アリの一言 

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ゼレンスキー氏が停戦拒否の口実にする「ミンスク合意」の真相

2024年08月02日 | 国家と戦争
   

 ウクライナのゼレンスキー大統領はNHKの単独インタビュー(7月29日放送)の中で、なぜ即時停戦に応じないのかについて、「ミンスク合意の教訓」だとし、「(ミンスク合意は)停戦を重視するあまり、結果的に領土を占領された」「ウクライナの新しい国境線を固定化させるものだった」などと述べました(写真中、右)。

 この主張は正当でしょうか。

 「ミンスク合意」とは、2014年の親米派による「マイダン革命(クーデター)」に端を発したウクライナ東部の戦闘をめぐるロシアとウクライナの停戦合意で、「ミンスク合意Ⅰ」(2014年9月5日)と「ミンスク合意Ⅱ」(2015年2月11日)があります。

「ミンスク合意とはウクライナとロシアによる和平合意で、ウクライナ東部における即時停戦と重火器撤去、さらにウクライナの憲法を改正し、ドンバス地方に特別な法的地位を与えることを規定したものである。欧州安全保障協力機構(OSCE)の援助の下、ベラルーシの首都ミンスクで調印されたので「ミンスク合意」と呼ばれている。

 このOSCEとは…欧州での地域的集団安全保障なので敵味方の区別はなく、同機構にはロシアもウクライナも加入している。

 さらに2015年2月には、ミンスク合意Ⅱが締結された。同じくOSCE監督の下で結ばれた停戦協定だが、こちらはフランスとドイツが国際的に仲介しており、同年2月にデバリツェボの戦闘でウクライナ側が敗北した後に締結された。

 このときオバマ(米)大統領も、マイダン革命における米政府の関与をCNNのインタビューで認めている。(中略)

 大統領就任(2019年5月)当初のゼレンスキーは、ミンスク同意Ⅱの和平案を促進するかと思われた。ところが2019年末には対ロ強硬派の主導により、ゼレンスキーはNATO早期加盟へと態度を豹変させる。その背景には民族右派やネオ・ナチの圧力に加え、大統領の人気低下もあった」(下斗米伸夫・法政大名誉教授著『プーチン戦争の論理』集英社インターナショナル新書2022年10月)

 さらに、「ミンスク合意Ⅱ」には、ドイツ、フランス(NATO)の驚くべき政治的策略がありました。

<ミンスク合意の調停者の一人だったメルケル前ドイツ首相が2022年12月7日に掲載されたドイツの「Die Zeit」紙のインタビューで次のように語ったのです。

「2014年のミンスク合意はウクライナの時間稼ぎためのものだった。ウクライナはこの時間を使って、今日ご覧のように強くなった

 つまり、ミンスク合意はウクライナが軍事力を強化するための時間稼ぎに過ぎなかったと告白したのです。…フランスのオランド前大統領もメルケル氏の発言を認めており、「地政学的な状況はウクライナにとって有利ではなく。西側諸国は一息つく必要があった」と述べています。

 何のことはない、ロシア以外のミンスク合意に関する西側当事国は、揃いも揃って、もともとミンスク合意など守る気もなく、ウクライナの軍事強化のための方便として利用したに過ぎなかったのです。>(安斎育郎・立命館大国際平和ミュージアム終身名誉館長『ウクライナ戦争論』安斎科学・平和事務所発行2023年6月20日)

「2022年12月、(ミンスク)合意締結に関わったメルケル前独首相とオランド前仏大統領が、実際は将来の対ロ戦争へ向けて、ウクライナ軍増強のための時間稼ぎの口実に過ぎなかったと証言した。…このような対米従属に、モラルハザードの深刻化が見えてくる」(荻野文隆・東京学芸大名誉教授「泥沼化するロシア・ウクライナ戦争をどう見るか」藤原書店発行月刊「機」2024年2月号所収)

 「ミンスク合意」はウクライナが対ロ戦争へ向けて軍備を増強するための時間稼ぎだった―ゼレンスキー氏がいま、またしても「ミンスク合意」を口実に即時停戦を拒否しているのは、“軍備増強のための第2の時間稼ぎ”と言えるのではないでしょうか。

 ロシア、ウクライナ双方とも、直ちに停戦協議のテーブルにつくことが求められます。

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