聞デジタル)

 日本(政府も市民も)が侵略戦争・植民地支配の歴史に無反省なのは様々な面で顕著ですが、教育への公費支出のとび抜けた弱さの根底にも、戦争への無反省があるという指摘です。

 それは、同じく戦争への無反省による大軍拡(軍事費膨張)が福祉・教育予算を圧迫していることとまさに表裏一体の関係と言えるでしょう。

 私立大学関係者も、国公立大学関係者も、そして市民も、侵略戦争・植民地支配の歴史の反省に立って、「軍事費を削って教育へ回せ」と政府に要求すべきです。

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